放射線治療は悪性腫瘍に対抗する有力な手段だが、「腫瘍と一緒に正常な臓器まで損傷してしまうのではないか」という不安は常に患者を悩ませる。
そこで台湾の台中榮民総医院(台中榮総)はAIによる自動輪郭作成技術を導入。患者のCT画像を入力すると、AIが放射線を照射すべき範囲を迅速かつ正確に描き出し、正常組織を最大限に保護する。
従来の手作業と比べ、臓器保護率は3.7~12.9%向上。副作用は大幅に軽減され、治療完遂率は95%を超え、世界トップクラスの水準に達した。
59歳の姚さんは長年、喫煙・飲酒・檳榔(ビンロウ)嚼食の習慣があり、2023年に嚥下困難で受診、食道がんステージIIIと診断された。手術と化学療法を経て、台中榮総でAIによる自動輪郭作成を活用した放射線治療を受けた。
周囲の正常組織を大きく避けることができたため、放射線治療にもかかわらず副作用は全くなく、快適に療養生活を送ることができた。
人工では1時間、AIなら2分
ところが翌年、縦隔リンパ節に腫瘍が再発。今回もAIによる自動輪郭作成を利用しつつ、肺・心臓・冠動脈など縦隔内の臓器保護をさらに強化し、サイバーナイフ(定位放射線治療装置)で腫瘍を精密に狙い撃ちした。一般に胸部放射線治療で避けがたい胸痛や肺炎、呼吸困難などの副作用も全く出ず、治療中も快適に過ごし、現在は病状安定で外来フォローを続けている。
台中榮総放射腫瘍科の游惟強主任によれば、AI導入前は腫瘍と臓器の境界線を医師と医学物理士がCT画像上に一つひとつ描く必要があり、1症例あたり平均1時間を要した。5人なら5時間、10人なら10時間という膨大な負担だった。

これに対し、AIによる自動輪郭作成は、一人の患者のCTスキャン画像をわずか2分で処理できる。さらに医師が確認・修正を加えても、5分以内に作業が完了する。AIの精度は非常に高く、修正が必要になる割合は平均してわずか2〜3%に過ぎず、迅速かつ正確である。加えて、この作業をAIに一任することで、担当者ごとに生じていた描画のばらつきを心配する必要がなくなり、標準化された作業フローの構築が可能となった。
游氏によれば、この技術がここまで成果を上げられたのは、放射線腫瘍科が約2年をかけて5,000枚以上の手作業による輪郭データをAIに学習させたからだ。放射線治療は腫瘍を「正確に狙う」ことが重要であり、同時に周囲の正常組織や臓器を可能な限り避けることが不可欠である。その積み重ねによって、同院の患者治療完了率は95%を超え、世界最高水準に到達した。
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患者の5〜10年生存率を10〜20%改善する可能性
游氏はまた、放射線治療は体のあらゆる部位の腫瘍に用いることができると強調。乳がんを例にとると、かつては乳房の全切除が標準治療であったが、現在では「できる限り温存したうえで手術後に放射線治療を行う」のが国際的な主流だ。その際、AIによる自動輪郭作成を使えば放射線をより正確に腫瘍部位へ集中させられ、手術後の「強化治療」として機能する。統計によれば、この方法は患者の5年から10年生存率を平均で1〜2割改善する効果があるという。
AIによる自動輪郭作成技術が導入される以前は、放射線治療で腫瘍を攻撃する際に周囲の正常な組織や臓器を大きく損傷してしまうことが避けられず、頭痛・吐き気・腹痛・強い眠気・頻尿といった副作用が頻発した。そのため、多くの患者が不快感に耐えきれず、治療を途中で断念せざるを得なかった。