台湾の通商「オリーブ枝」はなぜ既読スルーに 日経が検証――トランプ回帰と中国圧力のはさみ撃ち、外交の現実とジレンマ

2025-10-13 17:30
2025年10月10日、総統府前で開かれた第114回国慶大会。頼清徳総統。(写真/劉偉宏撮影)
2025年10月10日、総統府前で開かれた第114回国慶大会。頼清徳総統。(写真/劉偉宏撮影)
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高雄港では、積み木のように積まれたコンテナの間をガントリークレーンが秋の日差しの下でゆっくり行き交う。台湾経済の底力と世界のサプライチェーンとの強い結びつきを象徴する光景だ。だが、そのにぎわいの裏で、台湾の通商外交はかつてない難所に差し掛かっている。複数の政府高官や関係者が『日経アジア』に明かしたところによると、台湾が近年進めてきたグローバルな通商パートナー拡大策は足踏み状態で、各国の反応は鈍い。中国の強い圧力の下、国際的な孤立から脱しようとする台北の苦闘が浮き彫りになっている。

日経の12日付報道によれば、台北は長年にわたり、豪州との通商協定や特定産業協議、カナダとの経済協力枠組み、日本との包括的経済パートナーシップ、ニュージーランドとの改定版協定や産業別協議を働きかけてきた。さらに東南アジアの主要4経済とも、経済協力や投資協定の締結を模索。しかし、複数の政府高官を含む消息筋は「多くの国の反応は極めて冷淡だ」と打ち明ける。

実質的な前進が見えない現状は、賴清徳政権にとって痛手だ。蔡英文前総統期に積み上げた枠組みをてこに、さらなる通商関係の前進で北京の経済圧力に対抗し、国交なき不利を乗り越える――これが賴政権の狙いだった。中国は一貫して台湾を自国の一部と主張し、輸入禁止など商業的手段で台北に圧力をかけている。

行き詰まりの背景には、国際秩序の急変がある。米国ではドナルド・トランプ氏の政権復帰に伴う関税障壁や予測不能性が増し、一方で中国の対外影響力も強まった。関係者は「各国がトランプ氏が持ち込んだ通商上の不確実性の中で対話し合意形成を進めるなか、台湾は輪に入れてもらえなかった」と嘆く。

「煮えたアヒル」はなぜ飛んだのか――カナダの迷い

とりわけ冷ややかな向かい風はカナダからだ。複数の消息筋によると、カナダは数カ月前に交渉を終えたはずの協定への署名を先送りにしている。皮肉にも、マーク・カーニー首相はアジア重視へ舵を切り、トランプ氏との摩擦を和らげる努力を続ける一方で、直近ではインドネシアとの「ゲームチェンジャー」と銘打つ新協定を華々しく発表したばかりだ。

別の関係者は、台加の通商交渉はカナダの4月総選挙前に既に決着していたと証言する。しかしカーニー政権は署名に踏み切らず、台湾側では土壇場での撤回を懸念する声が高まっている。カナダ外務省(グローバル・アフェアーズ・カナダ)は『日経アジア』に対し、「カナダは『一つの中国』政策に従い、台湾とは非公式ながら重要な経済・民間関係を維持している」とのみ回答。台北にある各国の実質大使館にも取材を試みたが、追加のコメントは得られなかった。 (関連記事: 夏一新氏の見解:日台外交の主導権を競う 国民党「訪日攻勢」と民進党「安倍研究センター」 関連記事をもっと読む

この遅延に、民進党の陳冠廷・立法委員(立法院外交・国防委員会所属)は強い懸念を示す。「もし日経の調査が正確なら、カナダはただちに台湾との協定に署名すべきだ」。台湾は「責任ある、信頼できるサプライチェーンのパートナーであることを繰り返し証明してきた」としたうえで、「世界の経済安全保障と産業チェーンの安定に重要な役割を果たしている」と強調。今回の協定は二国間の通商発展に資するのみならず、「カナダのインド太平洋戦略の推進にも寄与する」と述べた。

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