台北政経学院は本日(10日)、「台湾海峡防衛机上演習」を実施し、米国、日本、台湾で参謀総長を務めたことのある上将9名、中将8名が参加して合同の机上演習を行った。この「総長級」机上演習の初日は、グレーゾーン事態を想定したシナリオで始まり、中国共産党が台湾の領空・領海にあたる12海里内に侵入するという状況が描かれた。通常であれば反撃すべき状況であるにもかかわらず、台湾側のチームは何ら対応を取らず、台湾が侵入される様子を黙認する形となった。
台湾海峡防衛机上演習は、指導グループ、統制グループ、中国(中共)チーム、台湾チーム、米国チーム、日本チームの6つに分かれて実施された。指導グループを除く各チームには主導官が1名ずつ配置され、分科会の進行やスケジュール管理を担当。各チームには米・日・台の高官や著名な軍幹部が顔をそろえた。シミュレーションでは、統制グループが「中国軍の航空機および艦艇が台湾の領空・領海(12海里内)に侵入した」との状況を想定して指令を出した。これを受けて、台湾チームはただちに国家安全保障の高官会議を招集し、「挑発せず、回避せず、弱さを見せず」という方針のもと、国軍に対して戦備強化を指示。さらに、情報・監視・偵察の共同任務を実施することとなった。また、政軍指揮センターの人員が即座に配置され、地上部隊は現状に応じて各作戦区域に偵察・監視部隊を前進展開し、敵による浸透行動を未然に防ぐ体制を整えた。
前米軍太平洋総司令ブレア氏(中央)、前米統合参謀本部議長マレン氏(右)が10日、台海防衛兵棋推演に出席。(顔麟宇撮影)敵軍12海里侵入で台湾チームは先制攻撃せず 中国チーム「兵力に明確な対応が見られない」
意外だったのは、このような想定下において台湾チームの対応が極めて苦慮していた点である。中国軍の艦艇が12海里圏内に侵入するという状況に対し、台湾チームは「対立をエスカレートさせない」原則のもと、監視を継続しつつ、可能な限りの手段で退去を促すという対応を取った。空軍は通常の偵察飛行を継続しつつも、転進(基地移動)を完了させる動きを見せた。海軍のミサイル車両は西岸前線で発射準備を整えたが、発射には至らず、防空ミサイル部隊も同様に態勢を整えたのみだった。参謀本部は友好国との情報共有を強化しつつ、「第一撃は撃たない」という原則を堅持した。
しかし、このような状況下で統制グループから疑問が提示された。中国(中共)チームに対し、「台湾チーム、米国チーム、日本チームの対応は期待通りだったのか。良かったのか、それとも不十分だったのか」との問いかけがなされた。これに対し中共チームは、今回のシナリオは2022年以降に中国が台湾周辺、東シナ海、南シナ海、第一列島線において実際に展開してきた動向を総合的に反映させたものであり、実際の戦力を用いて台湾がどう対応するかを試すものだったと説明した。そして、いわゆる「茹でガエル戦術」「サラミスライス戦術」「パイソン戦略」など、どのような形であれ台湾の主権に対する重大な試練であると指摘した。
さらに中共チームは、2022年8月に実施された台湾包囲軍事演習を例に挙げ、3日間で176機の航空機、11発の実弾、41隻の艦船が動員され、台湾周辺の環境を圧迫したと説明。このような現実に基づいた想定に対して、台湾チームの反応は一般的な状況対応にとどまり、戦力を周辺に展開する形に終始していたと評価した。一方、米国チームと日本チームは戦略的対話を開始し、中共チーム(いわゆる「レッドチーム」)が期待していたレベルの外交・安全保障対応には達していたとした。ただし、戦力の具体的な対応という面では、いずれのチームにも目立った動きは見られなかったと述べた。
日本前統合幕僚長 岩崎茂氏(左)、前海上幕僚長 武居智久氏(右)が10日、台海防衛兵棋推演に出席。(顔麟宇撮影)主権と衝突回避の両立方法 台湾チーム一時回答できず
台湾チームに対して、統制グループは「戦力を動かさず、敵艦が12海里圏内に侵入しても動かなかったのはどうか。情勢のエスカレートを避けたい気持ちは理解できるが、『敵が入ったらそのまま居座るのではないか』という考えはなかったのか」と指摘した。これに対し台湾チームは、「第一撃を放たない」という原則を守りたいこと、戦闘責任を負いたくないこと、そして米日を巻き込みたくないとの思いから慎重な対応を取ったと説明した。その後、統制グループは「主権をどのように守るのか」と問い詰めたが、台湾チームは一時的に明確な回答を示せなかった。しかししばらくして関係者が、初動段階で米側と調整を行っており、台湾・澎湖(ポンフー)防衛作戦は、インド太平洋地域の第一列島線防衛の一環として位置づけられていると説明した。
台湾チームの担当者は、当初からインド太平洋司令部を通じて、韓国、日本、フィリピン、台湾が第一列島線上で担うべき防衛責任を明確にし、それぞれの防空識別圏をもって防衛責任を分担することを目指していると述べた。防空識別圏の外側については米国が責任を負うべきだとした。さらに、台湾・澎湖防衛作戦は単なる台湾地域の防衛にとどまらず、インド太平洋地域の防衛の一環であると強調。中共が12海里圏内に侵入した場合は海軍力で退去させるべきだが、1996年の台湾海峡危機でも同様の経験があり、能力が不足する状況で戦闘責任を台湾に負わせることは避けるべきだとして、12海里圏侵入時も衝突のエスカレートを望まない立場であると説明した。
前米軍太平洋総司令ブレア氏(右)は元々米国チームであったが、後に李喜明氏(左)と同じく統制グループとなった。(顔麟宇撮影)台湾チームの過剰反応で統制グループ「第二シナリオ」は実施せず
統制グループは総括として、本演習の設計目的は、中国の民兵や武警、軍艦が12海里圏内に侵入した際、台湾チームが「衝突を引き起こさないこと」と「主権を確保すること」という二つの難しい課題をどうバランスを取るかを検証することにあると述べた。統制グループは、決断に「100点満点」は存在しないものの、国軍や政府は、もし中国軍が実際にこうした行動を取った場合に、台湾の交戦規則をどう定めるのか真剣に考える必要があると指摘した。今回の想定は、平時のいわゆるグレーゾーンの脅威を扱ったものであるにもかかわらず、台湾チームは潜水艦の派遣を含む多数の戦力展開を行い、やや過剰反応の感があったと評価。これに対し統制グループは「訓練や演習の際に過剰反応することは台湾にとって良いことなのか悪いことなのか」と反問した。また、台湾チームが過剰反応したために、次の想定(第二シナリオ)は実施されなかった。
統制グループは説明を続け、第二シナリオは当時の米国下院議長ナンシー・ペロシ氏の台湾訪問時の状況を想定したものであるとした。ある時点で海空軍が監視中に、中国軍が「演習」から突然「作戦行動」へ移行し、初戦で決定的な攻撃を仕掛けてくるというシナリオだ。この場合、台湾はどのように反応し、どのようにバランスを取るべきかを問うものだった。しかし、台湾チームは先のグレーゾーン対応の段階で既に「戦時」対応の思考を用いて過剰反応したため、第二シナリオは展開されなかった。統制グループは、演習の目的は「最悪の事態が起きた際にどのように対処し、演習から戦闘へ移行する状況にどう対応するかを知ること」にあると強調し、これが今回の第一段階の趣旨であると述べた。
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