トランプ米大統領は米中首脳会談後、台湾独立を望まないとの姿勢を示し、「9500マイルも離れた場所での戦争は望まない」と述べた。この発言は、台湾内政にも少なからぬ政治的衝撃を与えている。
頼清徳政権は「現状維持」を強調し、野党が「トランプ氏は頼政権を疑っている」とする批判を強めるのを防ごうとしている。そうした中、トランプ氏は頼清徳総統と電話で話す意向も示した。実際に米台首脳の電話会談は行われるのか。仮に実現した場合、与党・民主進歩党(民進党)にとって不利な政治的空気を変えるきっかけになるのかが注目されている。
一方、元米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員の黄裕鈞氏は台湾メディア『風傳媒(ストームメディア) 』の取材に対し、米政府の極めて高いレベルに近い人物の非公式な発言を把握していると明らかにした。黄氏によれば、その内容から見る限り、台湾を北京との取引材料として差し出すことが、トランプ政権の本意だとは考えにくいという。
ただし、黄氏がより警戒するのは、頼政権が拙速に動き過ぎ、トランプ氏側が10年がかりで準備してきた対中戦略の大きな構図を乱してしまう可能性だ。
黄氏は、CSIS客員研究員、復旦大学米国研究センター客員研究員、中国国民党の駐米代表処副代表などを歴任し、対米関係に豊富な経験を持つ。
米中対峙は少なくとも10年がかりの準備か 黄氏によると、最近、権威あるルートを通じて得た情報では、米政府高官に近い人物が非公式に「今後10年で米中は100%デカップリングし、サプライチェーンも分断される」と述べたという。この発言をした人物はトランプ氏に非常に近いとされ、黄氏は、トランプ政権周辺の戦略方針は変わっていないと見る。
黄氏は、彼らの戦略的思考からすれば、米中はいずれ正面から対峙する局面を避けられないと指摘する。製造業を米国に戻そうとする政策も、その準備の一環だという。たとえ米本土への回帰が難しくても、中南米など米国が影響力を及ぼせる「裏庭」へ移すことを考えているとみる。
黄氏は、トランプ氏を支える米国の超保守派を「21世紀型レーガン主義」と位置づける。こうした人々は、中国の台頭を根本的に好まず、中国と対等な立場に並ぶことも望んでいないという。
ただし、米国が独自のレアアース産業や製造サプライチェーンを築くには、10年から15年かかる可能性がある。その間は、中国との直接対決を避ける必要があるというのが、黄氏の見立てだ。
元米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員の黄裕鈞氏は『風傳媒』の取材に対し、米中はいずれ正面から対峙する局面を避けられないが、米国が独自のサプライチェーンを構築するには10年から15年を要するため、その間は北京との直接対決を避ける必要があると分析した。(写真/柯承恵撮影)
トランプ氏は台湾を「トラブルメーカー」と見ているのか 黄氏によれば、米国が台湾海峡をめぐって一貫して採ってきた政策は「二重の抑止」である。つまり、北京と台北の双方に対し、現状を変更しないよう求めるものだ。どちらか一方が現状変更につながる姿勢を見せれば、米国はその側に警告を発する。
米国が台湾を取引材料として使わない限り、この「二重の抑止」は維持される。バイデン政権時代、米国側は蔡英文前総統が台湾海峡の現状を変えることはないと見ており、現状変更を試みるのは北京だと認識していた。
しかし、トランプ氏がバイデン政権と異なるのは、現在の「トラブルメーカー」が台湾側に変わったと見ている可能性がある点だと黄氏は指摘する。
黄氏は、今回のトランプ氏の北京訪問は、ホワイトハウスの最新の「国家安全保障戦略(NSS)」を実行したものに等しいと分析する。この文書では、対中軍事対立の色合いが弱められ、経済面での競争と協力を軸に米中関係を位置づけている。こうした空気の中では、台湾政治における「抗中保台」、つまり中国に対抗して台湾を守るというカードの有効性は自然と低下するという。
黄氏は、共和党内のエスタブリッシュメントにとって、民主主義や自由といった価値は捨てられないため、台湾には米国内に依然として支持者がいると話す。
ただし、台湾問題をめぐる今後2年間の主導権は、間違いなくトランプ氏本人が握っているという。トランプ氏は習近平国家主席を「友人」と呼び、自身の任期中に習氏が台湾へ武力行使するとは考えていない。したがって、トランプ政権下で中台関係に問題が起きた場合、トランプ氏は台北側の責任をより重く見る可能性がある。これが黄氏の見る「トランプ氏の風向き」だ。
トランプ氏が習近平国家主席との良好な関係を繰り返し強調する中、台湾で掲げられてきた「中国に対抗し台湾を守る」という政治カードの効果は弱まる可能性がある。(写真/AP通信提供)
米国は頼政権の「前のめり」を懸念か 黄氏は、現在米国が懸念しているのは、今後2年間で台湾の現政権が「前に出過ぎる」「急ぎ過ぎる」ことではないかと指摘する。
黄氏によれば、頼政権の大きな問題は、国際政治を国内政治の需要から見がちな点にある。頼政権の外交政策や対中・両岸政策は、実際の国際情勢よりも、国内政治上の必要性に由来している。言い換えれば、選挙への配慮が強すぎるということだ。
現段階で、トランプ政権が望んでいるのは、米国の歩調に合わせられる台湾政府だと黄氏はみる。現在の国際環境を見る限り、ワシントンと北京は、双方がペースを合わせたい時期に入る可能性がある。北京もまた、ペースを落としたいと考えているという。
習氏にとっても、「武力による統一」にブレーキをかけ、「平和的統一」の声を高めたい意図がある。武力統一を強調し過ぎれば、台湾社会の反発を招き、台湾の人々をさらに遠ざけるだけだからだ。
問題は、頼政権がこの「ブレーキを踏む」流れに歩調を合わせられているかどうかである。
米中首脳会談後、トランプ氏がメディアのインタビューで台湾独立を望まないと述べたことについて、頼政権が事前にどのように判断していたのかを示す明確な情報はない。
米中双方が歩調を緩めようとする中、台湾の頼清徳政権がその流れに合わせられていないのではないかとの懸念も出ている。(写真/柯承恵撮影) 黄氏は、2年後の米国の対台政策がどうなるかを現時点で断定する必要はないとしつつも、少なくとも現在のトランプ氏の対台政策を踏まえれば、頼政権の対中・両岸政策にはリスクを分散する仕組みが必要だと強調する。
一方、トランプ氏は米中首脳会談後、習氏を高く評価し、友人とも呼んだ。頼氏はなお台米関係を「共に中国に対抗する」という枠組みで捉え、台湾は米国にとってインド太平洋地域の重要なパートナーだと強調している。黄氏は、双方の姿勢には明らかなずれがあるとみる。
黄氏は、頼政権は国際社会における中国の影響力の拡大を直視し、有効に対応する必要があると強調する。同時に、トランプ氏が台湾への武器売却を中国との交渉材料として扱う用意があることも認識しなければならない。これは台湾にとって、新たな挑戦である。
黄氏はさらに、習氏が「トゥキディデスの罠」を避けるべきだと強調する背景には、「東昇西降」、すなわち東側の台頭と西側の相対的衰退という大きな潮流への自信があると分析する。そのため、中国は米国に平和を維持させ、自国がさらに力をつけるための時間を得たいと考えているという。
一方、トランプ氏がベネズエラやイランなどをめぐって展開する布石は、エネルギー支配と戦略的要衝の掌握が、今後の米国戦略の最重要課題になることを示している。今後、トランプ氏が「逆ニクソン」戦略、すなわちロシアと協力して中国を封じ込める方向へ動くのか、また北大西洋条約機構(NATO)がどのように変化するのかは、引き続き注視すべき点だ。
こうした大国間の駆け引きと戦略的取引の構図の中で、台湾が直面する課題は一段と複雑になっている。
「トランプ・頼電話会談」を国内政治の材料にすべきではない 外部から期待が寄せられている「トランプ氏から頼氏への電話」について、黄氏は、この電話会談を頼氏の国内政治上の材料として利用すべきではなく、本来の戦略的意義に立ち返るべきだと指摘する。
黄氏は、台湾はより主体的な姿勢を取ることができると提言する。例えば、対米投資を拡大し、政府系ファンドを設立し、暗号資産関連分野への投資を強化することが考えられる。さらに、台湾が米国の国防サプライチェーンの一部を担う用意があると表明することで、台米間の経済・貿易関係の実質的な基盤を固めるべきだという。
また、黄氏は頼氏に対し、野党との対話と協力を積極的に進めるよう呼びかける。台湾が対中関係や対外関係において「何を行い、何を行わないのか」という底線を明確にし、超党派の共通認識を形成する必要があるという。
そのうえで、ワシントンと北京の双方に対し、一貫性があり、明確なシグナルを発信することが不可欠だと訴えている。