低価格戦略で中国eコマース市場を席巻
1980年生まれの黄崢氏は、中国の改革開放期に育った典型的な成功者だ。2015年、35歳で創業した拼多多は、「農村包囲都市」戦略を採用。WeChatの友達サークルを活用した独自の「グループ購入」モデルで、急速に市場シェアを拡大した。
「庶民のための」eコマースプラットフォーム
黄氏は「上海の人々をパリジャンのように感じさせるのではなく、安徽省の人々にキッチンペーパーと新鮮な果物を確保すること」を目標に掲げた。この庶民重視の姿勢が、中国の広大な市場で支持を集めた。
Temuブランドで世界市場に進出
2022年9月、拼多多の親会社PDDは米国でTemuを立ち上げ、わずか1年で5200万人の月間アクティブユーザーを獲得。「億万長者のように買い物を」というキャッチフレーズで、60カ国以上に展開している。Omnisendの調査によると、米国の消費者の3分の1が月に1回以上Temuで買い物をしているという。
政府との良好な関係を維持
黄氏は、アリババ創業者の馬雲氏の轍を踏まないよう慎重な姿勢を保っている。習近平国家主席の「共同富裕」政策に呼応し、PDDの2.4%の株式を慈善団体に寄付。さらに、7.74%の株式を拼多多のパートナー集団に譲渡し、数千億元相当の株式を手放した。農村部の貧困撲滅を優先課題とし、共産党の方針に沿った経営を行っている。
「静かに大金持ちになる」戦略
40代前半で最前線から退いた黄氏は、2021年にCEOを辞任し、その後取締役会議長も退任した。現在は食品と生命科学の研究に没頭し、母校の浙江大学の農業研究に1億ドルを寄付したという。2021年以降ほとんど公の場に姿を現していない黄氏だが、フォーブス中国長者番付によると、2020年時点で3210億元の資産を持ち、マー・フワトンの3640億元に次ぐ2位だった。しかし、一連の株式寄付や役職辞任により、意図的に「中国首富」の座を避けているようだ。
黄崢氏の成功は、中国のテック企業が政府との良好な関係を維持しつつ、いかにグローバル展開できるかを示す好例となっている。その「静かな成功」は、中国のビジネス界に新たなモデルを提示しているといえるだろう。
編集/高畷祐子