アメリカのトランプ大統領がウクライナや台湾にどう対応するかは、アメリカの地政学戦略をどう変えるかに関わる大きな疑問である。米中貿易戦争や台湾海峡情勢を巡る「トランプ・習近平会談」が控える中、その直前に「トランプ・プーチン会談」が急きょ割り込む形で行われた。これは台湾にとって、トランプ氏の手法を観察する機会となった。
しかし残念ながら、トランプ氏は事前に繰り返してきた「停戦を推進する」という立場を転換し、「平和協定の締結こそが重要だ」と主張、ウクライナにプーチンが提示する領土割譲の条件を受け入れるよう求めた。英『フィナンシャル・タイムズ』は「キエフはワシントンの立場の急変を裏切りと感じている」と報じ、英『エコノミスト』は「トランプとプーチンの共闘による悪夢はまだ終わっていない」と警告した。
『フィナンシャル・タイムズ』によれば、アラスカでのサミット前夜、トランプ氏はウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談を行い、「プーチン氏に圧力をかけ、ロシア軍に停戦を求める」と語っていた。だが翌日のアラスカではプーチン氏をレッドカーペットで迎え、記者からの質問を一切受け付けない共同記者会見を開催。プーチン氏は一切譲歩せず、トランプ氏の「もし自分が大統領だったならロシアとウクライナの衝突はなかった」という発言を全面的に支持した。トランプ氏は逆にロシアの立場を繰り返し擁護した。
さらに事態を悪化させたのは、トランプ氏がロシアに停戦を求めるどころか、ウクライナに対して「早急に平和協定を締結せよ」と迫ったことである。トランプ氏は「彼らは署名せざるを得ない、なぜならロシアは強大な国であり、ウクライナはそうではない」とまで発言した。加えて、ロシアへの新たな制裁も行わない姿勢を示し、その態度の急転換が鮮明になった。このトランプ氏の対応は、ウクライナ政府、軍、社会に強い反発を引き起こした。会談内容が明らかになるにつれ、「裏切られた」という認識が広がっている。

『フィナンシャル・タイムズ』と『ロイター』が伝えるところでは、プーチン氏が求めているのは主にドネツィクとルハーンシクの「非ロシア占領地域」の割譲。ウクライナがこれらから撤兵すれば、前線のその他の地域で戦闘を凍結する用意があるとされる。
数人のウクライナ高官は『FT』に対し、「トランプ氏はただ早く平和協定を結びたいだけで、これはウクライナの背中にナイフを突き立てるようなものだ」と批判した。さらに、ウクライナ国会外交委員会のメレジコ委員長は「最悪だ。トランプ氏はプーチン氏と手を組み、我々に降伏に等しい平和条約を受け入れるよう強制している」と強い言葉で非難した。 (関連記事: トランプ大統領、ウクライナに領土譲渡を要求 「ロシアは大国、ウクライナは違う」と発言か | 関連記事をもっと読む )
メレジコ委員長は、当初トランプ氏とルビオ氏から説明を受けたサミットの構想は「米国がプーチン氏に直ちに停戦を要求し、協力しなければ深刻な結果を招く」というものだったと明かした。だが、アラスカで実際に行われたサミットでは、プーチン氏が「領土割譲による和平」という厳しい条件を提示した。「しかし、トランプ氏がこれに反応したり、ロシアに厳しい制裁を科す気配はまったくなかった」と同氏は語る。さらに問題を複雑にしているのは、すでにロシアと歩調を合わせたトランプ氏がゼレンスキー大統領をホワイトハウスに招待したことだ。『フィナンシャル・タイムズ』によれば、半年前にもゼレンスキー氏はここでトランプ氏とパンツール氏から侮辱を受け、モスクワに有利な仲裁案を受け入れるよう迫られたという。
