スターリンク(Starlink)は、イーロン・マスク率いるスペースX社が展開する衛星インターネットサービス。低軌道に打ち上げた6000基以上の小型衛星を活用し、世界60カ国以上で高速インターネット接続を提供している。地上局が不要なため遠隔地でも利用可能。ウクライナ危機での通信確保や災害時の緊急通信システムとしても注目を集めている。
政府許可が得られない背景
台湾は高速衛星ネットワークの代替案構築には極めて高いコストと課題が伴うことを認識している。しかし、台湾当局者は「マスク氏を信頼していない」と明言。マスク氏は昨年、台湾を「中国のハワイ」「中国の不可分の一部」と称したことがある。これに対し外交部の劉永健報道官は「マスク氏の自由な意識が『for sale(販売中)』なのかは分からないが、台湾は『not for sale(売り物ではない)』、that's for sure(それは確かだ)」と応じた。
ロシアのプーチン大統領も「習近平国家主席への配慮」としてマスク氏に「台湾でスターリンクサービスを開始しないよう」求めていた。これらの争点についてマスク氏とSpaceXはウォール・ストリート・ジャーナルのコメント要請に応じなかったが、SpaceXはXで、台湾での未運営は許可が得られていないためで、「ロシアや中国とは無関係」と強調した。同紙は、衛星ネットワークの価値はウクライナ戦争の全面化後に顕在化し、ウクライナ軍の作戦展開や民間人の外部との通信維持を可能にしたと指摘した。
ワシントンのシンクタンクCSISのカリ・ビンゲン氏は、ネットワークの強靭性は台湾で広く議論されているテーマだと述べた。国防安全研究院のサイバーセキュリティ・国防研究員の曾怡碩氏は、ウクライナ戦争の教訓は台湾にとって極めて重要で、台湾も外部との全ての連絡が遮断される可能性があると指摘した。スターリンクは大規模な衛星群と柔軟なネットワーク構造を持ち、一部の衛星が失われても正常なサービスを維持できる。しかし台湾は現在、スターリンクの代替案を開発し、島内2400万人の通信確保を目指している。
独自の通信網整備へ
デジタル発展省によると、現在の取り組みには衛星技術、マイクロ波ネットワーク、海底ケーブル、モバイルネットワークが含まれる。中華電信は昨年、スターリンクの競合であるEutelsat OneWebと協定を結び、台湾に低軌道衛星の接続サービスを提供することになった。今年の花蓮地震後には、OneWebの衛星が基本的な電話とインターネットサービスを提供した。しかし、国防部関係者は台湾にはさらに多くの通信帯域が必要だと指摘し、顧立雄国防部長も先週、立法院でOneWebは台湾の作戦要件を満たせないことを認めた。
賴清德総統は79億米ドル規模の次世代通信産業発展計画を提案し、宇宙分野の自給自足を重点の一つとした。国家宇宙センターは2027年までに台湾初の国産低軌道通信衛星の打ち上げを計画している。同センターの呉宗信主任はメディアで、台湾はスターリンク規格の衛星を少なくとも120基必要だと述べた。政府の取り組みに加え、鴻海も昨年11月にSpaceXのロケットでPEARL-1HとPEARL-1Cの2基の衛星を地球低軌道に打ち上げ、通信研究を進めている。
編集:佐野華美
台湾ニュースをもっと深く:風傳媒日本語版Xをフォロー👉 @stormmedia_jp