舞台裏》国民党が頼清徳総統に「期待と警戒」 『国家の団結十講』を逆手に取る思惑とは?

2025-07-09 13:04
頼清徳総統は、大規模なリコール決戦日が決定した後すぐに「国家の団結全10回」を開始したが、予期せずまずは国民党の基層に危機感をもたらした。(写真/総統府提供)
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7月26日、台湾全国で24人の国民党立法委員に対するリコール投票が予定されており、与野党の攻防が激しさを増している。総統の頼清徳氏が民進党議員に対し、リコール運動への全面的な支援を指示したとの見方もあり、民進党は国会での劣勢を挽回すべく、10〜12議席のリコール成立を狙っている。

国民党側も危機感を抱き、8人の議員が厳しい状況にあると認めている。かつては国民党に不利とされた世論も変化の兆しを見せ、反リコール勢力の結束により、危機的とされた議員の数が減少してきている。

国民党内では、台北市の王鴻薇氏、徐巧芯氏、新北市の葉元之氏、桃園市の牛煦庭氏、涂權吉氏、新竹市の鄭正鈐氏、台中市の羅廷瑋氏、台東県の黄建兵氏の8選挙区がリスクの高い地域とされていた。その背景には、リコール対象議員への批判の強さ、民進党の強固な地盤、国民党支持層の投票熱の低さ、賛成派の声の大きさなどが挙げられる。

20250706-立委葉元之6日出席「反惡罷 戰獨裁」新北市勞工、客家團體後援會聯合成立大會。(柯承惠攝)
国民党は、立法委員の葉元之氏を含む8名の立法委員が危険名簿にあると当初評価していた。(写真/柯承惠撮影)

賴清徳氏による「国家の団結」が思わぬ結果を招く

民党が投票率の向上策を模索する中、頼清徳氏は6月下旬から「国家の団結全10回」講義をスタート。総統府は講義の目的を国政理念の周知と説明しているが、多くはリコール支持の動員と受け取っている。実際、6月24日の第2講では「選挙で不純物を取り除く」と発言し、野党側を排除対象とする意図と捉えられ、世論の反発を招いた。

この発言は、リコール賛成の動きを後押しするどころか、かえって野党支持層の結束を促す形となり、リコール阻止に有利な流れを生んでいる。国民党内部では、「不純物を取り除く」という言葉が失言として扱われ、有権者の間で反対票の比率が上がりつつあるとの分析もある。

20250629-總統賴清德出席「團結國家十講」第三講。(總統府提供)
頼清徳総統が出席した「団結国家十講」では、論争が続出している。(写真/総統府提供)

「不純物を取り除く」発言が国民党陣営の危機感を喚起

選挙情勢に詳しい国民党関係者によれば、支持者の投票熱が高まったことがリコール対象者の減少に繋がっているという。一方、民進党支持層の投票モチベーションは既にピークに達しており、今後の上積みは限定的と見られている。頼氏の発言が国民党陣営に火をつけ、「リコールが通れば台湾に非民進党の声は残らない」との危機意識が広がっている。

2025年春には、頼氏の国家安全17条による措置で国民党の黄呂錦茹氏が拘束され、20万人以上が抗議集会に参加。今回の動きにもその再来を見出す声があり、「頼氏は結果的に国民党を助けている」との皮肉も聞かれる。党内では、残る6講でも頼氏が再び注目を集めてくれることを期待する向きもあり、大規模集会や有名政治家の動員よりも効果的だと見る声も出ている。 (関連記事: 評論:台湾・賴清徳総統が「米軍との協力すべて公開」と明言 対中緊張さらに高まる恐れも 関連記事をもっと読む

20250418-國民黨台北市黨部主委黃呂錦茹等四人18日遭北檢聲押禁見。(顏麟宇攝)
民党台北市党部主任委員の黄呂錦因氏が、署名活動で拘束された。(写真/顏麒雄撮影

彭振声氏事件で民衆党陣営動力が増強 一部国民党委員が危険ゾーン脱出

国民党の選挙支援者は、民衆党支持層の態度変化が反リコール情勢の好転をもたらしたと語っている。これまで民衆党陣営の支持者は、基本的にリコールには反対だったものの、投票への積極性には欠けていた。国民党中央はこの温度差を懸念していたが、台北市前副市長・彭振声氏の妻に関連する事件をきっかけに、民衆党支持者、特に柯文哲氏を支持する層の怒りが噴出し、726投票(7月26日投票)への参加意欲を大きく押し上げた。