台湾の立法院(国会)で、総額1.25兆台湾ドル(約6兆円 )に及ぶ「国防特別予算」が迷走を続けている。野党・国民党や民衆党が独自の修正案を次々と打ち出す中、米国側は台湾の国防予算を「一銭も減らすことは許されない」と強い危機感を表明していることが明らかになった。特に焦点となっているのは、現代戦の主役となりつつある「無人機(ドローン)」の調達計画だ。
特別予算を巡る立法院の攻防と米側の圧力 立法院で長期間停滞しているこの国防特別予算を巡り、最大野党の国民党内では、米側が2025年末に発表した総額111億540万ドルの対台湾武器売却案を盛り込んだ3800億台湾ドル規模の修正案や、次波の武器売却を見越した8000億台湾ドル規模の案などが浮上している。
しかし、国防部(防衛省) はどのような形であれ、予算の削減や組み替えは防衛計画に支障をきたすと懸念している。現在、野党側は米国からの武器直接購入(FMS)については容認する姿勢を見せているものの、台湾国内企業から調達する予定の「ドローン20万機」および「無人艇」の予算については、特別予算からの削除と年度予算への編入を主張。さらに「無人機は技術更新が極めて速く、一度に大量購入すべきではない」と批判を強めている。
ウクライナ、そして「エピック・フューリー」が示した無人機の威力 ドローンを巡る議論の背景には、現代戦争の劇的な変化がある。ウクライナ戦線での活躍に加え、現在米軍がイランに対して展開している作戦「エピック・フューリー(壮絶な怒り)」では、1機わずか約3.5万ドルの自爆型ドローン「FLM136」が実戦投入され、敵のレーダー網を無力化することに成功した。安価なドローンによる「飽和攻撃(ドローン・スウォーム)」で防空網を削り、高精度兵器でトドメを刺す戦術は、もはや世界の主流となっている。
国民党内で複数の軍事購入案が浮上している。写真は軍事購入に関する記者会見を開く国民党の王鴻薇氏(左)、林沛祥氏、馬文君氏(3月5日、写真/顔麟宇撮影)。
軍が試算する「ドローン20万機」の正体 構築される「キルウェブ」 国防部が提示した8年1.25兆台湾ドルの特別予算案では、「精密火砲」「長距離精密打撃ミサイル」「無人機および対抗システム」など7項目が並ぶ。
野党側は「商用調達であれば特別予算に入れるべきではない」「技術の陳腐化が早い」と牙を剥くが、軍関係者によれば、この「20万機」という数字はシミュレーションに基づいた精緻な計算の結果だという。偵察型と攻撃型をどの段階で投入し、ミサイルや火砲とどう連携させるか。敵を逃さない完全な「キルウェブ(Kill Web)」を構築するために不可欠な戦力数として算出されたのが、この20万機という数字だった。
国防部は各種ドローンの調達を計画しており、国内メーカーによる商業販売モデルでの実施を想定している。写真は発射される攻撃型無人機「Altius-600M」(写真/国防部提供)。
多層防御による「戦力漸減」 精緻なシミュレーションと国際協力 台湾国防部の整合評価司(整評司)が行った「モデル・シミュレーション」は、敵軍の戦力が健在な段階から、無人機を含む多層的な攻撃手段によって敵の戦力を何パーセント削れるかを徹底的に検証したものだ。ある軍関係者は「多層的な減衰(漸減)をイメージしてほしい。第1層で数割、第2層でさらに数割と敵を削り、最終段階で地上決戦に持ち込む計画だ。これはドローン単体ではなく、既存のミサイル、航空機、空母、沿岸砲などを統合した全体設計に基づいている」と語る。
また、このシミュレーションは台湾独自のデータだけでなく、多くの国々との協力により得られた評価パラメータを、台湾の作戦環境(塩害、温湿度、都市化、無線干渉など)に適合させて算出されたという。
「現地生産」へのこだわりと戦備在庫の切迫 野党側が特別予算からの削除を主張する中、軍側が「対外有償軍事援助(FMS)」ではなく国内企業からの「商業調達」にこだわる最大の理由は、台湾国内における無人機産業の生産能力を確立するためだ。
軍関係者はさらに、「海軍陸戦隊(海兵隊)第66旅団の戦車大隊や砲兵大隊は、すでに『無人機大隊』および『火力大隊』へと改編されている。これらの無人機は国内生産で賄う計画だが、もし特別予算から外され、単年度予算(分年編列)になれば、戦備在庫や訓練用の消耗分を毎年待ち続けなければならないのか」と強い警告を発している。
軍関係者は、20万機のドローン需要は多層防衛に基づき算出された数字であると指摘する。写真はスティンガーミサイル(写真/国防部提供)。
首都防衛の要・第66旅団が直面する「武功剥奪」のシナリオ 国防部は台北の中枢警備(衛戍)任務の必要性から、海軍陸戦隊第66旅団を参謀本部の直轄戦略予備隊に改制した。憲兵第202指揮部と連携し、兵力不足が懸念される台北大都市圏の防衛を担う計画だ。米海兵隊の転換モデルに倣い、第66旅団は戦車や砲兵を削減し、新たに無人機部隊を増設。今後、第99旅団も同様の転換を進める予定だ。
しかし、現場からは悲鳴が上がっている。部隊編成は完了し、既存の重火器はすでに引き渡したにもかかわらず、肝心の無人機が予算不足で調達できない事態に陥っているからだ。軍関係者は「戦備在庫が不足すれば、まさに『米のない飯は炊けぬ(巧婦難為無米之炊)』状態だ。無人機作戦に特化した部隊に無人機がないことは、武功を廃されるに等しい」と憤る。
海軍陸戦隊は中枢防衛任務への転換に伴い、無人機部隊を増設した。写真は海軍陸戦隊66旅団を視察する台湾総統・頼清徳氏(中)(写真/顔麟宇撮影)。
米国が求める「脱中国(非レッド)」供給網と予算の壁 ドローン等の商業調達を特別予算に組み込む背景には、国内の生産能力強化だけでなく、法的な制約も存在する。軍関係者によれば、台湾の中央政府総予算では「教育・科学・文化」関連の予算を総額の15%(近年は約20%)以上とすることが義務付けられており、社会福祉予算等も含めると、国防公務予算を大幅に拡充する余地はほとんど残されていない。
軍関係者は、「ドローン計画は8年ではなく、実質5年以内の集中投資だ。5年3000億台湾ドル(約1.4兆円)を公務予算に詰め込めば、単年度で600億台湾ドルの負担増となる。そうなれば、現在進行中の潜水艦国造(IDS)の量産や次世代フリゲート艦、さらには『TPS-77/78』レーダー等の重要な対米購入品目の予算を圧迫しかねない」と指摘する。
さらに、米国が公言している「155ミリ榴弾砲」や「無人機」における米台協力、いわゆる「非レッド(脱中国)サプライチェーン」の構築についても、「先に大規模な発注という『果実』がなければ、国内企業は巨額の投資に踏み切れない。冷静に考えなければ、政争の末に10年経っても何も完成していないという最悪の事態になりかねない」と警鐘を鳴らす。
大型発注による支えがなければ、国内メーカーの無人機市場参入は難しく、米台間の「非レッド・サプライチェーン」協力にも影響しかねない。写真は台北国際航空宇宙・国防工業展に展示された攻撃型無人機「勁蜂四型」(写真/顔麟宇撮影)。
「陳腐化」への懸念に反論 契約に盛り込まれた更新費用 野党側が主張する「技術の陳腐化(世代交代の速さ)」について、軍側は「機体そのものが頻繁に変わるわけではない。急速に進化するのは通信、ナビゲーション、対ジャミング等のモジュールやソフトウェアだ」と反論する。
国防部軍備局の説明会によれば、将来の入札企業には、オープンアーキテクチャによる拡張性や最新の通信モジュールの導入が求められる。これらのアップデート費用はあらかじめ契約に含まれる計画だ。例えば、予算の半分を機体に、残りの半分を将来のソフトウェア更新費用に充てることで、企業側には「単発の発注」ではなく「継続的な保守・アップグレード」というビジネスチャンス(インセンティブ)を提供し、投資を促す設計になっているという。
野党案への冷ややかな視線 「実行不能」な計画の再考を 現在、野党側が独自に提示している予算案に対し、軍関係者は「軍事投資はすべて『打(打撃・共同作戦)』のニーズに基づき、厳格なプロセスを経て策定されている。国防部のニーズや建案文書に合致しない案が提出されても、審査段階で『執行不能』と強く主張せざるを得ない」と突き放す。
軍関係者は、無人機の技術革新は主にソフトウェアの問題であり、メーカーに長期的なサポートを要求済みだと説明する。写真は無人機「鋭鳶二型」(写真/顔麟宇撮影)。
米国の強硬姿勢「1.25兆元は一銭も減らすな」国防予算を巡る「虎の尾」の行方 台湾最大野党・国民党は現在、米側から提示済みの発議書(LOA)に基づく3800億台湾ドルに、今後新たに提示される武器売却分(+N)を別途処理する案を検討している。しかし、軍関係者はこれが「国防の実態を無視したものだ」と一蹴する。米国による議会通知には、兵器本体の購入費用は含まれるものの、それを運用・保管するための「国内付帯工事(掩体壕、車両収容施設、備蓄施設、メンテナンス設備など)」の予算が含まれていないからだ。
軍関係者は「兵器を購入しておきながら、それを屋外に放置しろというのか。そんな理屈は通用しない」と憤る。国防部の整備計画は、兵器の購入と国内でのインフラ構築がセットになって初めて完結するものであり、一方のみを切り離すのは「竜頭蛇尾」に等しいというわけだ。
AIT高官が異例の圧力、3月24日が「最終期限」か 国内の政治的混乱が続く中、米国側による圧力も一段と強まっている。情報筋によれば、旧正月の休暇明け以降、米国在台湾協会(AIT)の高官が相次いで立法院を訪れ、野党側との直接的な意思疎通を図っている。
『風傳媒』が把握した情報によると、米側は当初、柔軟な姿勢を見せていた時期もあったという。しかし現在、米側は「2026年3月24日」までの特別予算成立を明確な期限として突きつけている。さらに、総額1.25兆台湾ドルという金額についても一銭の削減も認めないという極めて強硬な姿勢を鮮明にしている。
これほどまでに強硬な米国の要求を前に、野党側はあえて「虎の尾」を踏む選択をするのか。あるいは、いかにしてメンツを保ちながら妥協点を見出すのか。台湾の安全保障の行方を左右する「国防予算大戦」は、今まさに開戦の火蓋が切られた。