27日の衆議院選挙で、長年政権を担ってきた自民党と公明党による連立与党が過半数割れという結果となった。この結果により、現職の石破茂首相・自民党総裁の続投に暗雲が立ち込めている。台湾への潜在的な影響として、石破茂首相が以前から提唱してきた「アジアNATO構想」による対中抑止力の行方が注目される。
石破茂氏が首相職を継続できない場合、日台関係はどうなるのか。政治大学国際事務学院の李世暉教授は、「アジアNATO構想」の実現は困難としながらも、日台関係はすでに民主主義的価値観に基づく選択となっており、誰が首相になったとしても、その関係を覆すことは難しいと分析している。
【アジアNATO構想とは】インド太平洋地域における安全保障協力強化を目指す構想。石破茂首相が提唱する、NATO(北大西洋条約機構)をモデルとした地域同盟構想。域内諸国による集団防衛体制の構築を通じて中国の軍事的影響力拡大を抑制することを目的とする。加盟国への攻撃を全体への攻撃とみなす集団防衛の仕組みだが、朝鮮半島問題や台湾海峡問題など、複雑な地域情勢への対応が課題とされる。
台湾公共策益などの民間団体は、日本の選挙前となる今月23日夜に「水曜若者の日」第76回として、「台湾有事か日本有事か?—日本新政局の変化と継続性」をテーマとする討論会を開催。複数の専門家を招いて日台関係について分析を行った。
李世暉:台湾の人々はここ10年で日本の重要性に気づいた
李世暉教授によると、台湾市民にとって「日本の重要性」という認識は、ここ約10年で形成されてきたという。それ以前は日本への好感度は高かったものの、「日本が台湾にとって重要」という認識は薄く、「米国の重要性」ほどの認識は一般市民の間になかったとしている。
日本側について李教授は、過去において台湾を重視する、あるいは台湾の出来事が日本と密接に関連しているという認識を行動で示すことは少なかったと分析する。しかし、過去10年間で台湾人が日本の重要性を認識し始めた背景には、安倍晋三首相の存在があったという。従来の日台関係は関税や貿易協定などの実務的な案件に限定されていたが、安倍晋三首相の就任後、日台関係は戦略的なレベルにまで引き上げられることとなった。
李世暉:アジアNATO構想の実現は困難
李教授はさらに、これまで台湾関連の案件は外務省のみで決定されてきたと指摘する。「外務省内で台湾政策を主導してきたのは中国派だった」ため、日台関係の突破口を開くことは困難だった。しかし、日台関係が首相レベルに引き上げられたことで構造的な変化が生じ、その後の岸田文雄首相、石破茂首相の政策にも引き継がれることとなった。
石破茂首相が提唱する「アジアNATO構想」について、李教授は実現の困難さを指摘する。仮に「アジアNATO」が実現した場合、朝鮮半島問題と台湾海峡問題の両方に対処する必要があるためだ。しかし実現の困難さは別として、李教授は石破茂首相の構想が安倍晋三首相とは異なる特徴を持つと分析する。
安倍首相の「台湾有事は日本有事」という比較的受動的な対応に対し、石破首相は「台湾の安全が日本の安全」というより積極的な姿勢を示している。石破首相は台湾有事の防止だけでなく、台湾の安全確保を目指している。これは両首相の地域情勢に対する理解と対応策の選択の違いを表していると李教授は分析している。
世論調査:日本国民の7割が台湾海峡での武力行使に反対
李教授は、日本の対台湾姿勢を議論する際、政治家だけでなく国民の意見にも注目する必要性を強調する。複数の世論調査によると、約7割以上の日本国民が台湾有事の際の自衛隊派遣に反対している。そのため、「台湾有事の際に日本が必ず軍事介入する」という想定は、日本国民の声を完全に無視したものだと指摘する。
「親中派」の新首相が誕生した場合、日台関係は悪化するのではないかという懸念について、李教授は現在の構造的な観点から、誰が首相になっても日台関係を根本的に変えることは困難だとの見解を示す。現在の日台関係はすでに民主主義的価値観に基づく選択となっており、政治家が日台関係を損なう行動をしたり、突然方針を変更したり、台湾を裏切るような行為をした場合、多数の有権者の支持を得ることは困難だという。
そのため、日台関係は少なくとも現状を維持し、さらに台湾問題が首相の施政優先課題として位置づけられれば、関係のさらなる進展も期待できると李教授は分析している。
編集:高畷祐子
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