米国のAI新興企業 Anthropic は9月5日、総額15億ドル(約2200億円)の和解金を支払うと発表した。対象は50万冊以上の書籍と50万人以上の作家に関わる著作権集団訴訟であり、生成AI業界史上最大規模の著作権和解となる。問題の焦点は、同社が「Library Genesis」や「Pirate Library Mirror」といったいわゆる「影の図書館」から電子書籍を無断入手し、言語モデル Claude の訓練データとして利用していた点にある。
なぜ作家への賠償額は想定より低いのか
裁判資料によれば、Anthropicは各書籍あたり約3,000ドルを支払うことで合意した。総額は莫大だが、全面的に審理が行われた場合に比べれば「合理的な損切り」とされる。
もし1冊ごとに「故意の侵害」が認定されれば、最高で1冊あたり15万ドルの賠償が科される可能性があり、業界試算では被害総額は1000億ドルから1兆ドル規模に達したとされる。今回の和解条件には以下が含まれる:
- 海賊版書庫由来の全データの破棄
- 侵害事実の不承認
- 金銭補償による訴訟終結
企業側がリスク回避のため現実的な選択を行ったと受け止められている。
法院の判決が示した「法律の赤線」
この訴訟は2024年に作家Andrea Bartz、Charles Graeber、Kirk Wallace Johnsonらや作家組合が提起し、2025年6月にサンフランシスコ地裁が歴史的判決を下した。
裁判所は、AI企業が「正規のライセンスを通じて取得した文献データ」はフェアユースとみなされ得るとする一方、違法コピーや海賊版由来のデータは明確に侵害であり、企業は金銭的賠償や信用失墜の責任を負うと判断した。
この裁定は世界初の事例となり、今後のAIと著作権をめぐる国際的な基準になるとみられる。
国際産業・メディアが警戒する理由
AnthropicはAmazonやGoogleといった巨大IT企業の投資を受け、時価総額は1,830億ドルに迫る規模へと成長している。今回の高額和解は業界全体を震撼させ、OpenAI、Meta、Microsoftなども同様の訴訟リスクに直面している。
観測筋は「1冊3,000ドル」という水準が今後の交渉の基準値になる可能性を指摘しており、AI業界はより厳格なライセンス契約や規制への対応を迫られると見られる。
訴訟の経緯時間軸
- 2024年:作家団体がAnthropicを提訴
- 2025年6月:裁判所が「影の図書館」由来データを侵害と判断
- 2025年9月5日:Anthropicが和解金15億ドルを支払いと発表
- 今後:他のAI企業も同様に和解によるリスク回避を選ぶ可能性
日本と台湾でも注目が高まる背景
日本でも作家協会と出版社がAI企業を提訴しており、争点は「未承認作品が学習に利用された」点に集中している。台湾の出版業界も、AI翻訳や要約生成の普及により市場全体の著作権秩序が脅かされるとの懸念を強めている。
この判決が意味するもの
専門家は「今回の判決はAI業界の“野蛮成長期”に終止符を打つもの」と分析する。従来はまず無断で膨大なデータを収集し、その後にライセンス問題へ対応する手法が横行していたが、今後は 「ライセンス前提」かつ「共存共栄型」 のビジネスモデルが不可欠となる。
各国政府も規制の整備を進めると見られ、AI開発と著作権保護の両立が国際的課題となっている。
編集:梅木奈実 (関連記事: 日経・朝日が米AI企業Perplexityを提訴 各22億円賠償請求、記事無断利用で対立激化 | 関連記事をもっと読む )
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