2020年東京五輪のメインスタジアム「新国立競技場」は、温かみのある木材と夏の陽光が織りなす、森のような雰囲気を醸し出している。その立役者は日本の建築家・隈研吾である。彼が「引き算の建築」の理念を貫いたからこそ、「生命の木(Living Tree)」のような新しい競技場が実現している。隈研吾の7つの作品を通じて、その建築の特徴と魅力を理解し、その奥深さを味わってみよう。
災害から見直された「引き算の建築」:環境が主役、建築は脇役
日本を代表する建築家・隈研吾。フィンランド・イタリア・日本など多国の建築賞を受賞しており、現代の多くの建築家の新奇で派手な様式とは異なり、水・石・竹・木・土・和紙などの自然素材を巧みに使用し、「積層」「寄り添い」「編み込み」「膨張」という4つの概念で建築を再定義・再解釈している。控えめで落ち着いた様式で、和風・東洋の禅の精神・自然環境を融合させた作品を設計し、細部に宿る美を伝えている。
隈研吾にとって、20世紀末の様々な前衛的建築様式は外観を重視しすぎて本質を見失っていた。阪神大震災から9.11テロ、3.11大震災まで、現代建築の物理的な欠陥と脆弱性が露呈された。これを踏まえ彼は建築と人との関係について深い考察を提示した——「象徴的意味も視覚的要求も追求しない建築は可能だろうか?」このような悲観的な雰囲気の中で生まれたのが「引き算の建築」である。建築は脇役、環境が主役という主張で、地域の素材を活用し、環境に優しい設計で建築を通じて土地の声を伝え、時間や自然と共存する持続可能で調和のとれた道を見出そうとしている。
東京五輪メインスタジアム:森の光、香り、色彩が競技場に溶け込む
隈研吾は「私は自分のデザインスタイルを場所に押し付けるのではなく、それぞれの場所からインスピレーションを得て、自然に異なる姿の建築を作り出したい」と述べている。そのため「新国立競技場」は日本の地元素材を選び、最小限の環境負荷で明治神宮の周辺の緑地と調和する形で改築され、隈研吾の作品への願い——環境との調和的共存を示している。
隈研吾は「目で見るだけでなく、足・耳・鼻・口など全身を使って、その場所の光・風・音・香りを感じ、その場所と交流することが大切」と語っている。新競技場の屋根から差し込む光は、木々の間から漏れる陽光のようであり、座席は濃茶・濃緑・グレー・黄緑・白色がランダムに配置され、上から見ると落ち葉を連想させる。木材の香りが臨場感を高め、森のような雰囲気を作り出している。
スコットランドV&A美術館:河岸に停泊する船のように
テイ川沿いに位置する世界的な美術館V&Aダンディー分館は、オークニー諸島の海蝕崖の景観からインスピレーションを得ている。粗い質感のコンクリート板が異なる角度で水平に重ねられ、豊かな陰影と変化を持つ「断崖」を形成。建築の中央部の空間デザインと相まって、まるでスコットランドの海を眺めているかのような体験を生み出している。
隈研吾は、建築は環境の妨げとなるべきではなく、人と環境をつなぐ架け橋であるべきだと考えている。ダンディー分館の外観は、岸辺に停泊し出航を待つ船のようで、街と川、海と陸の対話を体現し、通りと水辺、都市と自然を再びつなぎ合わせ、自然の神秘的な造形への最高の注釈となっている。
デンマーク・アンデルセン博物館:迷路のような庭園の中の童話世界
デンマークに最近オープンした新しいアンデルセン博物館は、「引き算の建築」の理念を体現し、温かみのある木材と豊富な緑を組み合わせ、童話のような森の空間を作り出している。アンデルセンの『火打ち箱』からインスピレーションを得て、建物全体の3分の2が地下に位置しており、訪問者はまるで童話の中に入り込み、物語の兵士となって地下の不思議な世界を探検するような体験ができる。
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角川武蔵野ミュージアム:幻想的な8メートルの本棚シアター
埼玉県所在の角川武蔵野ミュージアムは、日本初の美術館、図書館、博物館を融合した複合施設である。全体が巨大な岩のように見え、2万枚の山東花崗岩の石片で構成され、外観は圧倒的な存在感を放っている。
館内では至る所に有名出版社・角川が手掛けたアニメや小説が展示されている。特に4階と5階にある「本棚シアター」は大きな話題を呼んでおり、8メートルの空間に35万点の作品が収蔵され、3分間の光と音楽のショーが定期的に上演される。この幻想的な空間は人気の撮影スポットとなっている。
台湾にも隈研吾作品:檜材を積み重ねた白石画廊
台北内湖区にある白石画廊は、隈研吾が初めて手掛けた画廊デザインである。画廊は一般的に「ホワイトキューブ」と呼ばれ、純粋で明るいアートの展示空間を指す。各観客の独自の美的体験を妨げないよう、隈研吾は自身の特徴である木材を用いて空間の中立性を保ちながら、温かみのある雰囲気を演出している。
花蓮のコンテナハウス スターバックス:海辺の要素を地域素材で活かす
スターバックス花蓮回瀾(かいらん)店は、純白のコンテナハウスで台湾中で話題のインスタ映えスポットとなっており、これも隈研吾の手によるものである。世界各都市を巡った29個のコンテナを再利用し、逆ピラミッド型の3階建て建築に積み重ねている。内部は鮮やかで大胆なプリント技法と落ち着いた木材デザインを組み合わせ、地域特性を活かし、地元の素材を使用するという「引き算の建築」の哲学を再び表現している。
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新竹 The One 南園風簷:季節風と檜材の対話
「風簷」は隈研吾の台湾での最初の作品である。九重に重なる山並みを基礎として、強い季節風が大地を吹き抜けるイメージと南園の土地との対話を融合させている。檜材の組み合わせ方法は、30年前に韓宝徳教授が設計した南園の檜材建築群を継承している。17層のフレーム構造が層層と重なり上昇し、風の流れと九重山の天地の対話を形成し、大自然の尽きない生命力を感じさせる。
台中の空と森を再構築:台中アリーナ、勤美術館2.0
2026年完成予定の「台中アリーナ」は、スカイウォーク、スポーツパーク、世界的ランドマーク、市民の憩いの場をデザインの主軸としている。隈研吾は再び地域の特色からインスピレーションを得て、大甲の藺草編み文化をモチーフに、環境との融合と生命力の永続を象徴している。
2023年に工家美術館を引き継ぐ「未来勤美術館」は、「森」をコンセプトとし、建物の外観は起伏する丘のようで、四方を草木が囲み、草悟道の緑を一気に広げ、人文と自然が調和した街並みを奏でる。完成後は必ず市民の新たな憩いのランドマークとなるだろう。