台湾の内政部長(内務大臣)劉世芳氏は8月11日、立法院での質疑で「中華民国政府の立場として、中華人民共和国を承認している」と発言し、波紋を呼んだ。野党はこれを「違憲」と批判。劉氏は翌12日、「個人の見解」と訂正し、「現状維持が台湾社会の最大のコンセンサスだ」と強調した。頼清徳総統も火消しに回り、「台湾は現状を変える計画はない」と述べた。
民進党幹部が描く「中華民国の台湾独立化」理論
劉氏の発言は「個人的見解」とされたものの、「法理台湾独立」支持の本音がにじむと受け止められた。劉氏は今年3月の大規模リコール運動の際、「頼清徳を台湾国の主として迎えよう」と訴えた経緯もある。
頼総統は演説「国家の団結十講」の第三講で「台湾は制憲に参加していない」という誤りを含む歴史認識を示したが、同時に「憲法改正を経て、台湾の人々が主体となった」と強調していた。
この直前には陸委会副主任委員の梁文傑氏が「われわれの政府にとって中華人民共和国は存在する」と発言しており、民進党進歩派の間で「中華民国の台湾独立化」論が三段階で固まったとされる。すなわち、①7回の憲法改正で主権主体を台湾に限定、②中華人民共和国の存在を承認、③中華民国が中華人民共和国を承認する、という流れだ。
この憲法解釈は、陳水扁元総統の「できないならできない」という現実認識を踏まえたものであり、米国が台海の現状維持を強く求める中で形成された。民進党政権は憲法や付属条項を改正せずとも、台湾独立志向層への説明が可能になり、同時に対外的には「現状維持」を掲げられる。内部的には青鳥や黒熊といった反中勢力を動員しつつ、米国や北京にも受け入れ可能な姿勢を演出している。

法解釈は国内向け宣伝に 標的は中国出身配偶者グループ
民進党政権がどれほど憲法の新たな解釈を打ち出しても、《増修条文》前文に明記された「国家統一前の必要に応じて」や、第11条の「自由地区と大陸地区の間の人民の権利義務関係及びその他の事務は、特別法で処理できる」との規定は無視できない。憲法も、憲法と同格の《両岸人民関係条例》も改正しない限り、「両岸二国」論は法的根拠を欠き、陸委会が外交部に統合されることもなければ、中国大陸の住民は「入台証」がなければ台湾に入境できない現実は変わらない。
つまり、頼清徳氏や梁文傑氏、劉世芳氏が唱える二国論的な憲法解釈は、台湾独立を実現できない現状の中で国民を思想的に誘導する国内向け宣伝に過ぎない。外部には「現状維持」を示し、米国や北京にも受け入れ可能な姿勢を装いながら、米国が疑念を抱かない限り国内での議論は許容される――それが政権がこの方針を取る理由だ。
この憲法解釈が国内政治の操作である以上、政権は攻撃対象となる「内部の敵」を探す。その矛先は、政治的に立場の弱い中国出身の配偶者グループへと向けられた。3月に起きた「武統陸配」事件は、異分子排除の動きの幕開けとなり、行政措置による国外退去を示すものだった。最近では、公職に就く中国出身の配偶者までもが標的となっている。