7月26日、台湾全国で24人の国民党立法委員に対するリコール投票が予定されており、与野党の攻防が激しさを増している。総統の頼清徳氏が民進党議員に対し、リコール運動への全面的な支援を指示したとの見方もあり、民進党は国会での劣勢を挽回すべく、10〜12議席のリコール成立を狙っている。
国民党側も危機感を抱き、8人の議員が厳しい状況にあると認めている。かつては国民党に不利とされた世論も変化の兆しを見せ、反リコール勢力の結束により、危機的とされた議員の数が減少してきている。
国民党内では、台北市の王鴻薇氏、徐巧芯氏、新北市の葉元之氏、桃園市の牛煦庭氏、涂權吉氏、新竹市の鄭正鈐氏、台中市の羅廷瑋氏、台東県の黄建兵氏の8選挙区がリスクの高い地域とされていた。その背景には、リコール対象議員への批判の強さ、民進党の強固な地盤、国民党支持層の投票熱の低さ、賛成派の声の大きさなどが挙げられる。

国民党は、立法委員の葉元之氏を含む8名の立法委員が危険名簿にあると当初評価していた。(写真/柯承惠撮影)
賴清徳氏による「国家の団結」が思わぬ結果を招く
国民党が投票率の向上策を模索する中、頼清徳氏は6月下旬から「国家の団結全10回」講義をスタート。総統府は講義の目的を国政理念の周知と説明しているが、多くはリコール支持の動員と受け取っている。実際、6月24日の第2講では「選挙で不純物を取り除く」と発言し、野党側を排除対象とする意図と捉えられ、世論の反発を招いた。
この発言は、リコール賛成の動きを後押しするどころか、かえって野党支持層の結束を促す形となり、リコール阻止に有利な流れを生んでいる。国民党内部では、「不純物を取り除く」という言葉が失言として扱われ、有権者の間で反対票の比率が上がりつつあるとの分析もある。

頼清徳総統が出席した「団結国家十講」では、論争が続出している。(写真/総統府提供)
「不純物を取り除く」発言が国民党陣営の危機感を喚起
選挙情勢に詳しい国民党関係者によれば、支持者の投票熱が高まったことがリコール対象者の減少に繋がっているという。一方、民進党支持層の投票モチベーションは既にピークに達しており、今後の上積みは限定的と見られている。頼氏の発言が国民党陣営に火をつけ、「リコールが通れば台湾に非民進党の声は残らない」との危機意識が広がっている。

国民党台北市党部主任委員の黄呂錦因氏が、署名活動で拘束された。(写真/顏麒雄撮影)
彭振声氏事件で民衆党陣営動力が増強 一部国民党委員が危険ゾーン脱出
国民党の選挙支援者は、民衆党支持層の態度変化が反リコール情勢の好転をもたらしたと語っている。これまで民衆党陣営の支持者は、基本的にリコールには反対だったものの、投票への積極性には欠けていた。国民党中央はこの温度差を懸念していたが、台北市前副市長・彭振声氏の妻に関連する事件をきっかけに、民衆党支持者、特に柯文哲氏を支持する層の怒りが噴出し、726投票(7月26日投票)への参加意欲を大きく押し上げた。
ある国民党関係者は、検察が進める京華城案件によって重大な命に関わる事態が引き起こされたと指摘。特に、同じような汚職容疑であっても、柯文哲氏は起訴後に身柄を拘束されている一方で、鄭文燦氏は起訴されても即時釈放され、その後も自由に行動している。こうした司法対応の落差に対する不満が、民衆党陣営有権者の間に広がっているという。
元国民党高官の分析によれば、各選挙区における民衆党陣営の票はおおよそ3〜5%程度とされ、特に台北市、新北市、桃園市、台中市といった直轄市や民衆党が政権を握る新竹市では、その比率がさらに高くなる見通しだという。これらの熱戦区においては、国民党候補の支持層の投票率が一定水準を超えた上で、民衆党陣営票が加わることで、リコール案の阻止につながる可能性が出てきた。
実際、新竹市の鄭正鈐氏が、新竹市長・高虹安氏との連携を深めたことで情勢が明らかに好転。さらに、徐巧芯氏、王鴻薇氏、羅廷瑋氏らも危機的な状況から脱しつつあり、一部では五分五分の戦況に持ち込んでいるケースもあるという。

彭振声氏の事件の影響で、京華城の案件および大規模リコールに変化が生じている。(写真/柯承惠撮影)
頼清徳氏の登場で「戦う相手」が明確に
リコール対象となっている国民党立法委員の一人は、頼清徳氏の介入によって最大の恩恵を受けた点として、「戦うべき相手がはっきりしたこと」を挙げている。通常の選挙とは異なり、リコール選挙は「敵なき戦い」であり、有権者にとっては投票の動機が希薄になりやすい。しかし、頼氏が公にリコール支援を表明したことで、国民党側は明確な対抗軸を得て、有権者の投票意欲が刺激されたという。
この議員は、頼氏が前面に出たことで、リコール反対運動の訴えも「無難な議員を守る」という消極的な姿勢から、「独裁的な頼清徳にノーを突きつける」「頼清徳への不信任投票」といった強いメッセージ性を帯びるようになり、支持層や中間層に対する訴求力が高まったと述べている。
一部では、民衆党支持者の間でも「頼氏への警告」としてリコール反対に回る動きが見られ、結果的に国民党・民衆党連携の一端を担っている。
国民党中央は、当初8議席が危機的とされていた情勢について、7月時点で5議席まで縮小したと分析している。ただし、台東県のような特殊な地域では依然として流動的な状況が続いている。台東の有権者はリコール投票そのものに関心が薄く、両陣営がどれだけ動員を図っても投票率が上がらなければ意味をなさない。

基隆市長の謝國樑氏に対する罷免案は、賛成票が22.5%に留まった。(写真/顏麟宇撮影)
組織力に影落とす司法捜査
とはいえ、国民党中央は頼氏の「国家の団結全10回」が国民党と民衆党両陣営の投票意欲を刺激したことを一定の成果と評価する一方で、国民党立法委員の反リコール情勢が依然として楽観視できない状況にあると認識している。新たな不安要素が浮上しているためだ。
国民党の党務を担当する幹部によると、台北市と新北市の一部の立法委員は、空中戦(メディア戦)で話題をリードし、かつ地元の支持基盤が強固であることから、選挙情勢が大幅に改善しているという。しかし同時に、新北市、桃園市、台中市では、安定していたと見られていた数人の立法委員について、ここにきてリコール反対票の優勢が縮まり始めており、警戒を強めている。
背景には、司法による大規模な調査があるとされる。最近、国民党の組織関係者や地方幹部が複数名、事情聴取や拘束を受けており、これが党の組織動員力に深刻な影響を及ぼしているという。
実際、7月5日に台北市党部が開催した反リコール集会では、参加者数が期待を下回った。この現象は、台北市で選挙実務を担ってきた黄呂錦茹氏らの幹部が排除されたことと無関係ではないと見られている。さらに、組織発展会の副主委であり、党の連絡・動員を担っていた黄碧雲氏が連署の不正関与で拘束されたことも、組織戦略に大きな打撃を与えている。
このため、国民党内では今後、台中市長の盧秀燕氏や新北市長の侯友宜氏など、行政権を有する地方首長の力を借りて、組織的な動員力を補完していく必要があるとの声が強まっている。党幹部は「7月5日のような冷えたイベントが再び起これば、726リコール投票の結果に極めて悪影響を及ぼす」と警鐘を鳴らしている。