アメリカのトランプ政権が半導体産業への介入を一段と強めている。商務長官のハワード・ルートニック氏は19日、米経済専門チャンネルCNBCのインタビューで、経営難にある半導体大手インテルがCHIPS法に基づく補助金を受け取る見返りとして、政府に株式を譲渡する必要があると明言した。
この方針転換により、インテルの先行きに大きな不確実性が生じるとともに、米政府の半導体政策が単なる補助金支給から国家資本による関与へと移行することを意味する。影響はTSMCを含む世界的なサプライチェーンに及ぶ可能性が高い。
「台湾依存は危険」
ルートニック氏はCNBCの「Squawk on the Street」番組で断言した。「資金を出す以上、株式を取得すべきだ。バイデン政権下で約束された補助金は支払うが、その代わりに株式を受け取る」と語った。この発言を受けてインテル株は即座に反応し、火曜日には7%近く上昇した。
さらに同氏は「アメリカは台湾に依存できない。台湾は米国から9500マイル離れているが、中国からはわずか80マイルしかない。世界の先端チップの99%を台湾に集中させることはできない。これらはアメリカ国内で製造されるべきだ」と強調した。「もちろん、インテルがアメリカで製造できるなら、それは素晴らしい。」とも述べた。
「無償寄付」から「無議決権株式」へ
今回のモデルは、バイデン政権時代に決定された数十億ドル規模の補助金を、政府保有のインテル株式に転換する仕組みとされる。ルートニック氏は「企業のガバナンスに干渉するものではなく、あくまで贈与を米国民のための株式に変えるだけだ。取得するのは議決権のない株式だ」と説明した。
米メディアは、今回の動きを「トランプ流ディールの国家戦略レベルでの反映」と報じた。ルートニック氏は「バイデン政権はインテルやTSMCに無償で資金を与えていた。トランプ政権は資金投入の見返りを求める」と指摘した。
インテルだけでなく他社も対象に?
インテルはコメントを控えているが、ルートニック氏は「国家レベルの資本参入」がインテル以外のCHIPS法受益企業にも及ぶ可能性を示唆した。インテルは昨年80億ドル、TSMCもアリゾナ新工場で66億ドルの補助を約束されている。
インテルの苦境と「シリコンハートランド」計画の遅延
トランプ政権がこの時期にインテルへの介入を強めた背景には、同社の経営難と「アメリカ製造」を掲げるトランプ大統領の政策がある。トランプ氏は製造業の国内回帰を強く訴え、サムスンやTSMCといった海外メーカーへの依存を減らす方針を打ち出してきた。この中でインテルは、TSMCの牙城に挑む米国内企業として最大の期待を背負ってきた。
インテルはかつて、オハイオ州コロンバス近郊に数十億ドルを投じ、「シリコンハートランド」と呼ばれる半導体工場群の建設を計画。AIチップを含む最先端半導体の製造を掲げていた。しかし計画は難航し、今年7月には新CEOリップブ・タン氏が社員向けのメモで「無制限の資金はもはや存在しない」と明言。市場環境を踏まえ、工場建設のペースを落とす方針を示した。
この結果、オハイオ州での第1工場の稼働はすでに2030年に延期されている。かつてCHIPS法の象徴的成果とされた計画は大幅に遅れ、インテルはAIチップ市場の波に乗り遅れ、ファウンドリ事業も進展が見られない。トランプ政権が不満を募らせる要因となっている。
こうした中、ルートニック商務長官が発言した前日には、日本のソフトバンクグループがインテルに20億ドルを出資し、約2%の株式を取得した。さらに米ブルームバーグは、ホワイトハウスがインテル株の10%取得を検討していると報じており、実現すれば米政府が同社の筆頭株主となる可能性も浮上している。
編集:佐野華美 (関連記事: 中国有力学者「武力統一ならTSMCは国有化」 一国二制度は適用せず | 関連記事をもっと読む )
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