台湾の賴清徳総統は「親米・対中牽制」の産業政策を再び打ち出し、数千億元を投じて「AI新十大建設」を推進すると表明した。目標は強靱な世界半導体の「ノン・レッド・サプライチェーン」を築くことだ。しかし賴政権は、米国への投資に潜むリスクをどこまで織り込んでいるのだろうか。台積電(TSMC)をはじめとする半導体大手が米国で事業を拡大する過程で、もし排外的な動きに直面した場合、対応策はあるのかが問われている。
MAGAの二重基準 外資誘致と排外強化
最近、米ジョージア州で現代自動車グループとLGエネルギーソリューションが共同建設する電池工場が、米移民税関捜査局(ICE)の大規模査察を受け、計475人が拘束された。そのうち約300人は韓国籍社員だった。韓国政府は即座に交渉を行い、拘束された自国人を帰国させた。
トランプ政権は各国に米国への投資拡大を求める一方、不法移民の摘発を強化し、外資企業には二重の負担を課している。韓国の李在明大統領はホワイトハウスでトランプ大統領と会談し、3,500億ドル(約51兆円)の投資を約束。日本も5,500億ドル(約81兆円)の投資を表明し、台湾の「護国神山」と呼ばれるTSMCも1,650億ドル(約24兆億円)の投資を約束している。
だが一方で、トランプ政権は「外国人が米国人の雇用を奪っている」という国内の民粋的な感情に応え、大規模な取り締まりを実施している。「アメリカ・ファースト」を掲げ、不法滞在者の摘発を名目に不法労働者の拘束を強化しており、米国の「国境の皇帝」と称される国境警備責任者トム・ホーマン氏は、今後さらに多くの企業を対象に法執行を強めると強調している。

不法労働者摘発は米国自身の首を絞める
問題の根本には、米国での工場建設や設備据付の段階で、現地で熟練技術者を迅速に確保することが難しいという事情がある。だが米国のビザ手続きは煩雑かつ時間がかかり、企業は工程の遅延を避けるために「変通策」として韓国人技術者を短期商用ビザB-1や旅行認証ESTAで入国させざるを得なかった。H-1Bビザは門戸が狭く枠も限られているためである。米国メディアも「もし建設現場の人員が一斉に拘束されたら、工場は完成できない」と直言している。
韓国主要紙はこの摘発を「衝撃事件」と批判。長年の同盟国に投資拡大を求めつつ、関税やビザ制限を課すことで韓国企業の投資コストが膨らむと指摘した。影響は米国で工場を建設中のサムスンやSKなど韓国大手にも及ぶ可能性があり、日本や台湾の関係企業も注視している。
この事案は一過性ではない。トランプ政権が「不法移民排除」と「製造業復興」を掲げ続ける限り、同様の事態は繰り返される可能性が高い。だからこそ、台湾政府には責任がある。
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まず、台湾企業が米国に投資する際の潜在的リスクを正しく警告しなければならない。従来のように「対中投資リスク」を強調するだけでなく、米国投資のリスクにも十分目を向けるべきである。民進党政権の経済戦略が「偏った一方的な信頼」に陥り、中国への投資を極力抑制しながら、米国への投資は無条件に受け入れるという姿勢に終始してはならない。