アメリカのトランプ大統領が「ミッドナイトハンマー作戦」の実施を命じ、「非常に成功した攻撃だった」と発表したのを受け、中東はより大規模な戦争の危機に直面している。この軍事衝突の急拡大は、世界的なエネルギー安全保障への不安を呼び起こしており、香港メディア『南華早報』は、「この地域に巨額投資を行ってきた中国にとって、深刻な挑戦となる」と報じた。アナリストらは、中国の「一帯一路」構想が今後さらに拡大する戦火によって、かつてないリスクにさらされる可能性を警告している。
北京の中東戦略が混乱に
米国の軍事介入により、中国が中東に築いてきた経済基盤は重大な試練を迎えている。華南理工大学の徐偉鈞氏は、「ホルムズ海峡は中国の石油輸入にとって命綱」と指摘。イランがこの海峡の地理的な優位を握っている現状では、地域紛争が激化すれば中国の石油供給は深刻な影響を受けかねないという。
イランは中国の主要原油供給国トップ3(サウジアラビア、ロシア、イラク)には含まれていないが、西側諸国の制裁により、仲介ルートを通じて多くのイラン産石油が中国に流入している。2023年の中国からイランへの直接投資は3億2200万ドル(約512億円)にのぼり、貿易総額は133億7000万ドル(約2兆1265億円)に達した。中国はこのうち、輸出89億3000万ドル(約1兆4188億円)、輸入44億4000万ドル(約7057億円)で、44億9000万ドル(約7120億円)の貿易黒字を得ている。
「バランス外交」戦略に挑戦
不安定な情勢が続く中、中国のイラン投資資産も危機に直面している。経済学人インテリジェンス・ユニット(EIU)のエコノミスト徐天辰氏は、中国が中東政策で一方に偏らない「バランス外交」を展開しており、軍事介入を避けて経済と外交に軸足を置いていると説明する。
だが、今回の米イラン衝突の激化により、この中立戦略は試されている。フーシ派やハマスといったイラン支援勢力は、アメリカの軍事行動を即座に非難し、イランへの支持を明確に打ち出している。徐偉鈞氏は、報復が報復を呼ぶ「エスカレーション・スパイラル」が制御不能になるリスクを指摘する。
一方、徐天辰氏は、中国がサウジアラビアやUAEなど他の中東諸国との関係を強化していることから、極端な事態が起きない限り、中東全体での戦略は依然として管理可能との見方を示す。ただし、イスラエルとイランの衝突が米中間の関税交渉に影を落とす可能性もあるという。
ホルムズ海峡の危機
ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶホルムズ海峡は、中東の主要産油国と世界市場をつなぐ重要な航路である。イラン国会は23日、政府に海峡封鎖の権限を与える法案を可決し、緊張が一層高まった。最終的な決定権は最高指導者ハメネイ師にあるが、現時点で具体的な封鎖行動は確認されていない。それでも、国際エネルギー市場には大きな不安が広がっている。
海峡が封鎖されれば、中国やアジア諸国にとって壊滅的な影響をもたらす恐れがある。米国エネルギー情報局(EIA)によると、世界の石油・天然ガスの約20%がホルムズ海峡を通過し、そのうち原油・凝縮油の84%、液化天然ガスの83%がアジアに輸送されている。中国、インド、日本、韓国の4カ国だけでその69%を占めている。
『南華早報』は、中国の石油依存率が70%を超え、その半分が中東に由来する現実を踏まえ、ホルムズ海峡の安定は中国の経済と国家安全にとって「生死を分ける問題」であると述べている。中国外交部はアメリカの軍事行動を非難し、各国に対話と自制を求めているが、自身も中東の調停者として動きつつ、そのエネルギー安全保障がかつてないリスクに直面している。
金融市場もすでに反応を示している。ゴールドマン・サックスのアナリストは、海峡の通航が大規模に停止されれば、原油価格は容易に1バレル110ドルを超える可能性があると指摘。deVereグループのCEOナイジェル・グリーン氏も、テヘランの動向次第では130ドル台に突入し、高インフレの地域では中央銀行の利下げにも影響する可能性があると述べた。
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