張鈞凱コラム:「終末予言」は外れたが…台湾で避難バッグが爆売れ、背景に“現実的な恐怖”とは

2025-07-09 13:22
「2025都市レジリエンス演習」および「国家の団結月」シリーズの活動に合わせ、内務省警政署は特別に「護りの盾──防空避難体験特展」を企画。卓栄泰行政院長と劉世芳内務部長が7月2日に開幕式に参加した。写真は会場に展示された防災避難物資。(内務省提供)
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7月5日、日本で話題となった大地震の「終末予言」は空振りに終わった。出典は漫画『私が見た未来 完全版』で、作者の竜樹諒氏はインタビューで「災害日付は編集者が書いたもの」と釈明。一方、羽田空港は当日混雑し、日本の航空会社が恩恵を受けたとの声も。台湾でもこの一件はネット上で注目されたが、その裏で「防災避難バッグ」がネット販売ランキング上位に。人々の不安は単なる「地震」ではなく、もっと現実的な「何か」に向いているようだ。

防災避難パックはなぜ売れているのか?

実際、台湾では地震や台風が頻発し、家庭ごとに防災用品があるのは珍しくない。それでもこの数週間で防災バッグの売上が急増した背景には、明確な転機があった。6月11日、在台米国協会(AIT)高雄事務所がFacebookで「避難バッグ開封ガイド」を公開し、1.7万人が「いいね」、8000件以上シェアされた。アメリカ国務省も「台湾に全社会的なレジリエンスを促す」と発表。また、AITは与党系団体と共に救急ワークショップも開催しており、他都市からの開催要望も相次いでいる。

この動きは政府にも波及している。6月下旬、総統府主導の「全社会防衛レジリエンス委員会」では内政部長が「避難パックが非常に人気」と報告。さらに総統発言をきっかけに、大手量販店も「地域レジリエンス演習」に参加を決定。その背後では、ブラックベアアカデミーが販売する避難パックの価格や製造地が議論を呼んでいた。英誌『エコノミスト』は、これらの防災用品ブームを「自然災害ではなく、中国の軍事的脅威への備え」だと指摘。1カ月間のサバイバルを想定する仕様は、米国防専門家が描く「台湾防衛シナリオ」と一致しているという。

美國在台協會高雄分處列舉避難包7大重要物品。(取自美國在台協會高雄分處臉書)
米国在台協会高雄分処が、避難用リュックに詰めるべき7つの重要品目を挙げた。(米国在台協会高雄分処のFacebookより)

防災避難パックは「中国脅威論」の副産物か

台湾で防災避難パックがブームとなっている背景には、「中国脅威論」の広がりがある。台湾と中国が分断された1949年以降、統一問題は常に台湾海峡に横たわってきたが、「戦争は避けられない」という危機感が社会に浸透しはじめたのはごく最近のことだ。背後には、米国の覇権が中国の台頭により脅かされることへの不安がある。米中戦争や台湾海峡での有事を想定し、台湾を“反中最前線”に動員する構図が進んでいる。

米国のシンクタンクは次々と机上演習を行い、軍高官は「中南海の床に耳を当てる者」のように、2027年に中国が台湾を攻撃するというシナリオを語る。ウクライナ戦争を機に訪台する米国の代表者らは、「徴兵制の拡大」「警察機構の軍事対応強化」など、台湾に具体的な対応を求めてきた。台湾では「外国の和尚が読む経(=外来の方が信頼されやすい)」という心理も働き、非対称戦力の模倣が急ピッチで進んでいる。

賴清德総統も漢光41号演習に向けてビデオでメッセージを発信。「防衛とは勝利することだけではなく、危機の後に国家を再建する方法を考えることも重要だ」と語った。こうしたメッセージが、防災や市街戦の備えを「終末的」なイメージで彩っている。

2024年12月26日,总統府全社会防衛レジリエンス委員会召開第2次委員会議,現場放置的緊急避難包。(總統府提供)
2024年12月26日、総統府の全社会防衛レジリエンス委員会が第2回委員会会議を開催し、会場に緊急避難用リュックが展示された。(総統府提供)