建築家・内藤廣の半世紀にわたる仕事と思考を紹介する回顧展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」が、渋谷ストリーム ホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3)で開催されている。会期は7月25日から8月27日まで。《風傳媒》は18日、現地を取材した。
建築家・内藤廣の50年にわたる仕事と思考を振り返る回顧展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」が、渋谷ストリームホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3)で開催されている。(写真/黃信維撮影)
渋谷の文脈に合わせ再構成 本展は2023年に島根県立石見美術館(グラントワ)で好評を博した企画を、渋谷という都市の文脈に合わせて再構成したもの。渋谷駅周辺再開発で「デザイン会議」座長を務める内藤氏が、自らの思考を「赤鬼=情熱・直観」と「青鬼=理性・抑制」に擬人化し、約50年にわたる45のプロジェクトを模型や図面、写真、映像で紹介している。
建築家・内藤廣の50年にわたる仕事と思考を振り返る回顧展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」が、渋谷ストリームホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3)で開催されている。(写真/黃信維撮影)
赤鬼と青鬼、そして「亡霊」 展示解説は学芸員ではなく、内藤氏自身の書き下ろしによる赤鬼(赤い文字)と青鬼(青い文字)の対話形式。赤鬼はロマンと推進力を、青鬼は抑制と検証を担い、建築が立ち上がる過程を描く。渋谷会場では第三のキャラクター「亡霊」も加わり、学生時代に影響を受けた恩師や先人の建築家の言葉が“亡霊”として割り込み、辛口のツッコミや皮肉で議論を攪拌する。
未実現となった明治神宮ミュージアムのコンペでは、赤鬼の悔恨、青鬼の自己検証、亡霊の一刺しが交錯し、本音とユーモアが同居する“読む展示”となっている。
建築家・内藤廣の50年にわたる仕事と思考を振り返る回顧展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」が、渋谷ストリームホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3)で開催されている。(写真/黃信維撮影)
4階 初期〜中期の代表作 4階は1972年の学生課題、1974年の早稲田大学建築学科卒業制作(村野藤吾賞受賞)から始まり、デビュー作 「ギャラリーTOM」(1984年)、三重 「海の博物館」(1992年)、高知 「牧野富太郎記念館」(1999年)、「島根県芸術文化センター〈グラントワ〉」(2005年)へと続く。手描きスケッチや模型が並び、東京メトロ銀座線・ 渋谷駅改造を見据えたスケッチも展示された。
建築家・内藤廣の50年にわたる仕事と思考を振り返る回顧展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」が、渋谷ストリームホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3)で開催されている。(写真/黃信維撮影)
5階 2006年以降を再編集 5階は2006年以降を「Built(竣工済)」「Unbuilt(未実現)」「Ongoing(進行中)」に分類。
Builtでは「高田松原津波復興祈念公園(国営追悼・祈念施設)」「黒柳徹子ミュージアム」などを展示。
Unbuiltでは「神奈川芸術劇場」「CCC代官山」「鎌倉新市庁舎」など実現しなかった構想を紹介。
とりわけ明治神宮ミュージアムの設計競技については、赤鬼と青鬼の対話を通じ、隈研吾氏に敗れた経緯と内藤氏の自己検証が描かれている。
Ongoingでは「多摩美術大学 新棟・講堂」計画を紹介。そのほか「とらや赤坂店」「馬車道駅」「紀尾井清堂」など、公共から商業まで幅広い活動を示している。
建築家・内藤廣の半世紀にわたる仕事と思考を総覧する回顧展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」が、渋谷ストリーム ホール(渋谷区渋谷3-21-3)で開催されている。黃信維
6階 渋谷と益田 「過密」と「過疎」を模型で対比 展示では、渋谷と益田の約700メートル四方を同条件・1/200スケールで再現した都市模型を並置。渋谷の「過密」と益田の「過疎」という構造的な差を一望できる。映像は両都市を並列編集し、時間の流れや人のスケール感を感覚的に伝えている。
建築家・内藤廣の50年にわたる仕事と思考を振り返る回顧展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」が、渋谷ストリームホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3)で開催されている。(写真/黃信維撮影) 隣接する大型模型群では、東京メトロ銀座線・渋谷駅を1/20スケールで精緻に再現。2030年度に供用予定の「東口4階スカイウェイ」や、ハチ公広場と地下街「しぶちか」、田園都市線を結ぶ「A8出入口」キャノピー、西口スカイウェイ、西口3階改札に接続する上空施設なども模型で公開された。駅前の歩行者ネットワークを立体的に理解できる構成だ。
建築家・内藤廣の50年にわたる仕事と思考を振り返る回顧展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」が、渋谷ストリームホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3)で開催されている。(写真/黃信維撮影) 益田側では、島根県芸術文化センター〈グラントワ〉や市街地模型を展示。さらに外壁に約28万枚の石州瓦を用いた意匠も紹介され、地域素材を活かした建築の視点が際立っていた。
建築家・内藤廣の50年にわたる仕事と思考を振り返る回顧展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」が、渋谷ストリームホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3)で開催されている。(写真/黃信維撮影)
「Groundscape」が導く渋谷再開発 内藤氏は2010年から始まった渋谷再開発において「都市デザイン方針」を主導。座長として景観や動線、公共空間の調整を担ってきた。単に地上に高層建築を積み上げるのではなく、地上・地下・軒下・デッキを有機的につなぎ直す「Groundscape(地景)」の発想を重視。その思想は渋谷ストリームや渋谷スクランブルスクエア一帯の空中回廊や広場に結晶している。
今回の模型群は、その思想の骨格を来場者に手触りとして伝える役割を果たしている。
建築家・内藤廣の50年にわたる仕事と思考を振り返る回顧展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」が、渋谷ストリームホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3)で開催されている。(写真/黃信維撮影)
建築の思考を体感する“稽古場” 建築家・内藤廣の50年にわたる仕事と思考を振り返る回顧展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」が、渋谷ストリームホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3)で開催されている。(写真/黃信維撮影) 取材した8月18日、会場には精緻な模型や図面、映像が並び、単なる建築作品展にとどまらず、建築家の思考を体感する「稽古場」のような雰囲気だった。各プロジェクトに添えられた赤鬼と青鬼の対話はユーモラスかつ辛辣で、来場者は建築の舞台裏に触れる感覚を味わえる。
未完に終わった計画や進行中の渋谷再開発の模型も公開され、失敗や葛藤さえも展示に取り込まれていたのが印象的だった。
建築家・内藤廣の50年にわたる仕事と思考を振り返る回顧展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」が、渋谷ストリームホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3)で開催されている。(写真/黃信維撮影)
内藤氏の言葉「過疎とオーバーツーリズムを対比させた」 さらに「益田での展示を基盤としつつ、渋谷では再開発の全体像を俯瞰できる模型を新たに制作した。過疎の益田とオーバーツーリズムの渋谷を並べることで、日本が抱える課題を象徴的に示したかった」と語り、「建築家として積み重ねてきたものの延長線上に今の自分がある。この時代への思いを共有できれば幸いだ」と来場を呼びかけた。
建築家・内藤廣の50年にわたる仕事と思考を振り返る回顧展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」が、渋谷ストリームホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3)で開催されている。(写真/黃信維撮影)
内藤廣氏の略歴と開催概要 1950年生まれの内藤廣氏は、早稲田大学大学院を修了後、スペイン・マドリッドのフェルナンド・イゲーラス建築設計事務所や菊竹清訓建築設計事務所を経て、1981年に自身の「内藤廣建築設計事務所」を設立した。東京大学大学院工学系研究科教授や同大学副学長を歴任し、現在は同大学名誉教授を務めている。2023年4月からは多摩美術大学学長に就任した。
代表作には「海の博物館」「牧野富太郎記念館」「島根県芸術文化センター〈グラントワ〉」「富山県美術館」「とらや赤坂店」「高田松原津波復興祈念公園 国営追悼・祈念施設」「東京メトロ銀座線渋谷駅」「紀尾井清堂」などがある。
建築家・内藤廣の50年にわたる仕事と思考を振り返る回顧展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」が、渋谷ストリームホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3)で開催されている。(写真/黃信維撮影) 開催概要
名称:建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷 会期:2025年7月25日(金)〜8月27日(水)11:00〜20:00(休館日なし) 会場:渋谷ストリーム ホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3) 料金:一般1,500円、大学生以下1,000円、未就学児無料(学生証の提示を求める場合あり) 主催:「建築家・内藤廣展 in 渋谷」実行委員会 後援:渋谷区 公式サイト: http://naito-shibuya2025.shibuyabunka.com/ ※本記事は8月18日、《風傳媒》の現地取材に基づく。