台湾の神が日本の神輿に乗る理由 豊原で封印された信仰の記憶とは

豊原城隍が日本式神輿に乗って街を練り歩く。(写真/洪煜勛撮影)
豊原城隍が日本式神輿に乗って街を練り歩く。(写真/洪煜勛撮影)
目次

台湾台中市・豊原の街に、毎年旧暦6月14日だけ現れる特別な光景がある。十数名の男たちが浴衣をまとい、赤い扇を手に「ヘイショ!」と声を張り上げながら、日本式の神輿を担いで町を練り歩く。その神輿に祀られているのは日本の神ではなく、地元の神・豊原城隍爺(旧称・墩脚城隍爺)。台湾の信仰と日本の伝統が融合したこの独特な風景には、約100年にわたる信仰と時代の記憶が刻まれている。

疫病と統治の狭間に生まれた「偽装」神輿

疫病が一因!城隍爺「変装して」街を巡る

1932年、台湾が日本の統治下にあった時代、豊原地域で疫病が流行した。豊原城隍爺廟の記録によると、当時ある信者が夢の中で城隍爺から鎮静方法を授かり、その通りにすると疫病が収束したという。神の加護に感謝し、信者たちは誕生日行事の規模拡大を望んだが、当時の日本政府は宗教集会に対して厳しい制限を敷いていた。

そのなかで廟側は機転を利かせ、日本式の装いを用いて城隍爺を神輿に乗せ、信者は浴衣姿に扮して日本語の掛け声をかけながら巡行を行った。見た目は神社の祭礼に映るが、内実は地元の信仰に基づいた行事だった。外見を変え、信仰を守るという「偽装の知恵」が、この日本神輿の出現につながった。

豊原城隍搭乗日式神輿遊街慶祝聖誕。(写真/洪煜勛撮影)
豊原城隍が日本式神輿に乗って街を練り歩く。(写真/洪煜勛撮影)

一度は禁じられた神輿 いまや地域の象徴に

《風傳媒》が地元住民にインタビューしたところ、1945年の終戦後、国民政府が台湾を接収すると、社会全体が「脱日本化」の流れに包まれた。日本語や日本文化は公共の場から排除され、豊原城隍廟の神輿も“日本色”が強いという理由から封印された。もともと宗教的妥協から生まれたこの神輿は、いつしか「触れてはならない存在」になっていった。

しかし、民主化とともに文化の多様性が再評価されるようになると、地元の有志や文史研究者による努力でこの神輿は再建され、再び街に姿を現した。現在では、信仰の仮装道具ではなく、豊原の歴史と精神を象徴する文化的存在として受け継がれている。城隍爺の巡行の中でもひときわ目を引く「神輿姿」は、過去の制約と工夫、そして信仰の力が織りなす物語を映し出している。

豊原城隍搭乗日式神輿遊街慶祝聖誕。(写真/洪煜勛撮影)
豊原城隍が日本式神輿に乗って街を練り歩く。(写真/洪煜勛撮影)

FAQ:豊原日本神輿に関するよくある質問

Q1:なぜ城隍爺は日本神輿に乗っているのか?

A:1932年の日本統治時代、当時の宗教集会への規制を避けるため、廟側が日本の神輿を「偽装」して巡行を行うことで、信仰を継続できた。

Q2:城隍爺の誕生日はいつ?なぜ各地で異なるのか?

多くの城隍爺の誕生日は旧暦の5月13日だが、各地の廟の創建時期や信仰習慣により調整され、「一神多誕」という地域ごとの特色が生まれた。豊原城隍爺の誕生日は毎年旧暦の6月15日である。

豊原城隍搭乗日式神輿遊街慶祝聖誕。(写真/洪煜勛撮影)
豊原城隍が日本式神輿に乗って街を練り歩く。(写真/洪煜勛撮影)

Q3:神輿は今も元のものか?

A:元の神輿は残念ながら失われてしまったが、現在のものは後に日本式の様式で再現された新しい神輿だ。伝統的な工芸を用いて、歴史の記憶を今に伝えている。

Q4:なぜ新竹や基隆の城隍が豊原に来て祝うのか?

各地の城隍爺は「兄弟廟」の関係にあり、日頃から互いに訪れ合っている。祭りの際には共に盛大に祝い、これは地方の宗教ネットワークにおける交流と信仰の継承を象徴している。

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​編集:田中佳奈

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