人生の現実はドラマよりも奇妙である。台湾に住む中国籍配偶者に対し、「除籍証明」の提出を求める政策が波紋を広げている。6月末を期限として、約1万2千人の対象者のうち、7600人はすでに手続きを済ませたが、残る約4400人は未提出のままだ。このまま提出しなければ、台湾籍を失う可能性がある。多くの当事者が混乱と不安にさらされるなか、陸委会の対応は人権や倫理に反し、憲法上の問題に発展しかねないと指摘されている。
普通法が特殊法を凌駕? 政策変更の裏で揺らぐ法秩序
問題の発端は、選挙期間中に無所属で出馬した徐春鶯氏の存在だった。邱太三氏が主導した陸委会は、突如『国籍法』における「国籍放棄」規定を前面に押し出し、それまで適用されてきた『両岸人民関係条例』の規定を覆した。元法務部長である邱氏が、「普通法が特殊法に優先する」と平然と語ったことに法曹界も驚きを隠せなかった。
同様の影響は、南投県の議員・史雪燕氏にも及んだ。彼女は中国籍配偶であり、陸委会が議会に送った文書をきっかけに議員資格を失い、現在も行政訴訟を継続している。さらに、陸委会は「居住証」と「定居証」の区別や法解釈を明確に示すことができず、政策変更が相次いだことで混乱が広がっている。

過去には「居住証」の取得が台湾籍の喪失につながるとされていたが、現在では「定居証」を取得して観察期間を経た場合にのみ、台湾籍が失われるという解釈に変わっている。
過去の法律が遡及される
福建華僑大学の教員である張立齊氏は、昨年1月に中国の定居証を取得したことにより、台湾の身分証とパスポートを取り消された。当時は合法とされた手続きが、2025年の法解釈変更によって違法とされた形だ。さらに、旅行業者が業務上取得した「中国辺境通行証」も、突然身分喪失の原因とされる事例が明らかになった。

また、中国出身の人気ブロガー「亞亞」氏が、滞在中に武力統一を支持する発言をしたとされ、居留許可を取り消された事件を契機に、当局は中国出身配偶者および新住民二世に対して、3か月以内に「原籍喪失証明書」の提出を求める通達を出した。応じなければ、台湾籍を取り消すと警告している。
故郷の身分が罪になる
20年以上台湾で暮らしてきた多くの中国籍配偶者が、突然「故郷の身分」を理由に身分を奪われる事態に直面している。制度は「除籍証明」という一枚の紙を盾に、彼らを「罪の温床」とみなし、社会から排除しようとしている。
このような対応は、中国出身配偶者を民進党の対抗勢力へと追いやる結果を生みつつある。かつて民進党を支持していた新住民たちの間でも、「人種差別的でナチス的」との受け止めが広がっている。皮肉なことに、昨年成立した「新住民基本法」では、「どの国から来ても、台湾に住む者は住民である」と明記されている。それにもかかわらず、陸委会と移民署の対応は、その理念を裏切るものとなっている。

「抗中」の政治扇動が国際的批判を招く危機
民進党は「抗中」をスローガンに、リコール運動を勢いづけているが、その一環として「中国出身配偶者(陸配)」を中国と台湾の対立の中で「内応者」とみなすような視線を強めている。人権や倫理に反する措置は、国際社会からの批判を招くリスクを孕んでいる。
中国古代の故事にあるように、「秦を滅ぼす者は胡人なり」との予言に従い、始皇帝が万里の長城を築いたが、実際に秦を滅ぼしたのは内部の胡亥であった。今日の民進党が陸配を排除しようとする構図も、自己矛盾と内部腐敗に根ざした「中飽私囊」(権力を利用して私腹を肥やすこと)と「外強中乾」(外見は強固に見えても内実は脆弱であること)が原因となるのではないか、という懸念の声が上がっている。
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