中国共産党が主催する9月3日「軍事パレード」を目前に控えた8月24日から9月2日までの期間、中国沿岸の各海事局は、通常であれば軍事演習に伴って発表されるはずの航行禁止区域を設けていない。
こうした状況について、筆者は台湾南西空域で中国軍機が活動していることから、以前から大規模なロールオン・ロールオフ船(RORO船)が汕尾(さんび)近海で行っていた軍事訓練が、人民解放軍の水陸両用作戦における海上輸送支援を想定し、継続して実施されているとの見方を示している。
こうした中、米上院軍事委員会委員長のウィッカー氏夫妻と、同委員会「戦略戦力」小委員会のフィッシャー上院議員夫妻らが、8月29日から30日にかけて米行政専用機で台湾を訪問し、頼清徳総統と会談した。この動きに対し、中国外務省は強い不満を表明している。
中国は「中国人民抗日戦争および世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会」を記念する式典を開催しており、人民解放軍東部戦区は、式典終了後、慣例に従い「合同戦備警戒パトロール」を適時実施するとみられていた。
まず筆者は、パレードを控えた期間に、中国沿岸の各海事局が軍事活動、訓練、任務、実弾射撃などを伴う航行禁止区域に関する通達を一切発しなかったことに注目している。
この期間中、東部戦区は8月27日早朝、台湾に対する海空「合同戦備警戒パトロール」任務を遂行した。一部の専門家は、パレード期間中は北部と中部戦区が中心となるものの、東部戦区のパトロールにも引き続き注意が必要だと指摘していた。しかし、パレードのために各戦区から動員される人員はごく一部であり、戦区全体の配置や活動に影響はない。東部戦区の反応は、台湾と米国が何を発言し、何を行うかに応じて決まると筆者は分析している。また、筆者は以前、「九三軍事パレード」期間中、各戦区は管轄地域や海域を「祝日戦備」態勢と見なすと述べていた。
また、ある専門家は、パレードに米国を中心とする西側諸国が欠席し、中国を中心とする「グローバル・サウス」が参加したことで、互いの相容れない立場が浮き彫りになったと評している。
しかし、歴史的観点から見れば、第二次世界大戦はヨーロッパとアジアの二つの主戦場で戦われ、中国はアジアの戦場に身を置き、日本から侵略を受けた国である。今回の式典が歴史の教訓を刻む目的であるならば、当時日本軍の侵略対象であったベトナム、ラオス、マレーシア、カンボジア、ミャンマー、インドネシア(反政府デモにより直前で参加キャンセル)といった国々が参加するのは当然と言える。
次に、筆者は、中ロ海軍が8月6日から行った6回目の合同巡航任務に注目している。水上部隊は8月20日に西太平洋北部海域で合同任務を終えて別れた。この時点で筆者は、東部戦区海軍の駆逐艦「紹興」(134号)と総合補給艦「千島湖」(886号)が8月下旬に日本の南西諸島間の海峡を経由して舟山へ帰還し、ロシア太平洋艦隊の対潜艦「トリブツ提督」(564号)も近隣の海峡を通って基地へ戻ると推測していた。(関連報道: 陸文浩氏の視点:中国軍機、台海で昼夜を問わぬ異常活動 Ro-Ro船団を護衛し南下集結か )
この合同巡航期間中、中国北部戦区海軍の駆逐艦「ウルムチ」(118号)と総合援潜救難船「西湖」(841号)が、東部戦区所属の「キロ級」潜水艦(371号艇)、ロシア太平洋艦隊のフリゲート艦「グロームキー」(335号)、そして救難タグボートで構成された「キロ級」潜水艦保障部隊を伴って航行した。これらの部隊は8月13日から15日にかけて日本海から対馬海峡を経由して東海に入り、中ロの潜水艦と護衛艦艇による初の日本海から東海への合同巡航任務を行った。8月20日から21日にかけて合同潜水艦巡航が終了した後、ロシアの潜水艦と護衛艦隊は東海から対馬海峡を通って日本海へ戻り、8月27日までにそれぞれが所属基地に帰還した。
中国の「九三軍事パレード」を控え、沿岸の各海域で通常設けられる航行禁止区域が一時的に設定されない中、民間RORO船(ロールオン・ロールオフ船)は南下を続けた。 中ロの潜水艦と護衛艦隊が8月20日に帰路につき、北上を開始してから8月31日まで、筆者は西太平洋での中ロ合同巡航の水上部隊の帰還に関する情報を得られずにいた。
しかし、9月1日夜遅くになって、日本の防衛省統合幕僚監部がその動向を公表した。それによると、8月29日未明にはロシア海軍の「ウダロイI級駆逐艦」(564号)と「アルタイ級補給艦」が西太平洋から津軽海峡を通過して日本海に入ったという。また、8月31日未明には、中国海軍の「旅洋I級ミサイル駆逐艦」(134号)と「福清級補給艦」(886号)が西太平洋から宮古海峡を経由して北西方向に航行したとされている。
この情報公開について、ロシア側艦隊の動向は日本が3日遅れで、中国側艦隊の動向は1日遅れでの公表となった。しかし、日本の当局は中国艦船の日本周辺海域での活動を正確に把握し、公表している点で、台湾よりも優れていると筆者は指摘する。
ロシア側の駆逐艦(564号)は8月8日に中国艦船(134号、886号)とともに日本海から宗谷海峡を通過して西太平洋へ向かったが、この際にはロシアの補給艦の随伴は確認されていなかった。しかし、今回の帰航時には補給艦が加わっていた(いつ、どこで合流したかは不明)。ロシア艦隊(564号と補給艦)の航路は、筆者が以前推測した「最寄りの海峡を通って帰還する」という見方と一致し、日本側も津軽海峡を経由して日本海に入ったと発表している。
8月17日には、中国の民間大型フェリー「中華復興」「渤海鑽珠」「渤海翡珠」「渤海宝珠」「渤海恒達」、そして「永興島」「長山島」「普陀島」などが、渤海・黄海から上海近海を経て南下し、夜間航行を行った。この際、中国軍機が昼夜にわたる活動で、民間船団を護衛した。
これらの民間船舶は8月19日から20日にかけて台湾海峡を通過し、福建省泉州市石獅市沖に集結。8月22日夕方には台湾海峡を通過して汕尾(さんび)市沖に到着し、同日には軍事訓練海域である紅海湾海域に入った。8月23日には午前4時から午後7時まで、広東省汕尾市南東沖の紅海湾沿岸、約194平方キロメートルの海域で軍事訓練を行った。しかし、現在に至るまで、広東省の汕頭(さんとう)と汕尾の海事局からは、航行禁止区域に関する発表はない。
筆者はこの状況を別の視点から観察している。8月24日以降、広東省南澳南東から台湾南西空域にかけて、少数の中国軍機が活動している。これは Y-8対潜哨戒機が、この海空域の監視と警戒を行っているためだと推測される。
8月30日には台湾紙『自由時報』が、同日午前に米軍のRC-135偵察機が台湾南西空域に出現したと報じた。これまでの慣例では、米軍機が台湾南西空域に現れると、中国軍機がこれに対応して出現する。しかし、台湾国防部が発表した8月30日の中国軍機の動向には、23日、28日、30日に台湾南西空域に中国軍機は出現していないとあり、筆者は疑問を感じている。
しかし、その前の8月27日には、中国軍東部戦区が台湾周辺の海空域で「合同戦備警戒パトロール」を行っていた。台湾国防部によると、8月28日午前6時から8月29日午前6時までの間に、中国軍機19機と艦艇7隻、公船1隻が台湾海峡周辺で活動を継続。このうち中国軍機16機が台湾海峡の中間線を越え、台湾北部と東部空域に進入した。
また、中国メディアによると、米海軍の無人偵察機MQ-4C「トライデント・グローバルホーク」が8月28日午前に沖縄の嘉手納基地を離陸。サイレントモードで福建省沿岸に迫り、午前11時30分頃には福建省福州市の海岸線からわずか120キロの海空域に到達したという。同日19時25分から19時35分には、中国軍の主力戦闘機1機が浙江省と福建省の境界以東、台湾北部の空域で活動。さらに7時35分から20時50分にかけて、主力・補助戦闘機合わせて14機が、浙江省と福建省の境界以東から福建省東山南東の台湾海峡以西にかけての空域で活動した。このうち11機が台湾の東引島北東空域で中間線を越えて活動した。これは、台湾海峡空域で一部の中国軍機が、米軍の無人機による近接偵察に対し、集中的に対応した動きと推測される。
特筆すべきは、8月28日午前9時45分から午後5時50分にかけて、中国軍のヘリコプター4機が台湾の花蓮南東空域で活動したことだ。この前例に基づき、筆者は以下のように推測している。
2. 軍艦2隻に艦載ヘリコプター4機が搭載されている場合、2機ずつの2隊に分かれて行動。2隻の軍艦が海空共同作戦を行う。1隻でヘリコプターを2機搭載できるのは、071型ドック型揚陸艦が考えられる。
3.軍艦1隻に艦載ヘリコプター4機が搭載されている場合、それは075型強襲揚陸艦である可能性が極めて高い。一度に4機の艦載ヘリコプターを編隊飛行させることができるからだ。
4. 軍艦が4隻で艦載ヘリコプターが4機の場合、中国軍艦艇7隻と公船1隻が台湾海峡周辺で活動していたことと因果関係がある。
中国軍の関連文献によると、水上輸送とは水上輸送手段を使い、水陸両用作戦部隊を戦場に輸送する方法と定義されている。水域によって内陸河川と海上輸送に、管理主体によって軍と民間、および軍民融合に、輸送区域によって戦区内と戦区間に分けられる。
海上輸送の特徴は、海域の天候、気象、水文の影響を最も強く受けること、制海権・制空権が輸送の成否を左右すること、輸送距離が遠く、後方支援や火力支援が困難であることだ。基本的には、防御、対偵察、通信連絡などの能力と指揮効果を高めることが求められる。
この理論と実際の動きから、福建省泉州沖に集結した多数の民間フェリーについて、以下の点が読み取れる。
1. 8月17日に渤海・黄海から南下し、上海近海を経て、19日から20日には昼夜連続で台湾海峡対岸に進入し、泉州沖に集結することで、民間海運会社が軍を迅速に支援できる能力を示した。
2. 中国側は、海を越えた戦区間輸送能力があり、また、台湾の離島に対する上陸作戦支援が可能であるというメッセージを伝えている。
3. 通常、台湾海峡対岸の福建省沿岸では、南北を往来する商業貨物船が頻繁に行き交うため、軍事訓練には不向きである。そのため、伝統的な上陸演習海域である福建省東山、大埕湾、広東省南澳、汕頭、海門湾、汕尾、碣石湾、紅海湾、大放鶏といった地域が選ばれている。これらの地域は、地形、気候、海況が台湾への上陸が想定される地域と類似している。
4. 防空・対艦能力が弱い民間船舶は、夜間の隠密航行を利用し、中国軍の優勢な航空機や艦艇の防空・制海火力支援を受けることで、敵による軍事行動の妨害を防ぐ狙いがあるとみられる。
9月2日早朝、台湾国防部が発表した情報によると、9月1日午前6時から9月2日午前6時までの間に、中国軍機10機(うち1機が中間線を越えて北部空域に進入)、艦艇5隻、公船1隻が台湾海峡周辺で活動を継続した。中国軍機の活動状況を示す図によると、9月1日午前7時10分から午後5時10分までの間に、主力戦闘機10機が、浙江省と福建省の境界以東から福建省東山南東にかけての台湾海峡以西の空域で活動。このうち1機が台湾の東引島北東で中間線を越えた。
前日の8月31日、午後1時15分から5時40分にかけて、中国軍の補助戦闘機(Y-8対潜哨戒機)1機が、広東省南澳南東の台湾防空識別圏南西端から南南西端にかけての台湾南西空域で活動していた。9月1日には、この空域での中国軍機の活動は確認されていない。これは、中国軍と民間RORO船が汕尾近海で行っていた軍事訓練が一時的に終了したことを意味するのだろうか。今後の情報公開が待たれる。