近年、日本の安全保障政策における台湾への関心が高まる中、海上自衛隊の艦艇による台湾海峡の航行が注目を集めている。2025年11月に高市早苗氏が国会で「台湾有事は日本有事」と述べたことに続き、2026年4月17日、横須賀基地所属の護衛艦「いかづち」が、台湾海峡を北から南に向けて航行した。
同時期、佐世保基地所属のヘリコプター搭載護衛艦「いせ」および呉基地所属の輸送艦「しもきた」も、台湾東方の西太平洋からバシー海峡付近を経て南シナ海へと向かった。これらの艦艇は4月20日から開始される米フィリピン合同軍習「バリカタン2026」に参加する予定であるが、中国側はすでにこれら一連の動きを厳重に監視している。
下関条約記念日にあわせた航行と中国軍の反応
今回の「いかづち」の航行が、清朝政府が台湾などを日本に割譲した「下関条約」の締結日(1895年4月17日)に選ばれたことは、日本側の意図的な演出と見られている。これは、中国人民解放軍による台湾包囲網に対し、戦術的に逆包囲をかけるとともに、台湾海峡の平和を支持する姿勢を鮮明にしたものと言える。
しかし、17日当日の中国軍の反応は、従来の外国艦艇通過時とは異なるパターンを見せた。
- 17日の対応:台湾海峡上空に無人機2機を派遣して偵察を行い、艦艇を併航させて監視するに留まった。これまでの陸海空軍による多面的な威嚇とは一線を画す。
- 18日以降の動向:東部戦区が東シナ海での合同戦備巡航を発表。
- 19日の動向:作戦艦2隻が横当水道を通過し、西太平洋に進入。
- 20日の動向:頼清徳総統の5月22日のエスワティニ訪問を前に、北部戦区所属の空母「遼寧」を中心とする艦隊が台湾海峡を南下。
こうした中国軍の対応パターンの変化は、日本に対する圧力をさらに強める意図があると分析される。
中国軍の反応パターン変化と12の分析視点
筆者は、前述した中国軍による対日圧力の強化と対応パターンの変化について、以下の12項目にわたる重点的な観察と分析を行った。
2026年4月17日19時19分、中国人民解放軍東部戦区は微博(Weibo)上の公式アカウントにて、「東部戦区報道官、日本の護衛艦『いかづち』の台湾海峡通過に関し談話を発表」と題した声明を投稿した。
東部戦区報道官の徐承華陸軍大校は、「4月17日4時2分から17時50分にかけて、日本の護衛艦『いかづち』が台湾海峡を通過した。これは『台独(台湾独立)』分裂勢力に誤った信号を送るものである」と主張。その上で、東部戦区が海空兵力を組織して全行程を監視・警戒し、有効な規制・管理を実施したと強調した。また、「部隊は常に高度な警戒態勢を維持し、国家の主権と地域の平和を断固として守る」との強硬な姿勢を示している。
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台湾国防部のデータに基づく軍活動の解析
中国側が強硬な姿勢を見せる中、筆者は台湾国防部(国防省)が18日に公表した「中国軍の台湾周辺空域活動図」を精査した。18日午前の報道段階では、前日の日艦通過に対する中国軍の具体的な反応が十分に確認できなかったが、国防部が公式サイトに掲載した詳細図面から以下の動態が判明した。
支援機による活動(17日 06:00-10:00)
計2個ソーティー(機次)の補助機が、台湾南西の防空識別圏(ADIZ)から南南西の境界付近にかけて活動。
艦載ヘリの動向(17日 11:45-12:30)
1機の艦載ヘリコプターがバシー海峡付近およびADIZ南側の境界空域に出現。このことから、当該海域には少なくとも3,000トン級以上の中国艦艇が展開していたと推測される。
台湾海峡正面における無人機の動静
17日06:00から19:50にかけて、計2機の無人機が東引島の南東から金門島の南方(澎湖諸島西方)にわたる台湾海峡西側の空域で活動した。
注目すべきは、過去に米国、豪州、ニュージーランド、日本の艦艇が海峡を通過した際、中国軍は通常、陸軍航空隊の攻撃ヘリ「WZ-10(武直-10)」を1〜3機派遣して管控(コントロール)を行っていた点である。しかし今回、護衛艦「いかづち」が通常の西太平洋ルートを避け、あえて131年前の「下関条約」締結日に合わせて台湾海峡を南下したことに対し、中国軍は無人機を主軸とした新たな監視パターンを適用した。
筆者は、近年の中国軍による日艦への反応から導き出される12の重要ポイントを以下の通り分析する。
1. 中国軍、初の無人機による夜間航行を実施 台湾海峡の監視体制を強化
中国人民解放軍(PLA)東部戦区が、日本の護衛艦「いかづち」の存在を確認した時間は4月17日の04時02分から17時50分とされる。一方、台湾国防部(国防省)は、同日06時00分から19時50分にかけて2機ずつの無人機が台湾海峡中線付近で活動したことを公表している。
ここで注目すべきは、東部戦区が「いかづち」を検知した04時02分から、台湾側が無人機を確認した06時00分までの空白の約2時間である。筆者が4月17日09時37分に台湾国防部が公式サイトで公開した情報を精査したところ、4月16日21時30分から17日06時00分にかけて、2機の無人機が台湾海峡空域で初めてとなる夜間航行活動を行っていたことが判明した。これにより、中国軍は夜間から無人機を投入し、海空域の目標を常時監視する体制に移行したことが示唆される。
2. 電子偵察および観測・通信システムによる日艦への協調監視
しかし、筆者は中国軍がすでに護衛艦「いかづち」の平面捜索レーダーの特性(パラメータ)を把握していた可能性が高いと分析している。中国軍は電子偵察(ELINT)と観測・通信システムを密接に連携させることで、AISが停止された状態であっても、レーダー波の特性を照合することにより「いかづち」を正確に捕捉し、監視を継続していたものと思われる。
3. 中国電子偵察艦による捕捉とデータ連携の分析
護衛艦「いかづち」は、横須賀基地を母港とする海上自衛隊自衛艦隊(護衛艦隊)第1護衛隊群第1護衛隊所属の汎用護衛艦であり、1999年の就役以来、哨戒や監視任務の主力として活動を続けている。
筆者の分析によれば、中国海軍北部戦区所属の電子偵察艦「799」が4月11日に大隅海峡を経由して西太平洋に入域しており、さらに別の電子偵察艦「791」も台湾東方海域で活動を継続していた可能性がある。特に、電子偵察艦「799」が「いかづち」の航行中に近距離で平面捜索レーダーの電子パラメータを収集した可能性が高い。収集されたデータはデータリンク通信システムを介して、台湾海峡内で監視にあたっていた艦艇や無人機に共有され、非対称的な警告体制の構築に利用されたと考えられる。
4. 少数兵力による監視体制への転換と潜在的脅威
4月上旬の台湾周辺における共軍艦艇の配備状況(フリゲート「FFG556」「FFG534」「FFG618」「FFG517」、ミサイル駆逐艦「DDG123」、電子偵察艦「AGI791」など)と比較すると、今回の対応には変化が見られる。
4月17日から18日にかけての台湾国防部の発表によれば、確認された兵力は共機5機、共艦6隻、公務船1隻に留まった。公開された監視映像から推測すると、実際に台湾海峡内で「いかづち」を目視距離で監視していたのは、東部戦区海軍の作戦艦1隻のみ(三都澳およびアモイの駐留艦による交代制の可能性あり)であった可能性が高い。また、海警局の艦艇が関与した可能性は極めて低いと見られる。
筆者が危惧するのは、この「少数兵力による監視」が、中国軍の反応パターンの変更を示唆している点である。岸置の観測・通信システムによる全行程の監視に加え、地対艦ミサイル「鷹撃62(YJ-62)」などの機動部隊が、遠隔地から待機・備戦状態にあった可能性も否定できない。これについては、今後日本側から、当時中国軍の地対艦ミサイルの火器管制システム(FCS)によるロックオンや、特有の信号が探知されたといった情報が公開されるかどうかに注視する必要がある。
5. 空中兵力は無人機のみの投入、日本への明確な「戦術的軽視」
台湾国防部の公開データによると、今回の監視における中国軍の空中兵力は、少なくとも1〜2機の無人機のみであった。中国側はこれら無人機を用いて護衛艦「いかづち」を上空から追尾・撮影しており、公開された映像では艦上の各種兵裝まで鮮明に捉えられている。筆者が驚いたのは、これまで外国艦艇の通過時に必ずといっていいほど派遣されていた陸軍航空隊の攻撃ヘリ「WZ-10(武直-10)」が、今回東部戦区から投入されなかった点である。
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筆者の見解では、日本の護衛艦が航行中に艦載ヘリによる警戒任務を行っていなかったため、中国側も攻撃ヘリを派遣して対抗する必要がないと判断した可能性がある。投入された無人機が、ミサイル搭載可能な偵察・攻撃一体型の「彩虹(CH)」シリーズであったのか、あるいは純粋な偵察型であったのかについては、今後の情報公開を待つ必要がある。いずれにせよ、有人機を避けて無人機のみで対応したことは、日本に対する「戦術的な軽視(侮り)」の意図が含まれていると見て間違いないだろう。
6. パターンの変化、台湾への直接報復から東シナ海での活動へ
従来、外国艦艇が台湾海峡を通過した直後、中国軍東部戦区は台湾周辺海空域で「聯合戦備警巡(合同戦備パトロール)」を実施し、いわば台湾を「罰する」ような行動をとるのが常であった。しかし、今回はそのパターンに変化が見られる。
東部戦区の徐承華報道官(陸軍大校)は4月18日16時01分、微博(Weibo)にて「同日、東部戦区は『東シナ海(東海)の関連海空域』において海空兵力による合同戦備巡航を実施した」と発表した。これは「年度計画に基づく正常な活動であり、部隊の統合実戦能力を検証するもの」としている。
護衛艦「いかづち」は横須賀を母港としており、南シナ海へ向かうのであれば西太平洋からバシー海峡を経由するのが最短ルートである。にもかかわらず、あえて台湾海峡を通過したことは、中国側にとって極めて挑難的な軍事的・政治的意図があると捉えられた。特に131年前の4月17日は、清朝政府が日本と「下関条約(馬関条約)」を締結し、台湾全島および澎湖諸島を日本に割譲した日でもある。
日中間の政治的・軍事的な対立はさておき、護衛艦が横須賀から台湾海峡へ入るには、大隅海峡または宮古海峡という戦略的な海上交通路を通過せざるを得ない。このことから、今回中国軍が「東シナ海の関連海空域」で実施した合同戦備巡航の具体的なエリアは、大隅海峡や宮古海峡の西方に位置する、浙江省沖の海域(浙東海域)であったと推測される。
7. 管轄海域ごとの駐留艦による近接対応体制
護衛艦の台湾海峡南下に関連し、中国の国営テレビ(CCTV)は先日、中国海軍の054A型護衛艦「紅河」が巡視任務中に外国軍艦の台湾海峡進入に遭遇し、20時間に及ぶ追跡・対峙の末にこれを駆逐したと報じた。筆者が調査したところ、これはCCTV-7(国防軍事チャンネル)の番組『軍事紀実』において、4月15日夜に放送された「海上猛虎、深藍を突き進む」と題した同艦の活動記録であった。
筆者の分析では、現在福建省に展開する兵力は三都澳に15隻、アモイに7隻の護衛艦が駐留している。このため、アモイ駐留の「紅河」がわざわざ遠方の北方海域まで出動したとは考えにくい。北方海域の警戒は、より近隣の三都澳に駐留する多数の艦艇が担当するのが合理的である。こうした「管轄海域を分担して守る」モデルは、中台のみならず、全世界の海軍において一般的な運用形態である。
8. 台湾海峡入域前夜、尖閣諸島北方における中国軍の動態
日本側が4月11日に中国の電子偵察艦「799」が東シナ海から大隅海峡を経て西太平洋へ入ったことが確認される前、筆者は台湾国防部の公表データにおいて不審な動静を捉えていた。
4月7日より、浙江省と福建省の境界付近の東方海域で中国軍機が頻繁に活動を開始。9日には5機の主力戦闘機が尖閣諸島以北の空域へ直接進出した。続く10日には同空域での主力戦闘機の活動は12機にまで達し、13日には2機に減少したものの、一連の活発な動きが確認されている。
9. 東部戦区海軍による艦隊組織と海上遮断演習の実施
中国人民解放軍東部戦区は4月19日18時17分、公式微博(Weibo)にて「東部戦区、133艦艇編隊が横当水道を通過し西太平洋での演習を実施」と題した情報を公開した。東部戦区報道官の徐承華陸軍大校によれば、19日、133艦艇編隊が横当水道(鹿児島県横当島と奄美大島の間)を通過し、西太平洋海域で「遠海作戦能力」の検証を目的とした演習を開始した。
これは年度計画に基づく例行的な訓練であり、国際法に合致した特定国家を対象としないものとされている。しかし、日本の防衛省統合幕僚監部の発表(20日午後公開)によれば、19日午前11時頃、中国海軍の作戦艦2隻(ミサイル駆逐艦133、フリゲート577)が東シナ海から北東へ向けて航行し、横当水道を抜けて西太平洋へ向かったことが確認されている。
筆者の調査によれば、これら2隻はいずれも東部戦区海軍の浙江省・舟山基地を母港とする。
- ミサイル駆逐艦「包頭(133)」:第3駆逐艦支隊所属、052D型。
- フリゲート「黄岡(577)」: 第6駆逐艦支隊所属、054A型。
今回の編隊には遠洋補給艦が随伴しておらず、これまでの経験から訓練期間は短期に留まると推測される。また、第3・第6支隊による混成、かつ駆逐艦とフリゲート各1隻という構成は、海上からの接近目標に対する「戦術的遮断任務」を目的とした臨時編制である可能性が高い。
航路を東シナ海から南東の横当水道へ向けた点は、西太平洋を経由せず、あえて大隅海峡付近から台湾海峽を南下した海上自衛隊の護衛艦「いかづち」の動向を明確に意識した対抗措置と言えるだろう。
10. 「戦区主戦」の原則に基づく発表、「東部戦区」名義は必然
しかし、2016年の軍改革以降、中国軍は「軍事委員が総括し、戦区が作戦を主導し、軍種が部隊建設を主導する(軍委管総、戦区主戦、軍種主建)」という原則を徹底している。東部戦区が管轄区域の防衛と作戦指揮を担い、「戦区主戦」の原則に従う以上、対外的な発表が戦区名義で行われるのは標準的な手順であり、単一の軍種やその下部組織から発表されることはあり得ない。したがって、戦区海軍による発表ではないことに過度な特殊性を見出す専門家の指摘は、現在の指揮体系を鑑みれば的外れと言わざるを得ない。
そもそも今回の軍事行動は、海軍の部隊建設ではなく、備戦・作戦のカテゴリーに属するものである。例えば、空母「福建」の公試などは建設段階であるため海軍報道官が対応するが、実戦配備後は南部戦区や国防部が発表を担うことになる。今回のケースも、戦区が主体となるのは当然の帰結である。
11. 中国軍事専門家による過大評価、2隻の出動における「多軍種連携」の実態
筆者の分析によれば、今回の行動は東部戦区海軍が統括し、第3および第6駆逐艦支隊を混成編制して「遠海作戦能力」を検証したものである。中国当局は「年度計画に基づく例行的な訓練であり、第三者を標的にしたものではない」と主張しているが、これまでの経験からしてその説明は当たらない。外国艦艇による挑発的な航行に際し、港湾の当直艦が即座に出撃して迎撃・打撃のシミュレーションを行うのは、中国軍の常套手段である。
また、中国の軍事専門家は今回の行動が「多軍種間の連携」に関わるものだと過大に喧伝しているが、実態を冷静に観察すれば、せいぜい海軍の駆逐艦・フリゲートと艦載ヘリコプターによる連携にとどまるものである。これを広範な軍種間連携と称するのは、多分に誇張が含まれていると言わざるを得ない。
12. 「下関条約」締結日の政治的意図と空母「遼寧」の南下、軍事的圧力による主権誇示
2026年4月20日17時、台湾国防部(国防省)はプレスリリース(筆者が21日14時に脱稿した時点では公式サイト未掲載)を通じ、中国軍の空母「遼寧」が「J-15」戦闘機8機とヘリコプター3機を搭載し、台湾海峡を南下したと発表した。これに先立つ17日、筆者は北部戦区所属の「遼寧」が055型駆逐艦2隻、および901型総合補給艦「呼倫湖(艦番号901)」とともに出撃した動向を指摘していた。
今回の動きは、南部戦区の空母「山東」がドック入りしている可能性が高い中、4月20日からフィリピン・ルソン島北部で開始された米比日合同演習「バリカタン2026」への対抗措置と見られる。中国海軍の記念日である「海軍節(4月23日)」を前に、北部戦区から「遼寧」艦隊を派遣して南部戦区の警戒・対応能力を支援する狙いがあり、同艦隊は少なくとも5月8日までは当該海域に留まると推測される。
台湾周辺海域における中国艦艇の数は、19日に11隻まで急増(それまでは6隻)し、20日には7隻に減少した。この変動は「遼寧」艦隊の台湾海峡進入、あるいは「バリカタン演習」を遠方から警戒する部隊の動向と密接に関連している。
今後の注目点、空母「福建」の動向と新たな演習パターン
今後注目すべきは、南部戦区の新型空母「福建」の訓練および艦載機の展開が完了した後の動向である。「福建」が西太平洋での遠洋訓練を開始した際、北部戦区の「遼寧」と合流し、昨年の「山東」の事例のように日本以南の海域で「2隻の空母による合同演習」を実施するかどうかが焦点となる。
もしこれが実現すれば、中国海軍にとって常態化された「戦役レベル」の統合演習モデルが確立されることになる。また、4月23日の台湾周辺は天候の悪化が予想されているが、横当水道から西太平洋に入った東部戦区の快速反応編隊(133および577)が、南西諸島を迂回して台湾東部海域での「合同戦備警巡」に加わるかどうかも、中国軍の行動パターン変化を見極める重要な観察点となるだろう。
*筆者:陸文浩(りく・ぶんこう)、中華戦略学会の研究員。