前世は国軍の外省老兵? 日本の防衛研究者・五十嵐隆幸氏、「二人の蒋介石」の反攻大陸研究にのめり込む

10日、総統府前で行われた第114回国慶大会。国旗を吊り下げたチヌークを、ブラックホーク2機が護衛飛行。(写真/劉偉宏撮影)
10日、総統府前で行われた第114回国慶大会。国旗を吊り下げたチヌークを、ブラックホーク2機が護衛飛行。(写真/劉偉宏撮影)
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台湾では、毎年恒例の「双十国慶」が今年も巡ってきた。1949年以降、台湾海峡は中国を二分し、両岸の政府はそれぞれ「中国の統一」を目標に掲げて軍事的に対峙、時には武力衝突も起きた。こうした独特の歴史に強い関心を寄せるのが、中国語に通じる元自衛官で、現在は日本の防衛専門家として活動する一人の研究者だ。五十嵐隆幸氏は台湾と日本の双方で関連する研究書を発表してきた。

同じく「兵役経験」を持つことから、時に「自分の前世は四川出身の国軍外省老兵だったのかもしれない」と冗談を飛ばすほどである。著書『反攻大陸と台湾――中華民国統一の構想と挫折』では、近年の資料公開や「二蔣日記」の公開分を駆使し、独自の視点から複雑な両岸関係を描き出すとともに、日本の立場から“反攻大陸”の歴史的意味を考察している。

金門大二胆島大部分防区、6月末に解除し、金門県政府に移行する。図は大胆島の有名な観光地:「三民主義統一中国」スローガンの壁。(ネットより引用)
金門・大胆島の名所「三民主義・統一中国」のスローガン壁面。(写真/インターネットより)

「反攻大陸」の歴史にのめり込むまで

8月、台湾で中国語版を出したのは、防衛研究所(NIDS)地域研究部・中国研究室の五十嵐隆幸氏。五十嵐氏が『風傳媒』に語ったところでは、20年前、中国で「反分裂国家法」が成立した頃に中国語の学習を始めたが、当時の日本の関心は主に朝鮮半島に向き、中国への関心は薄かった。いくつかの偶然が重なり、五十嵐氏は“反攻大陸”研究に足を踏み入れることになる。

五十嵐氏が最初に抱いた疑問は、国軍に「政戦制度」が存在することだった。「なぜ民主国家の軍隊に、共産国家の軍に見られる政治工作の制度があるのか」。この違和感が歴史探求の入り口となった。やがて、政戦制度の由来や台湾史を追ううち、台湾自身もかつて「中国統一」を掲げていた事実、すなわち“反攻大陸”に行き当たる。「小さな台湾が、なぜ中国の統一を志したのか——新鮮で強烈な関心を覚えました」。

当時、日本でこのテーマに取り組む研究者は多くなかった。台湾研究の第一人者である早稲田大学台湾研究所・前所長の若林正丈氏も言及はしていたが、「“反攻大陸”という使命は1960年代に“自然消滅”した」との見立てだった。元自衛官の五十嵐氏はここに引っかかった。「軍の任務が命令なしに自然消滅することはない。では“反攻大陸”はいつ、どのように解除されたのか」。この問いが研究の出発点になったという。

日本防衛学者五十嵐隆幸8月在台出版《反攻大陸與臺灣──中華民國統一的構想與挫折》中文版。(五十嵐隆幸提供)
日本の防衛研究者・五十嵐隆幸、8月に台湾で『反攻大陸と台湾──中華民国統一の構想と挫折』中国語版を刊行。(写真/五十嵐隆幸提供)

前世は国軍老兵だったかも?

中華文化と歴史に興味を持った理由について、五十嵐隆幸氏は特に特別な理由はないと考えている。「神奈川県横須賀市の出身で、幼い頃からよく横浜の中華街に遊びに行っていたので、早くから中国文化に触れ、慣れていました」。さらに、横須賀には米国と日本の海軍基地があるため、米国文化にも触れる機会が多かった。五十嵐氏は「台湾は私が日本で親しんでいる日本文化、米国文化、中国文化を融合しているので、特に親近感を感じます」と語る。

また、五十嵐氏はある「独特の経験」を共有する。これが五十嵐氏を国軍外省老兵の「転生」と冗談で呼ぶきっかけになった神秘的な体験だ。「12年前、私が初めて四川省成都に行ったとき、成都市中心の交差点に立って、以前ここに来たことがあるように感じたのです」。

その翌年、四川を再訪したあとに初めて大渓の「二蔣陵寝」を参拝し、日本へ戻る直前の一週間あまりは、頭痛や肩こり、全身のだるさが続き、何かに絡め取られているような奇妙な感覚に包まれたという。
「ときどき思う。俺の前世は、国民党に従って四川から台湾へ渡った成都の人間だったのかもしれない――。あの、中国本土へ戻りたいという郷愁こそが、この『反攻大陸と台湾──中華民国統一の構想と挫折』を書かせた原動力になったのかもしれない」。

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