台北政経学院基金会、平和安全センター、中華戦略および兵棋研究協会などが共催した「台湾海峡防衛机上演習」が今週終了した。主催者側は「民間による開催」を強調したが、米・日・台3カ国から元軍トップクラスの退役将官を含む「数十名の星付き」が参加したことから、中国国営メディアの中央テレビ「海峡両岸」番組でも中国の専門家がこの演習が民主進歩党の公式立場を代弁しているのか疑問視する声があった。
今回の米国チームは、ブッシュ政権およびオバマ政権下で統合参謀本部議長を務めた元海軍大将マイケル・マレン氏が率いた。メンバーには、元太平洋軍司令官デニス・ブレア大将も含まれている。日本チームからは、現在行政院顧問を務める元統合幕僚長・岩崎茂氏、元海上幕僚長の武居智久大将らが参加。外交・安全保障・軍事に関する両国のシナリオ対応は、各方面で大きな議論を呼んだ。
演習が終了した後、米日台三者間の外交問題と関係には依然として多くの疑問が残っている。また、今回の演習中には米国チームが、もし中国が台湾に武力侵攻した場合、米国の対応策の一つとして「台湾を独立国家として承認する」ことが含まれると表示し、日本チームも、戦争が勃発した場合、1972年の「日中共同声明」による「一つの中国」政策を見直す可能性に言及し、現地メディアや参加者の間で強い関心を呼んだ。
もっとも、軍事専門家の間では、「机上演習上の想定が現実の外交方針を直接反映するものではない」とする冷静な見方もある。
中華戦略研究学会研究員の張競が、共産党の軍事活動が増えていることから「いつかは本番になるだろう」と警告した。米日元将官の訪台は「公式の立場」か?注目集まる対応
中華戦略学会の張競・上級研究員は、『風傳媒』の取材に対し、「米・日の元将官が個人の意見として発言したのか、それとも両国政府の意向を示しているのか、主催者側は明確に説明する責任がある」と述べた。
張氏によると、退役した高位軍人の政治的影響力を判断するには、「米国在台協会(AIT)」や「日本台湾交流協会」のトップが接待を行うかどうかが重要な指標になるという。また、台湾の政治情勢に関するブリーフィングが行われたかどうかも、北京にとっては情報収集上の重要な関心事だと指摘した。
風伝媒の取材によれば、米国チームのマレン大将は兵推終了後すぐに台湾を離れた。一方、元参謀総長・李喜明氏の「師匠」とされるブレア大将は、民進党政権の高官との面会が予定されている。
日本チームでは、すでに岩崎茂氏が行政院顧問を務めているため、政権との関係に大きな違和感はないが、武居智久氏が民進党政権との面会を行うかどうかは注目されている。
張競氏は、「今回の机上演習に参加した米・日両国の元高官が現職政府の立場を代弁しているのであれば、AITや日本台湾交流協会が接待し、政治ブリーフィングを行うのが通常の外交慣例である。今後の公式な動きによって、彼らの訪台の位置づけが明らかになるだろう」と語った。
前米軍太平洋総司令のブレア(左)、前米軍参謀長会議議長のムレン(右)が10日に漢海防衛演習に出席。(厳霖宇撮影)米日台交流船保護を検討か?
今回の「台湾海峡防衛机上演習(TTX)」では、より現実的な検証を行うため、台湾国内では珍しい「対抗式」の机上演習が採用された。米国と日本のチームが直接参加し、台湾有事の際に両国がどのような対応を取るのかを可視化する形式となり、各国メディアの関心を集めた。
机上演習の第3段階、すなわち中国による台湾封鎖を想定した場面では、米国チームが「台湾とフィリピン間の生命線の維持」を名目に、米日連携のもとで5隻の軍艦を派遣し、台湾の貨物船団を日本・台湾とともに護衛するという案を提示。高雄港からの液化天然ガス(LNG)、石油、石炭、医薬品、食料などの輸送を安全に確保するという構想であった。
しかしこのシナリオについて、中華戦略学会の張競・上級研究員は慎重な見方を示す。中国軍(PLA)にとって、台湾本島のLNG受入施設などを直接攻撃する方が、洋上で商船を拿捕・阻止するよりも「はるかに容易でコストも低い」と指摘。「中共は商船を狙うのではなく、供給基地そのものを攻撃するはずだ」と述べた。
また第2段階では、中国海警(海上保安機関)が行政執行の名目で、台湾海峡を航行する船舶を大規模に検査・拿捕し、台湾側に圧力をかけるという事態が想定された。これに対して米国チームは「実質的な軍事封鎖と見なすべきであり、軍事的対応が必要」と判断。張氏もこの認識に同意し、「封鎖というのは『あるか・ないか』の二択であり、中間は存在しない。米国側の判断は妥当だ」とコメントした。
さらに張氏は、「海上における行政執行はすべて、1994年に採択された『サンレモ海戦マニュアル』に従う必要がある」と説明。中国海警は名目上「武警」に属し、その武警は中国人民解放軍の一部と位置づけられている。一方で、米国の沿岸警備隊も軍隊組織に準ずる性格を持ち、現役軍人が主力を構成しているとし、両者の違いは「行政執行権の有無」だけにすぎないと指摘した。
一方、実際に中国が台湾に対して海上封鎖を行った場合、兵棋演習で示されたように、米日が「海上交通路の設定」や「空中安全回廊の確保」、さらには軍艦の派遣などを行うかについて、張氏は否定的な見方を示している。
「封鎖とは本質的に“遅効性の絞殺戦略”である」と張氏は分析する。その上で、「中国が本当に台湾を攻撃する場合、採る戦術は『短期決戦』であり、封鎖のような長期戦を選ぶとは考えにくい」と述べ、中共が封鎖に踏み切る可能性自体にも懐疑的な見解を示した。
台湾民間で初の米日台高階退将兵推の際、共産軍合同警戒巡回が最初に叩いた。米日が戦争中に台湾独立を認める可能性は?
演習中、米国チームは「中国と台湾が全面的な戦争状態に入った場合、米国は台湾を独立国家として承認する」という方針を提示。一方で日本チームも、同様の局面においては「中国政府に対する外交的抗議」を行うとともに、1972年の日中共同声明における「一つの中国」政策の見直しを検討すると発表した。
しかし、こうした対応について、中華戦略学会の張競・上級研究員は「現実世界では実現可能性が低い」と冷静な分析を示している。
張氏によれば、歴史上、多くの国が「国家消滅の危機」に直面する際、「終末政権(Doomsday Regime)」と呼ばれる状態に突入する傾向があるという。そうした状況下で米国や日本が台湾を外交的に承認したとしても、「台湾社会に混乱をもたらす可能性があり、米日両国にとっても戦略的メリットは薄い」と指摘。張氏は、「国家が混乱するような局面で政治的メッセージを出すのは現実的ではない。もし承認するとすれば、それは米日が直接戦争に関与している場合に限られる」と述べた。
また、米国チームは演習中、中国による台湾への封鎖に対抗する措置として、「マラッカ海峡で中国の商船を拿捕・臨検する」といった案や、「米国内にある中国籍の商船を押収する」といった提案も行った。これについても張氏は、「マレーシア、シンガポール、インドネシアといった東南アジア諸国が強く反発する恐れがあり、中国による対米報復を招く可能性もあるため、現実には米国が実行に踏み切ることは考えにくい」と否定的な見解を示している。
台湾海峡防衛演習の主催者の一人である、中華戦略および兵棋研究協会理事長の黄介正氏。(厳霖宇撮影)民進党は兵棋演習を支持しているのか?中国専門家は「政治的ショー」と批判
中国当局はこれまで公式な立場を明らかにしていないが、中国国営メディア・中央電視台(CCTV)は11日に放送した対台湾番組「海峡両岸」の中で、この兵棋演習に対する批判的な論調を展開した。
同番組で評論員の魏東旭氏は、「民進党当局はこの演習を政治的なショーの場として利用し、台湾国民をあらゆる手段で欺こうとしている」と主張。さらに、「中台衝突が起きた際には、米国や日本が出兵し、民進党政権を支援するかのような“幻想”を作り出している」と述べた。
魏氏はまた、米国や日本が台湾問題に介入しようとしている可能性を否定はしなかったが、中国人民解放軍の海空戦力が著しく強化された現在においては、「台湾独立をめぐるいかなる軍事的動きに対しても、中国は有効に抑え込む能力を持っており、“外部勢力の干渉”も阻止できる」と強調した。
「戦略的兵推」との見方も 演習の背後に民進党政権の関与か?
同じく番組に出演した上海・復旦大学の張家棟教授(米国研究センター)は、今回の演習に参加した将官らがいずれも各国の「最高指導層級」であり、「単なる軍事指揮のレベルにとどまらず、政策決定そのものに関与できる層で構成されている」と指摘。「これはもはや単なる軍事演習ではなく、明確なメッセージを外部に送るために精緻に設計された“戦略的兵推”である」とし、演習には強い政治的意図があったとの見解を示した。
張教授は、「このレベルの演習を仕掛けられるのは、背後に相当の政府レベルの支援がある証拠だ」と述べ、事実上、民進党政権が何らかの形で深く関与している可能性を示唆した。
一方で、こうした中国側の懸念に対し、中華戦略学会の上級研究員・張競氏は『風傳媒』の取材に対し、「米国は台湾への関与について明確な“前提”を持っていない」との見方を示した。
張氏は、「米国が台湾防衛を必要と判断すれば、たとえ批判を浴びても関与してくるだろう」と述べた上で、「しかし、トランプ政権下のように、台湾を放棄するという決断がなされれば、たとえ中国が台湾を先制攻撃しても、米国が軍事的に介入することはないだろう」と指摘。米国の対応は政権次第で大きく左右されるとの見解を示した。