シンガポールからの報道によれば、イギリス海軍の空母「プリンス・オブ・ウェールズ」が6月23日にシンガポールへ入港した。同日、中国軍の北部戦区に所属する「遼寧号」と南部戦区の「山東号」空母編隊は、太平洋での遠洋訓練および紅藍対抗演習を終え、それぞれ山東省青島および南シナ海方面へ帰港したとされる。「山東号」は海南省三亜に一足先に帰還し補給を受けており、イギリス空母の南シナ海進入に備え、中国南部戦区の海空兵力が応答する可能性がある。
6月18日から22日にかけて、中国東部戦区はイギリス艦の台湾海峡通過や、頼清徳総統による定例軍事会議開催に反応する形で、海空監視および「聯合戦備警巡」を実施。また、北部・南部戦区の空母編隊もデータリンク通信による協同訓練を行い、運-8哨戒機による情報支援と対潜任務が確認された。
台湾の外交部は6月19日、イギリス海軍の哨戒艦「HMSスペイ」が18日に台湾海峡を通過した件について、航行の自由を実際の行動で示したと評価し、台湾海峡が国際水域であるとの主張を明確に支持する立場を示した。台湾駐在のイギリス事務所も、同艦の行動は国際法に完全に準拠していると表明した。
また、在台イギリス事務所は、イギリス海軍はどの地域でも行動する際、国際法を完全に遵守していると説明した。
イギリス海軍報道官:「HMSスペイの台湾海峡通過は長期計画に基づいたものであり、今回の航行も国際法を完全に遵守している。」
中国「環球時報」は、中国人民解放軍東部戦区がスペイの台湾海峡通過を「公開の扇動」とし、イギリスの行動は破壊行為であり、台海の平和と安定を乱していると報じた。
今回、イギリス艦が台湾海峡を通過した件について、台湾では国防部ではなく外交部が対外発表を行った。こうした対応は極めて異例である。
台湾国防部が6月18日に発表した内容によると、同日、中国の軍用機25機が台湾周辺空域で活動し、そのうち19機が台湾海峡の中線を越えて北部および南西空域に進入した。この動きは、イギリス艦の海峡通過に対する中国側の軍事的反応の一環であるとみられる。また、台湾周辺海域では中国海軍の艦艇7隻が確認されており、通常、中国軍は1〜2隻で中線両側の監視を行っていることから、今回の展開はやや異例と言える。
さらに、6月20日午前6時から21日午前6時にかけては、中国軍機40機が周辺空域に出現。そのうち27機が中線を越えて台湾の中部、西南、東部空域に進入した。20日12時10分の国防部発表では、午前8時50分からの24機による飛行が確認され、スホーイ30戦闘機や空中警戒管制機「空警-500」を含む15機が中線およびその延長線を越えて行動。中国海軍艦艇との「联合戦備警巡」の連携が示唆された。
6月19日から20日にかけて、台湾周辺で活動・演習を行った中国軍機は合計90機にのぼる。この動きと同時に、頼清徳総統は19日にイスラエルとイランの衝突激化や、中国軍の第一・第二列島線における継続的な演習を踏まえて定例軍事会議を主催。国防部および国家安全保障チームに対し、あらゆる突発事態への即応体制を強化し、地域の平和と安定を維持するよう指示を出した。
なお、中国軍の「遼寧号」「山東号」という2隻の空母による太平洋遠征および紅藍の模擬対抗演習に関して、現時点でその目的や背景は不明であり、メディアや関係者は主に日本の防衛省統合幕僚監部の発表に頼っている状況だ。
中国海軍が今回、西太平洋の硫黄島以南からグアム以北の海域で活動している。(画像/陸文浩提供)
画像2最後に、6月20日午前8時50分に開始された中国軍東部戦区による6月3度目の「联合戦備警巡」終了後も、中国軍機は台湾南西から蘭嶼南東の空域まで引き続き活動を展開している。
6月21日午前7時35分から午後9時10分にかけて、中国軍の主力および補助戦闘機6機が、台湾の防空識別圏(ADIZ)西南端から南南西の空域にかけて活動した。このうちの一部は、南南西辺縁を折り返し、蘭嶼東南の空域に移動した。さらに、22日午前9時15分から午後4時40分にかけて、補助戦闘機2機(うち1機は運-8哨戒機と推定される)が、広東省南澳島東南から台湾南西、そして蘭嶼東南までのADIZ南南西沿いを飛行した。他の中国機もまた、蘭嶼東方のADIZ南西辺縁に接近したことが確認されている。
メディア各社は台湾国防部の情報に依拠しているが、これら一連の動きの正確な目的については明らかになっていない。
著者は、4月1日と2日に中国東部戦区が台湾周辺で実施した「联合演训」を振り返る。とくに、2日に行われた「海峡レーダー-2025A」演習では、中国軍が殲-16戦闘機の編隊に爆撃機「轟-6」を随伴させた。また、4月23日には国防部長の顾立雄氏が立法院での質疑で、22日に台湾南西空域で行われた中国の海空合同演習の複数段階を国軍が把握していたことを明かしている。
そのうえで、6月19日から22日にかけての中国軍機の活動範囲が、台湾南西からバシー海峡、蘭嶼、そして緑島の東方にまで及んでいた事実を踏まえ、今回の展開との類似点が指摘されている。
6月19日午前7時から午後8時35分まで、中国軍の主力・補助戦闘機、無人機、ヘリコプター計36機が福建省東山の東南から台湾ADIZ西南辺縁までの広範囲で活動した。一部はガウロン鼻南部を経由し、蘭嶼東南のADIZ南南東辺縁にまで至っている。翌20日午前7時5分から午後9時40分には、17機の主力・補助戦闘機および無人機がADIZ西南辺縁から南西方向に飛行し、さらに東北へと進路を変えて台東以東の空域で展開した。これらの機体は殲-16および爆撃機-6と推定され、補助機には運-8哨戒機や無人機も含まれる。21日から22日にかけても、補助戦闘機として運-8哨戒機が確認された。
総括すると、6月19日から20日にかけて、中国東部戦区は台湾周辺で「联合戦備警巡」を展開し、北部・南部戦区の空母「遼寧号」「山東号」と連携して、データリンク通信を駆使した「内圍・外抗」の拒止・反介入演習を行った。続く21日から22日には、運-8哨戒機が「山東号」空母に対して海空情報支援および対潜任務を継続的に実施したとみられる。
一方、イギリス海軍の空母「プリンス・オブ・ウェールズ」が6月23日にシンガポールへ到着した。この動きを受けて、中国南部戦区の「山東号」空母編隊が、西太平洋を横断し、22日午後8時にフィリピンのルソン島東北を経由してバブヤン海峡付近を通過し、23日には南シナ海に入るとの日本防衛省統合幕僚監部の予測が伝えられている。「山東号」は、英空母打撃群の南シナ海到来に先んじて、補給のために帰港した可能性がある。