コロナ禍の最中に日本へ移住した蔡明淳氏は、台湾では講師として活躍し、執筆やイメージコンサルティングなどの分野に精通していた。自身で講座やセミナーを主催してきた経験を持つ彼女は、長年日本に住む台湾人の東京子氏と共に「在日東京揪團愛學習同好会」を立ち上げた。この学習会は営利を目的とせず、既存のリソースを統合することで、日本に住む台湾人に多様な学びと交流の機会を提供することを理念としている。
旅日台湾人が立ち上げた「愛學習同好会」 異国での絆を深める学びの場
活動内容は特定の分野に限定されず、例えばマーケティングや語学といった専門テーマに偏ることなく、様々な分野の知識を共有することで、参加者の視野を広げる構成となっている。
コロナ禍の最中に日本へ移住した蔡明淳氏は、台湾人である東京子氏と共に「在日東京揪團愛學習同好会」を立ち上げた。(撮影 黃信維)教育に携わってきた蔡氏は、パンデミックにより対面での活動が停止されたことを機に、全ての授業をデジタルへと切り替える必要に迫られた。コロナ終息後、再び台湾に戻って対面授業を行った際、学生との直接的なやりとりや、その場の空気感など、オンラインでは得られない価値を再認識した。2021年、夫との結婚を機に日本へ移住した彼女にとって、日本でも対面での学習活動を行う可能性について考え始めることとなった。
多様な分野を横断する知識交流の場
長年日本に住む台湾人である東京子氏も、他の台湾人が主催するイベントに参加する中で、このような集まりの価値を強く実感していた。東京子氏は蔡氏に共同で学習型サークルを立ち上げることを提案。両者ともに学びに対する熱意を共有していたことから、すぐに「在日東京揪團愛學習同好会」の活動をスタートすることとなった。
蔡氏は台湾での講座運営経験とマーケティングの知見を活かし、迅速に活動スタイルを確立し、オンラインを通じてプロモーションも行った。当時、東京では人と繋がる機会が限られており、仕事も主に台湾市場との関わりが多かったことから、このプロジェクトは彼女にとって専門性を活かす場であると同時に、現地の台湾人との交流の契機にもなった。
月一回の定期開催で学びと交流を継続
こうして両名の尽力により、「在日東京揪團愛學習同好会」は正式に発足し、2023年9月に第一回のイベントを開催。その後は毎月第一土曜日に定期的に講座と交流の場を設け、日本に住む台湾人にとっての学びと繋がりのプラットフォームへと発展していった。
創設者の蔡氏は、当初から大きな発展目標を掲げていたわけではなく、自身と東京子氏の経験や人脈をベースに地道に活動を進めてきた。両者とも教育や情報共有の経験があり、まずは自らの知見をシェアしつつ、他分野に精通し交流を好む講師を次第に招く形で運営を拡大していった。
母語で学ぶことの意義と心理的安心感
東京子氏は、「日本では日本語を使って知識を学ぶ機会はあるが、母語である中国語で講義を受け、講師と深く交流できることはまったく異なる体験だ」と語る。このような学びの形は、知識の伝達にとどまらず、学んだ気づきを他者にも伝えたいという思いから、学習会の価値が自然と拡がっていくのだという。
学びそのものではなく、共有と対話を通じてお互いの成長を促すことこそが、この活動の最も意義深い点だと彼女は話す。
情報の共有から心の支えとなる存在へ
今後の展望については、二人とも自立心が強いため、特定の業務を細かく分担することなく、自発的に必要な準備をこなしている。東京子氏は、「この活動は綿密な計画の上で動いているというよりも、学びへの純粋な情熱と台湾人同士の交流への思いから生まれたもの」だと話す。今後もリソースを統合しながら、より多くの台湾人が参加できる場を提供し、活動の影響力を広げていきたいと語る。
講座は基本的に3時間構成で、前半1時間半から2時間が講師による発表、残り1時間が参加者同士の交流時間に充てられている。蔡氏は、交流の時間が活動の核心部分であり、参加者同士が知り合い、人脈を築き、台湾人同士の結びつきを深める重要な時間だと語る。
参加者のニーズに応えるため、チームでは定期的にアンケートを実施し、関心のあるテーマやフィードバックを収集。それに基づき適切な講師を招いている。今後も、シェアの意欲があり、参加者の関心に合った講師を見つけることで、学びと交流の両軸を充実させていく予定だ。
初回の講座では、日本の不動産情報をテーマに、実用性と広がりを意識して行政書士を招き、ビザ関連の話題も交えて開催。2回目は経営管理ビザと税務に焦点を当て、講師のVivian氏が申請の要点と日本の税制について紹介。参加者の多くが起業や副業に関心を持っていることが明らかになり、今後のテーマ設定にも影響を与えた。
3回目の講座では「江戸川里長伯」氏を迎え、高度人材ビザの申請条件と実務についての経験談が共有された。
活動を重ねる中で、チームはアンケートを通じて参加者の声を拾い、内容のブラッシュアップに努めている。東京子氏によれば、最近では不動産、住宅ローン、投資ローンなどの実用情報を中心に展開。最新の活動では不動産投資・住宅ローンに焦点を当て、3月の講座では競売物件や民宿経営、土地購入・自宅建設について取り上げる予定。4月は投資ローンを中心テーマとする。
東京子氏は、学習内容に対する関心は参加者のバックグラウンドによって様々で、イベント終了後には多くのフィードバックが寄せられるという。関心のあるテーマや要望をもとに、講師を調整し、参加者に適した学びと交流の場を提供するよう努めている。
台湾からも参加者が訪れる拡がる影響力
東京子氏は、実体験として、日々の生活の中で職場や居住エリア以外の人と接点を持つ機会が少ないことから、台湾人同士が繋がるきっかけを提供したいという思いで活動を続けている。
この会の特徴の一つは、毎回の講座の終わりに交流時間を設けている点で、交流前には自己紹介を行うのがルールとなっている。
中には、人前で話すのが苦手で、この自己紹介を理由に参加を見送る人もいるという。しかし実際には、この自己紹介を通じて参加者同士が共通点を見つけ、自然に話が弾み、イベント後も連絡を取り合ったり、別の活動に参加したりといった繋がりが生まれている。
このような体験が参加者にとって非常に意義深く、新しい友人を作る場としても機能しているという。
初回13人から満員御礼へ、成長する市民ネットワーク
また、参加者は日本在住の台湾人に限らず、わざわざ台湾からイベントに参加する人もおり、旅行の一環としてスケジュールに組み込む例もあるという。これは、この学習会が異なる背景を持つ人々にも関心を持たれている証拠だ。
運営面での課題として、最初の懸念は集客だった。参加者が集まるか不安だったが、回を重ねるごとに人数は増え、第一回13人、第二回14人、以降はほぼ満員となり、時には抽選や選考も検討せざるを得ないほどに成長した。
各回のテーマによって参加者の質問や関心のポイントは異なり、例えばビザや副業に関する回では、実際の経験に基づいた具体的な質問が多く寄せられる。ネットでは得られない答えを求めて、参加者は講師との対話を積極的に求めているという。
AIをテーマにした講座では、東京子氏自身も多くを学び、このような学習機会の価値を再確認したと語る。彼女は、蔡氏の専門知識に強い関心を抱いており、自分にない知見を得られることを学習会の魅力の一つに挙げている。
講師も学ぶ、双方向の知的な循環
蔡氏は、日本に来た当初、職場環境が定まっていなかったため、どのように現地社会に溶け込むかに不安を感じていた。彼女にとって日本語力の向上は最重要課題であり、語学検定合格を目指して自習や家庭教師を通じ、半年でN3とN2を取得、その後短期間でN1にも挑戦した。
しかし、言語能力があっても実際の活用機会が少なかったことから、語学だけでは日本社会に適応できないと実感した。
学習会を通じて出会った多くの台湾人が、日系企業ではなく外資系や専門職に就いており、日常業務では英語を使うケースも多く、企業側が生活支援も行ってくれることから、日本語が不可欠ではないことに驚いたという。
コロナ禍の最中に日本へ移住した蔡明淳氏は、台湾人である東京子氏と共に「在日東京揪團愛學習同好会」を立ち上げた。黃信維語学力が社会適応の鍵ではなく、心理的なつながりや帰属意識こそが重要だと強調する。日本語が流暢であっても、現地社会に溶け込んでいるとは限らず、逆に言語が不得意でも、しっかりとした人間関係があれば十分に順応できると語る。
東京子氏も、多くの台湾人が言語や仕事に問題がなくても、職場の雰囲気になじめず、孤独を感じることがあると指摘。生活適応においては、言語力だけでなく、心のレジリエンスや帰属意識の構築が欠かせないと述べる。
学習会の存在意義は、台湾人が母語で自由に交流し、体験を共有することで、異国での生活に必要なつながりと支えを得る場を提供している点にあると結んだ。