台湾・台北市長の蔣萬安氏はこのほどソーシャルメディアに投稿し、和碩科技会長の童子賢氏を賴清德総統が内閣に登用すべきだと名指しした。蔣氏は「核三原発延長稼働」に関する国民投票の説明会を注視した結果、与野党間には深刻な不信感が横たわっていると痛感したと述べ、「童子賢氏が行政院長を務めれば、台湾社会に再び対話の場が開かれる」と主張した。さらに「これは単なる人事問題ではなく、社会の分断を修復する重要な契機だ」と強調している。
こうした発言に対し、行政院長の卓榮泰氏は19日、コメントを出した。ただその言葉には、蔣氏を暗に揶揄する意図がにじんでいた。ここからは《風傳媒》がさらに掘り下げていく。
卓榮泰氏の応答
卓榮泰氏は19日、立法院前で記者団の取材に応じ、童子賢氏を入閣に招く可能性を問われると、まず内閣の検討方針として四つの方向性を挙げた。第一に中央政府の財政収支構造の調整、第二に主要政策の優先順位の見直し、第三に行政と立法院の関係改善、第四に内閣人事の再検討である。
その上で卓氏は蔣氏に言及し、「首都市長の最近の言動はしばしば市政から逸脱している。焦らず、ゆっくり学んでほしい」と直言。語調には皮肉が込められており、蔣氏を牽制する狙いがうかがえた。
内閣改造論が高まる背景
内閣改造をめぐる議論がこの時期に盛り上がっているのはなぜか。外部では、8月23日に予定される第2波リコール投票が終了すれば、内閣改造を求める圧力がさらに高まるとの見方が広がっている。最近の世論調査では、賴清德政権の施政満足度が下落を続けている。前副総統の呂秀蓮氏も「超党派での再組閣」を呼びかけており、野党は内閣総辞職を主張。こうした状況の中で、蔣氏の発言は「非伝統的な政治人物」が内閣に参加する可能性に焦点を移す政治的シグナルと受け止められている。
政治の時間軸:批判から呼びかけへ
- 8月18日:蔣萬安氏がSNSを通じて童子賢氏の入閣を提案。「与野党の再対話に資する」と投稿。
- 8月19日:卓榮泰氏が立法院前で取材に応じ、内閣検討の四方向を強調しつつ、蔣氏を「市政から逸脱」と批判。
- 今後の注目点:8月23日のリコール投票結果次第で、行政チームはさらに強い人事圧力に直面する可能性がある。
童子賢氏入閣の意味
童子賢氏は企業経営者として、エネルギー転換やハイテク産業、社会的責任といった公共政策の議論に積極的に参加してきた人物である。仮に本当に入閣すれば、テクノロジー産業のリーダーが政府意思決定に参画する典型的な事例となるだろう。
もっとも政治評論家の間では、異分野からの入閣は象徴的意義を持つにすぎず、実際に政策を推進するには巨大な官僚機構や立法院の制約を受けるとの指摘もある。そのため、蔣氏の提案は現実的な政策オプションというより「政治的な話題づくり」としての側面が強いとみられている。
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