筆者は5月5日の時点で、米比合同軍事演習「バリカタン2026」が5月8日に終了した後、中国人民解放軍の北部戦区に所属する空母「遼寧」編隊が機をうかがい、バシー海峡を経て西太平洋で遠洋訓練を行う可能性があると推測していた。
中国人民解放軍海軍は5月19日午前10時4分、「5月19日、中国人民解放軍海軍は空母『遼寧』編隊を西太平洋の関連海域へ派遣し、訓練を実施する。期間中、遠洋での戦術飛行、実弾射撃、支援・掩護、総合救難などの訓練課目を実施し、部隊の実戦化訓練の水準を検証・向上させる。これは年度計画に基づく定例訓練であり、任務遂行能力を不断に高めることを目的としており、関連する国際法および国際慣行に合致している」と対外的に発表した。
一部メディアは、頼清徳総統の就任1周年を前にした時期の空母編隊の活動は、地域の不安と不安定をもたらす最大の要因になると報じている。また、中国海軍は今回、台湾や日本の防衛当局に先んじて、「遼寧」が西太平洋へ向かうと同時に遠洋訓練の実施を発表した。
中国大陸の軍事専門家の一部は、中国軍が「異例にも事前に外部へ通報した」と指摘しているが、筆者の分析は異なる。中国軍は少なくとも15日間の遠洋訓練を終えた後、北上して母港へ戻るとみられる。その間、南西諸島で行われる日米の演習を念頭に、対応する戦術訓練を実施すると筆者は推測している。
本稿では、空母「遼寧」の過去3年間の活動を整理し、2024年から2026年までの動向を分析する。
別表
空母「遼寧」、米比「バリカタン」演習に反応し急速に南下 まず筆者が確認したのは、4月17日に中国軍北部戦区海軍の空母「遼寧」、055型駆逐艦2隻、901型総合補給艦「呼倫湖」(艦番号901)などが山東省青島港を出港したことだ。
4月20日午後5時の報道によると、台湾国防部(国防省に相当)は、中国軍の空母「遼寧」がJ-15艦上戦闘機8機とヘリコプター3機を搭載し、台湾海峡を南下したと発表した。
南部戦区海軍の空母「山東」はなおドック入りしている。中国側は、4月20日からフィリピン・ルソン島北部周辺海域で始まった米比日による「バリカタン」合同演習に対応するため、北部戦区から空母「遼寧」を迅速に南下させたとみられる。
筆者は5月5日の時点で、5月8日の「バリカタン2026」終了後、北部戦区の空母「遼寧」編隊がその後の情勢を見極め、バシー海峡を通過して西太平洋で遠洋訓練を行う可能性があると推測していた。その後も北部戦区の「遼寧」の動向と意図を注視していたところ、5月18日には同戦区海軍の901型総合補給艦「呼倫湖」が出港したとの情報を確認した。
翌19日午前10時4分、中国人民解放軍海軍は公式微博で、空母「遼寧」編隊を西太平洋の関連海域へ派遣し、遠洋での戦術飛行、実弾射撃、支援・掩護、総合救難などの訓練を実施すると発表した。
「異例の事前通告」ではない 遼寧はすでに西太平洋へ進入か 筆者の長年の観察と記録によれば、中国軍は艦艇が先に所定の位置に入り、演習が始まった後に発表するのが常である。したがって、中国大陸の軍事専門家が言うような「異例の事前通告」ではない。
5月19日午前10時4分、中国海軍は「遼寧」編隊が西太平洋の関連海域で訓練を行うと発表した。一方、台湾国防部が対外的に発表したのは同日午後5時50分だった。
台湾国防部によると、同日午前8時36分以降、中国軍のJ-10戦闘機、J-16戦闘機、KJ-500早期警戒管制機など主力機・支援機、無人機を含む計22機が海上へ進出した。このうち11機が台湾海峡の中間線およびその延長線を越え、台湾北部、中部、南西部、東部の空域に進入し、中国艦艇と連携して「連合戦備警巡」を実施した。
この時間的な前後関係は、筆者に疑問を抱かせるものだった。
5月18日には、一部メディアが軍事愛好家による無線傍受記録を引用し、中国海軍航空兵の戦闘機が台湾軍機に対し、「台湾の航空機、こちらは中国海軍航空兵だ。あなたは我が方の飛行の安全を脅かしている。安全な距離を保て」と繰り返し警告したと報じた。当日、台湾南西空域では中国、米国、台湾の軍用機がそれぞれ活動していた。
また、5月19日午後2時33分、Facebookページ「Taiwan ADIZ」は「今朝は南東海域で各国軍機の活動が錯綜している」と投稿した。
台湾国防部が5月19日午前9時20分に公式サイトで公開した「中国人民解放軍の台湾周辺海・空域の動向」図によれば、18日午後3時から19日午前3時45分にかけて、ヘリコプター、すなわち艦載ヘリと無人機の計3機が確認されている。
筆者は、このうち中国軍の無人機1機が福建省漳浦から、澎湖諸島南西を経て台湾南西空域に沿ってバシー海峡付近へ向かい、その後、台湾の防空識別圏(ADIZ)南東空域を通って北上し、緑島東方へ至ったと推測している。この無人機は、少なくとも1隻の3000トン級の中国艦艇と連携し、共同監視・偵察任務を行った可能性がある。過去の軌跡から見ても、バブヤン諸島付近の水域を通る動きには一定のパターンがある。
これらの活動が台湾の防空識別圏外で行われていたこと、中国艦艇の台湾周辺海域における日ごとの集計数が増えていなかったことなどを総合すると、この時間帯は、北部戦区海軍の空母「遼寧」編隊が南シナ海からバシー海峡付近の水域を経て、フィリピン・ルソン島北部に接近しながら、18日午後から19日未明にかけて西太平洋へ進入した時期にあたると考えられる。
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その直後に、中国海軍が19日朝に発表を行ったことになる。
台湾側が公表しなかった理由としては、活動が台湾の防空識別圏外であったことが考えられる。また、日本側についても、「遼寧」編隊が西太平洋のフィリピン海に進入してから数日後に、その後の西太平洋やフィリピン海での演習動向を公表する可能性がある。
各戦区の艦艇が台湾周辺で連動 「遼寧」編隊を支援か 台湾国防部が5月17日から19日にかけて発表した「中国人民解放軍の台湾周辺海・空域の動向」とその図面、日本防衛省統合幕僚監部の情報などを照合すると、19日には東部戦区海軍の第3駆逐艦支隊、浙江省舟山に駐留する054A型フリゲート「徐州」(艦番号530)と、南部戦区海軍の第9駆逐艦支隊、海南省三亜・亜龍湾に駐留する052D型駆逐艦「銀川」(艦番号175)が台湾南西海域で活動していたことが分かる。
これらの艦艇は、中国軍機と連携し、台湾周辺の海空域で「連合戦備警巡」を実施していたとみられる。
さらに、5月17日から18日にかけての台湾国防部の情報によれば、尖閣諸島の北西で2日連続してヘリコプター1機が活動していた。加えて、緑島南東の海空域でも艦載ヘリ1機と中国艦艇1隻が確認されている。
これは明らかに、中国軍の作戦艦艇に搭載された艦載ヘリであり、当該海域に中国艦艇が1隻展開していたことを示すものだ。
また、19日に日本側が発表した中国艦艇545と901型補給艦、すなわち中国で俗に「空母の乳母」とも呼ばれる大型補給艦が、18日から19日にかけて浙江省舟山以東の海域を通り、宮古海峡を経て西太平洋へ進入したことも注目される。
本稿の別表の統計によれば、北部戦区海軍の第1作戦支援艦支隊、青島に駐留する901型総合補給艦「呼倫湖」(艦番号901)は、今回初めて、遠洋で空母に対する迅速な機動支援と海上後方支援を担ったとみられる。同艦は、燃料、水、物資、弾薬などを海上で補給する能力を持つ。
「呼倫湖」は黄海から、空母「遼寧」は南シナ海から、それぞれ西太平洋へ進入したと考えられる。
一方、南部戦区海軍の駆逐艦「銀川」は、「遼寧」が南シナ海から西太平洋へ進入する際、南方から空母編隊の遠距離側面における海空の早期警戒と護衛を提供した可能性がある。
さらに、4月28日から米日比豪ニュージーランドの艦艇を監視していた中国艦艇、電子偵察艦を含む部隊、またフィリピン・ルソン島東方海域に展開していた南部戦区の107艦編隊、補給艦を含む部隊も、「遼寧」に対して支援・掩護任務を行っていたとみられる。
054B型フリゲート、初めて空母編隊に参加 このうち艦番号545は、北部戦区海軍の第1駆逐艦支隊、山東省青島に所属する054B型フリゲート「漯河」である。同艦は2025年1月に就役した。
就役から1年を経て、全艦の総合訓練評価を終えた後、今回初めて北部戦区の空母「遼寧」編隊による西太平洋遠洋訓練の支援任務に加わったことになる。
054B型フリゲートは、中国大陸の次世代空母遠洋護衛艦として位置づけられる。満載排水量は約6000トンに増え、動力、新型の両面回転式アクティブ・フェーズドアレイ・レーダー、拡張された格納庫と飛行甲板を備える。さらに、新型対潜ヘリコプター「直-20(Z-20)」の搭載も可能とされる。
全体的な海空戦闘力や遠洋航行時の安定性は、054A型フリゲート、満載排水量約4000トンを全面的に上回る。これにより、将来の遠洋作戦や空母護衛において、重要な海上戦力を提供することになる。
また、055型、052D/C型駆逐艦といった新型大型水上戦闘艦と組み合わせることで、空母護衛に必要な多層的な海上防空、対潜、対水上戦力を形成する。
西太平洋訓練、米日比の第1列島線封じ込めに対抗か 北部戦区海軍の空母「遼寧」は、5月8日に米比合同軍事演習「バリカタン」が終了した後、南下時に通過した台湾海峡を北上して戻るルートを選ばず、5月19日までに西太平洋へ進入して遠洋訓練を実施した。
また、北部戦区海軍の054B型フリゲート、艦番号545と、遠洋総合補給艦901は、東シナ海から宮古海峡を通過して西太平洋へ進入した。
この二つの編隊は、日米比に対して、軍事同盟によっても中国軍の第1列島線突破、すなわちバシー海峡や宮古海峡を抜けて西太平洋へ進出する行動を封じ込めることはできない、というメッセージを意図的に発信したものと考えられる。
同時に、5月8日まで行われた米比日「バリカタン2026」合同演習、さらに5月17日から6日間にわたり日本の南西諸島で実施された日米陸上部隊の合同演習に対する反応でもある。後者では、宮古島に共同指揮所が設置された。
大規模改修後の「遼寧」、演習を頻発 「山東」復帰への布石か 北部戦区海軍の空母「遼寧」は、2012年に中国大陸初の空母として就役した。その後、十数年にわたり訓練・試験艦としての役割を担い、空母運用、艦載機の育成、関連部門の教範やモデルケースの確立に寄与してきた。
2023年3月には造船所に戻り、全体的な性能向上を目的とした大規模改修を受けた。2024年2月に改修を終えて再び出航し、それまでの「訓練・試験」を主な任務とする空母から、作戦能力を備えた空母へと変化した。
その後、毎年の年度訓練において、海軍の各兵種に加え、東部戦区、南部戦区に所属する軍兵種との連携訓練を頻繁に実施している。
これは、同じスキージャンプ方式の空母であり、現在海南島の造船所で全体的な性能向上改修を受けている南部戦区海軍の空母「山東」に対し、将来の復帰後における装備性能や空母編隊戦術の参考を提供する意味もあるとみられる。
今後の観察点は、今年後半に中国軍南部戦区の空母「福建」が総合訓練を完了し、艦載機部隊の編成を整えた後、遠洋航行訓練に出るかどうかである。