アメリカによるインドへの高関税措置は、両国の経済貿易・戦略関係を緊張させただけでなく、インドが対外関係の再調整を進める契機ともなった。特に、アメリカの圧力を背景に、インド、中国、ロシアの三国関係が再び協調の兆しを見せている点は、地政学的に重要な意味を持つ。
印米交渉の決裂:インドの強硬姿勢
インドとアメリカは、8月1日から25%の関税および石油関連制裁をめぐり対立を深めていた。5回にわたる交渉でも合意に至らず、アメリカは8月27日、インド製品に50%の懲罰的関税を正式に課した。未解決だった農業・乳製品市場開放問題が、両国の対立を激化させた。
インドは米国の圧力に対し、国内輸出業者への補助金提供、中国・中東・ラテンアメリカへの輸出振替、アメリカ向け軍事購入の停止など、強硬な対応を示した。モディ首相は8月15日の独立記念演説で「自立するインド」を強調し、国防、半導体、人工知能を戦略的自立の優先分野に位置付け、米国の経済圧力に対抗する意向を明確に示した。
天津サミット:インドと中国、関係改善の兆し
印米関係が冷え込む中、インドと中国、ロシアの交流には再び熱が帯びてきている。モディ首相は「上海協力機構」天津サミットに出席し、7年ぶりに中国を訪問した。この訪問は外交的な突破としての意義を持つだけでなく、従来の対中冷淡姿勢から脱却する明確な変化を示している。
習近平主席との会談では、直行便の再開や民間航空協定の改定、国境貿易の再開など幅広い議題が取り上げられた。具体的な合意には至らなかったものの、両国の改善意志は明確であり、人的交流や宗教巡礼の分野では早期成果も見られた。これにより両国関係は完全に解凍されたわけではないものの、「限定的な和解」に向けた進展の兆しが浮かび上がる。
さらに「プーチン・モディ会談」では、インドとロシアの歴史的友好関係と戦略的信頼が確認され、ロシア・ウクライナ戦争や西側制裁の状況下においても、インドとロシアの緊密な交流が印中露三国協力の新たな支えとなる構図が示された。

印中露戦略調整の再開:米国一方主義への対抗プラットフォーム
過去、BRICSやハイレベル対話機構、上海協力機構などを通じ、印中露三国は意見の相違や緊張を抱えつつも、米国の経済圧力を共有する状況下で戦略対話を再開する機会を見出してきた。インド外務省報道官ジャイシュワルは、印中露三国連携プラットフォームの再開を排除しないと明言。中国側もインドとロシアとの協力深化を検討しているとされる。 (関連記事: トランプ政権の「対印50%関税」と親パキスタン政策、長年の友好関係に亀裂 専門家「地政学的な自滅」と警鐘 | 関連記事をもっと読む )
このような限定的な調整機構は全面的な同盟には至らないが、象徴的・実質的な意義を兼ね備える。インフラ、エネルギー、安全保障といった特定分野での協力により、アメリカの圧力を均衡しつつ、グローバルサウスの支持を得るための重要なチャンネルになり得る。
インドはこれまで中国との戦略的協力には慎重であり、国境問題や影響力競争が大きな障壁となっていた。しかし、アメリカの高関税や技術禁輸、軍事的脅威に直面する中で、インドは自身の国際的立場と戦略選択を再評価する必要に迫られている。