東大卒でも報われない?学歴では超えられない「出身」と「ジェンダー」の壁

2025-07-05 17:44
日本最高学府である東京大学のキャンパス。(AP通信)
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日本社会において、東京大学に合格することは成功の象徴とされてきた。しかし、東大卒業生の実際の人生に関する大規模調査が、この「東大神話」を覆している。

東大教授の本田由紀氏による研究が示すように、日本最高の学歴を持っていても、親の出身や学歴、卒業した高校、さらには性別といった要因が、見えない足かせとなり続け、東大卒業生の収入やキャリアに影響を及ぼしていることが明らかになった。これは、日本社会における構造的な不平等の深層を浮き彫りにしている。

『東大卒』という言葉は、日本社会において知性の頂点やエリートの証とされてきた。しかし、その輝かしいイメージの裏側にある現実の人生はどうなのか──この問いには、これまで体系的な実証研究がなかった。本田由紀教授は、新著『「東大卒」の研究』で、その謎に対する先駆的な答えを提示している。

本書は、東京大学卒業生を対象とした初の大規模な社会調査に基づいている。2022年末から2023年初頭にかけて、約6万人にアンケートを送付し、2437件の有効回答を収集した。その結果は、多くの人の予想を覆すものであり、日本社会の根底にある構造的不平等の実態を浮き彫りにした。

調査で明らかになった最大の発見は、東大卒というエリートの中にさえ、無視できない格差が存在しているという事実である。

第一の足かせ:学歴だけでは超えられない「出身」

多くの人は、東京大学に入学すれば、それまでの環境を乗り越え、努力によって未来を切り開けると信じている。だが、本田教授の調査データは、その希望が幻想にすぎないことを冷静に示している。

調査結果によれば、卒業後の年収には家庭の出身背景が強く関係しており、親が大学を出ていない「第一世代の大学生」は、両親も高学歴である同窓生に比べて平均年収が低い。また、開成高校や灘高校といった有名進学校の卒業生は、一般的な公立高校の出身者に比べて職場での待遇が良好である傾向が見られた。

「大学入学前の条件が、その後の人生にまで長く影響することが浮き彫りになりました」と本田教授は『毎日新聞』の取材で語っている。「『東大卒』という肩書きだけでは、生まれ育った環境のハンデを完全に打ち消すことはできません」。

この発見は、近年話題となっている「親ガチャ」という言葉に対して、学術的な裏付けを与えるものだ。家庭が持つ文化的資本や人脈が、東大という日本最高峰の教育機関に入ってもなお、人生のスタート地点に大きく影響するという現実が明らかになった。

第二の足かせ:「家族の引力」による女性の困難

調査では、東大卒業生の間でも明確な性差が存在することも判明した。

「東大に入ると結婚できなくなる」というステレオタイプが根強く残る中で、実際には、東大卒の女性は他の大学卒の女性よりも結婚・出産率が高かった。しかし問題は、その後にあった。

本田教授は、日本では依然として育児や介護などの家庭内ケア責任が女性に集中していると指摘し、これを「家族の引力」と呼んでいる。このプレッシャーは、東大卒の女性にさえ及び、特に30代の子育て期にキャリアや収入の伸びを大きく制限している。