第38回東京国際映画祭(2025年10月27日〜11月5日開催)において、世界の映画界に多大な貢献を果たした人物に贈られる「黒澤明賞」の今年度の受賞者が、李相日(リ・サンイル)監督とクロエ・ジャオ監督に決定した。授賞式は11月3日(月)、帝国ホテルにて行われる予定だ。
黒澤明賞は、日本を代表する映画監督・黒澤明の業績を後世に伝え、映画界の未来を担う才能を顕彰する目的で設立された。2022年には株式会社カプコンの協力により14年ぶりに復活し、昨年は三宅唱監督とフー・ティエンユー監督が受賞した。選考委員は山田洋次監督、奈良橋陽子氏、川本三郎氏、市山尚三・東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの4名が務めた。
李相日監督、社会性と人間ドラマを両立した実績
李相日監督は、日本映画学校(現・日本映画大学)にて映画を学び、卒業制作『青~chong~』がぴあフィルムフェスティバル2000でグランプリほか4部門を受賞し話題となった。その後も『BORDER LINE』(2003年)で新藤兼人賞金賞、『フラガール』(2006年)で日本アカデミー賞最優秀作品賞・監督賞・脚本賞、『悪人』(2010年)で最優秀主演男優賞ほか主要5部門を受賞するなど、高い評価を得てきた。
最新作『国宝』(2025年)は歌舞伎を題材にした実写作品で、カンヌの監督週間で世界初上映されたのち、公開前から話題を集め、邦画実写として100億円を超えるヒットを記録する社会現象となっている。
選考委員は「社会の矛盾や人間の罪を扱った重厚なテーマを、ヒューマニズム溢れる人間ドラマとして描き、多くの観客の共感を得てきた。今後の日本映画、そして世界映画を牽引する存在である」と授賞理由を述べた。
李監督はコメントで「黒澤明という名は永久に越えられない壁として私の中に君臨している。映画の環境が変わろうとも、その力強さは色褪せず、人間の本質を突くものだ。その名を冠した賞をいただく意味を、これからも自らに問い続けていきたい」と語った。
クロエ・ジャオ監督、詩的リアリズムで国際的評価
クロエ・ジャオ監督は北京出身の脚本家・映画監督・編集者・プロデューサー。2020年の長編3作目『ノマドランド』がヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したほか、ゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞(BAFTA)、全米監督協会賞、アカデミー賞では監督賞・主演女優賞・作品賞を受賞するなど、世界的に高い評価を受けた。
その後、マーベル・スタジオ作品『エターナルズ』を共同脚本・監督。2023年には製作会社「Book of Shadows」を設立し、最新作『Hamnet』(ジェシー・バックリー&ポール・メスカル主演)は2025年公開予定となっている。
選考委員は「ハリウッドにおいて主流とは異なる詩的かつリアリスティックな表現を追求し、特に『ノマドランド』はアジア系女性監督に大きな勇気を与えた。今後の世界映画へのさらなる貢献が期待される」と評価した。
ジャオ監督は、「黒澤明の作品には、自然の最も広大なスケールと、人間の心理の最も深い真実が共存している。その系譜に連なることは大きな誇りであり謙虚な気持ちを抱かせられる。物語は文化や国境、過去と未来、光と闇をつなぐ架け橋。観客の皆さま、東京国際映画祭、選考委員会に心から感謝申し上げたい」とコメントを寄せた。
編集:佐野華美
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