地政学的な大規模衝突が中東・ロシア・ウクライナにとどまらず、「超大国」間での戦争の可能性が高まる中、米軍は特に陸軍の戦闘能力の強化を積極的に進めていた。10月、米陸軍はハワイで大規模演習を実施し、台湾への水陸両用攻撃は危険な賭けになるとの警告を中国軍に送った。ニューヨークタイムズは、11月の大統領選の結果に関わらず、米国は対中備戦態勢を継続すると指摘。
米軍はこれまでアジアでの紛争対応について海軍・海兵隊を重視し、陸軍は過去20年間、中東やアフガニスタンでのテロ対策に従事してきた。しかし、中国を仮想敵とした場合、中国側の優れた衛星偵察能力を考慮し、米陸軍は行動を秘匿する必要があった。
ハワイの火山地形で「大国間戦争」演習を実施
米陸軍は10月、ハワイ島の3つの火山間で「大国間戦争」(Great Power War)演習を実施。陸軍兵士は砂漠向けの迷彩服から、ジャングルに溶け込む緑系の迷彩服に着替えた。
ある朝、アラスカの基地からC-17輸送機に864名の空挺兵が搭乗したが、無事着地できたのは492名のみだった。複数のC-17で機体の不具合が発生し、多くの兵士が緊急跳躍を強いられ、頭部や足に負傷者が出た。二等兵のパティダ氏は1200フィートの高さから落下、主副両方のパラシュートが開かなかった。脊椎を損傷したものの、意識は清明で一命を取り留めた(歩行の可能性は不明)。
第25歩兵師団の兵士は日本、豪州、インドネシアなど同盟国部隊とともに、ロープを使って渓谷に降下し、湿潤な環境の中で這い上がった。約28マイル離れた真珠湾では、後方支援艦が太平洋戦争に必要な軍事装備と部隊の輸送を試みた。この状況から、米陸軍が数十万人の若い男女兵士の作戦転換を積極的に進めており、この「大国間戦争」演習が中国軍との開戦を想定していたことが分かった。
中国軍の台湾侵攻なら、アジア太平洋同盟国の対米信頼揺らぐ
戦略国際問題研究所(CSIS)のセス・ジョーンズ上級副所長は、中国による台湾侵攻の成功は、アジア太平洋地域全体に大きな影響を及ぼすとの見方を示した。同地域における軍事的主導権が米国から中国へ移行し、第二、第三の波及効果を引き起こす可能性があるという。太平洋地域の同盟国は米国の抑止力への信頼を失い、中国との安全保障協定を模索する可能性があった。
第二次大戦中、日本統治下の台湾に対し、米統合参謀本部は侵攻計画を立案。対日攻撃の前進基地として活用する構想だった。しかしマッカーサー元帥は、係争海域の横断や複雑な地形での戦闘というリスクを指摘し、反対したという。
米陸軍の計画立案者の多くは、中国軍が台湾への水陸両用作戦の準備を整えているとは考えていなかった。米陸軍太平洋軍司令部作戦部長のジェフリー・バンアントワープ氏は、防備の整った台湾への侵攻には大規模な軍事力の集結が必要で、台湾海峡横断時の大型輸送船は攻撃を受けやすいと指摘した。
大規模上陸部隊なしでは台湾制圧は不可能
軍事計画立案者は、中国軍が軽型水陸両用艦艇で台湾の橋頭堡確保を試みる可能性があるが、機雷原を通過せねばならないと述べた。空中突撃部隊がインフラを標的にする可能性はあるものの、地上部隊なしでの台湾制圧は不可能とした。バンアントワープ氏も、大規模上陸部隊なしでの侵攻成功は困難との見方を示した。
一方、匿名の米当局者によると、中国は民間フェリーの軍事転用を進め、海峡での部隊・装備輸送に備え、浮桟橋も建設中だった。
米陸軍は現在45万人の現役兵力を保有し、その4分の1以上が太平洋地域に展開していた。しかし太平洋地域は広大で、日本、韓国、フィリピンだけでなく、アラスカ、ハワイ、ワシントン、オレゴン、カリフォルニアも含む。台湾はワシントン州タコマ近郊の基地から6000マイル以上離れており、陸軍はこれを「距離の暴政」(tyranny of distance)と呼んでいた。
米国防総省は台湾の防衛システム構築支援の詳細には言及を避けたが、水陸両用作戦は容易ではないと中国に示威する方針で、これは米軍の抑止計画の一環だった。
編集:佐野華美
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