柯文哲現象:台湾政治における新たなポピュリズムの台頭
「選挙は詩、統治は散文」というフレーズは、台湾の総統選挙を描写するのによく使われますが、現在の柯文哲と民衆党の状況にも当てはまります。大統領選挙時、若い有権者は熱狂的に柯文哲を支持し、世代革命の兆しを見せました。しかし、現在の選挙チームの財務トラブルや政治献金の不透明な支出は、ポピュリスト指導者のカリスマだけでは限界があることを証明しています。
政治学者のリチャード・ブッシュは、著書「困難な選択」で台湾のポピュリズムを分析し、民主化以来、台湾の政界にはポピュリズムの文脈が存在していたと指摘しています。李登輝や陳水扁も選挙キャンペーンで台湾のアイデンティティを操作し、「人民」を定義しようとしました。民進党の長期政権下で、「自分たちだけが人民を代表する正当性を持つ」というポピュリズムは台湾に根付き、慢性的な問題となっています。
個人的カリスマと政党制度化の葛藤
柯文哲は、ブッシュが「真の台湾式ポピュリズム」と呼ぶものの体現者です。医療エリートでありながら、平易な言葉で有権者、特に若者の支持を集めました。彼の台頭は、既存の二大政党に不満を持つ若い世代の受け皿となりました。
マックス・ウェーバーの政治的権威の3類型に照らすと、柯文哲はカリスマ型指導者に分類されます。彼の権力の源泉は主に支持者の個人的な信頼に基づいています。しかし、このような権力基盤は不安定で、急激な盛衰が起こりやすいという問題があります。
政治献金スキャンダルが露呈させた制度的脆弱性
民衆党の設立は、ウェーバーの言う「合理的・法的」権威への移行を試みたものでした。しかし、今回の政治献金スキャンダルは、「制度を信じ、個人を信じない」という理念の実現が困難であることを示しました。
最大の問題は、会計士の端木正氏が記帳と監査の両方を担当し、さらに民衆党の中央委員を務めていたことです。これは明らかな利益相反であり、柯文哲や民衆党との密接な関係が疑問視されています。
家族政治の誘惑と新政治の理想
柯文哲の妻、陳佩琪氏の党副主席就任の噂も、新政治を標榜する民衆党の理念と相反します。家族政治は台湾では珍しくありませんが、新政治を掲げる民衆党にとっては逆行する動きです。政党の役割の一つは人材育成であり、妻を高位に置くことは潜在的な政治人材を遠ざける可能性があります。
第三勢力の未来:個人を超えた制度の確立へ
この政治献金スキャンダルは、柯文哲と民衆党に打撃を与えただけでなく、台湾の政治構図全体に影響を与えています。柯文哲が本当に不正に関与していた場合、民進党は若者の票を取り戻せると密かに喜んでおり、国民党の識者は野党勢力の弱体化を懸念しています。民衆党支持者は、やっと形成された第三勢力が再び崩壊することを心配しています。
しかし、これらの副次的な損害は、柯文哲や民衆党の汚職行為を正当化するものではありません。もし柯文哲が廉潔性を失うなら、これらの損害の責任も彼が負うべきでしょう。
重要なのは、検察の調査で潔白が証明された場合、柯文哲は5年前の党創設時の「制度を信じ、個人を信じない」という原則を貫くべきだということです。柯文哲は、政党の将来を見るには二番目に重要な
人物を見るべきだと言いましたが、真に重要なのは、柯文哲なしでも民衆党が存続できることです。それこそが、台湾の若く多様な監視勢力が真に形成されたことの証明となり、柯文哲もポピュリスト指導者の宿命から抜け出すことができるでしょう。
このスキャンダルは、台湾の新興政党が直面する課題を浮き彫りにしました。個人的人気と制度化のバランスをいかに取るか、柯文哲と民衆党の政治手腕が試されています。
吳典蓉は風傳媒の編集長である。
編集/高畷祐子 キーワード:柯文哲、台湾民衆党、政治献金スキャンダル、第三勢力、ポピュリズム、2024年総統選挙、若者支持、制度改革