出生率1.2の危機 東京都、無痛分娩に最大10万円補助へ 「痛みを耐えてこそ母」神話に挑む静かな革命

2025-10-13 15:25
(写真/AP通信提供)
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日本が「国難」級の少子化危機に直面するなか、東京都は硬膜外麻酔による無痛分娩の補助制度を打ち出した。女性の身体的苦痛を和らげ、絶望的な水準に落ち込む出生率に一筋の希望をもたらす狙いだ。『ウォール・ストリート・ジャーナル』は11日、これは単なる公衆衛生政策ではなく、伝統的な母性観への「穏やかな宣戦布告」であり、「激痛に耐えてこそ子どもと最も深い絆が結ばれる」という日本の母親に長年根付いた“呪縛”に挑む動きだと指摘した。

2023年に第二子の出産を控えていた西村萌子さんは恐怖心に包まれていた。2019年に長女を出産した際の、身を引き裂くような痛みと、産後の長く苦しい回復期間の記憶が忘れられなかったからだ。

「当時は日本の伝統的な考え方に少し縛られていました。『自然分娩の痛みを経験しなければ本当の母親ではない』という思い込みがあって、第一子では硬膜外麻酔を選びませんでした」と西村さんは振り返る。「今でも後悔しています。」

そこで第二子では選択を変え、無痛分娩で健康な男児を出産。産後の回復が驚くほど早かったという。「硬膜外麻酔分娩が当たり前になってほしい。」——その声は個人的な願いにとどまらず、東京都の焦りとも思わぬ形で共鳴した。

かつて経済奇跡を生んだ日本は、いま目覚ましい速度で高齢化が進む。政府統計によれば、2024年の新生児数は約68.6万人と、10年前の100万人超から崖のように減少。しかも同年の死亡数は出生数の2倍超に達する。2008年の人口ピーク以降、十数年で総人口は約400万人減り、約1億2400万人となった。

2023年の合計特殊出生率は1.2にとどまり、人口維持に必要な2.1を大きく下回る。これは冷たい統計であると同時に、国家の未来への警鐘だ。政府は長年、育児補助や税制減免などの「産みやすい環境」づくりを進めてきたが、効果は限定的だった。

こうした背景の下、東京都の無痛分娩補助は、斬新さと同時にどこか切実さを帯びて登場した。分娩時鎮痛の費用の一部を公費で負担し、新生児数の微増を狙うとともに、「無痛分娩」にまとわりつく文化的スティグマを少しずつ剝がしていく考えだ。

「根性論」が産室に入り込むとき

この政策が大きな関心を集めるのは、経済的誘因に加え、日本社会に根強い価値観に正面から挑むからだ。

日本産婦人科医会のデータでは、2024年に日本で硬膜外麻酔を用いた分娩は13.8%にとどまる。先進国としては異例の低さだ。対照的に、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)の2022年データでは77%、フランスなど欧州諸国では80%超に達する。

なぜこれほど差が開くのか。費用・医療資源といった現実的制約に加え、より深層には文化要因がある。 (関連記事: 日本の人口、過去最大の90万人減 出生数は初の70万人割れ、外国人は最多更新 関連記事をもっと読む

東京で30年以上の経験を持ち、800人超の出産に立ち会ってきたベテラン助産師の斎藤久子さんは伝統派の立場だ。「私は自然が一番だと思っています。」とし、分娩の痛みが母子の絆を強めると信じる。「硬膜外麻酔を使った母親は、その後に赤ちゃんを抱いたり、あやしたりするのが難しいと感じることがあると思います。」と語り、「これは日本人には合わない医療手法だと思います。」と言い切る。

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