中国海軍の最新空母「福建号」は、11月5日に海南省三亜の榆林海軍基地で正式に就役した。就役からわずか4日後の9日、三亜海事局は同艦が12日まで三亜の南南西、およそ3,447平方キロメートルの海域で「軍事訓練」を実施すると発表した。就役直後の訓練開始は異例であり、周辺地域の緊張が高まっている。
10日午前9時20分、国防部の発表を引用した『青年日報』によると、午前6時の時点で中国軍機6機と軍艦7隻が台湾周辺で活動していたという。前日まで10隻だった軍艦の数は減少しており、台風「鳳凰」の接近と福建海事局の航行警報を受け、台湾防空識別圏外で一時的に退避している可能性がある。気象状況の改善後、再び台湾海峡に戻る動きが予想されている。
一方、台湾の蕭美琴副総統は7日夜、ブリュッセルで「対中政策超党派連盟(IPAC)」の年次会議に出席し、外交的な突破口を開いた。だがその前日、中国軍は台湾周辺の海空域で「合同戦備警戒巡航」を実施。複数の報道機関は「福建号」の就役と関連づけ、中国軍機38機、軍艦9隻が台湾を包囲したと報じた。しかし筆者は、これを直接的な関連とみなすには慎重な姿勢を示している。
中国軍の空母「福建」は就役直後に軍事訓練を開始。(写真/筆者提供)
10月18日から11月5日までの19日間、中国東部戦区による「合同戦備警戒巡航」は確認されていなかったことが、この見方を裏づけている。
その後、蕭副総統は林佳龍外交部長とともに欧州議会で講演し、「台湾は変動する国際情勢の中で信頼できるパートナーである」と訴え、民主主義国家の協力を呼びかけた。だが、台湾側が慎重な外交姿勢を取っていたにもかかわらず、6日午後に中国軍が再び警戒巡航を行ったことに、筆者は疑問を呈している。
米国在住の政治学者、翁履中氏は8日の番組「中間觀點 - 翁P聊時事」で、「今回の訪欧は公に発表されなかったが、実質的には外交上の成果といえる」と分析した。報道によると、副総統の蕭氏と林部長は5日以降、複数国の国連常任代表と接触したものの、その後の公式行事は公開されていないという。
また、蔡英文前総統も8日夜、ドイツ・ベルリンで開かれた「ベルリン自由会議」に出席するため出発。蕭副総統は9日朝に帰国した。頼清徳総統は同日、「台湾は国際社会で信頼されるパートナーであり、欧州や同志国とともに民主主義と自由を守り抜く」と述べた。民進党の包國勇秘書長は「中国は何をしても満足しない。これからも不満を表明し続けるだろう」とコメントしている。台湾国防部の最新データによると、8日時点で中国軍艦は台湾周辺に10隻展開しており、今後も外交部の方針に沿った「合同戦備警戒巡航」を継続する可能性が高いという。
筆者は、双方の緊張が高まる中でも冷静さを保つことの重要性を強調する。中央気象署の予報では、台風「鳳凰」は9日にフィリピン北部から南シナ海を経て12日に東沙諸島付近に達し、13日には台湾北部を通過、14日には日本の宮古島周辺に進む見込みだ。このため、一部の中国艦艇は一時的に避難行動を取る可能性がある。福建海事局は9日夜、「台風26号(フォンウォン) 」に関する航行警報を発表し、船舶に対し早めの退避を呼びかけた。実際、9日時点で台湾周辺の中国軍艦は10隻から7隻に減少しており、台風回避行動と関連しているとみられている。
さらに、中国初の電磁カタパルト搭載空母「福建号」をめぐる動きが次第に明らかになっている。中国中央テレビ(CCTV)や新華社通信などの国営メディアは11月7日、同艦の就役式が5日午後4時半ごろ、海南省三亜の軍港(榆林海軍基地とみられる)で行われたと報じた。式典では、習近平氏(中国共産党中央総書記・国家主席・中央軍事委員会主席)が親自、艦に旗を授与し、艦上での殲-35、殲-15T、早期警戒機・空警-600、輸送ヘリ・直-20など艦載機の展開状況を視察した。式典後には空母開発と戦闘能力生成の報告を受け、電磁カタパルトの稼働状況を確認。さらに制御ステーションで自らカタパルトのボタンを押し、中国海軍の新たな節目を演出した。
習近平氏が空母「福建」に乗艦。(写真/新華社)
こうした報道内容は、筆者が以前示した推測を裏付けるものだ。中国軍が4日から6日にかけて実施した三亜以南の約400平方キロメートルの軍事演習は、南部戦区の海空戦力を示すデモンストレーション的な性格にとどまったとみられる。筆者の観察によれば、三亜の軍事愛好家が撮影した映像から、5日午後5時半ごろに訓練が終了したとみられる。習氏が同日正午過ぎに三亜鳳凰国際空港に到着していることを踏まえると、就役式は同日午後ではなく、翌6日に実施された可能性が高い。
「福建号」が低調に就役した背景には、南シナ海を管轄する南部戦区の地理的要因がある。周辺にはASEAN諸国が位置し、一部は中国と領有権や海洋主権をめぐる対立を抱えている。そのため、中国側は政治的摩擦を避ける形で式典を控えめに行ったとみられる。「福建号」は南部戦区所属の2番目の空母として、西沙諸島からフィリピン西方までを主な作戦範囲とし、将来的には「山東号」との二隻体制で任務を交代しながら運用する構想がある。これにより、周辺国への軍事的圧力を段階的に強める狙いも指摘されている。
中国側は「福建号」の就役は特定の国を対象としたものではないと強調しているが、電磁カタパルトを搭載した通常動力型空母が本格訓練を始めたことは、米国、フィリピン、日本をはじめ、ASEAN諸国に新たな警戒を生む要因となり得る。筆者の見立てでは、「福建号」が艦隊との連携訓練を経て実戦配備に近い段階に達するのは、早くても2026年10月ごろになる見通しだ。8日午後、中国海軍の冷国偉報道官も「就役後も引き続き試験を進め、艦載機との編成訓練を重ねて実戦能力を高めていく」と述べた。
一部の中国軍事専門家は、「福建号」のような従来型動力空母では、電磁カタパルトを作動させるための安定的な電力供給に課題が残ると指摘している。しかし、著名な軍事技術者・馬偉明氏の研究によると、「電磁軌道発射理論」や「多相整流発電システム」などの開発が進んでおり、懸念は限定的だという。
また、これまでスキージャンプ式の甲板で発艦してきた中国海軍のパイロットは、新たに射出発艦方式への再訓練が必要となる。これにより、短期的には艦載航空戦力の移行期に一時的なギャップが生じる可能性がある。筆者は、中国海軍航空兵の育成体制を分析し、2012年の「遼寧号」就役当初は空軍出身者が研修を受けていたが、2015年以降は海軍独自で艦載パイロットを育成。2018年に訓練体系を確立し、2020年以降は新世代パイロットが初飛行訓練を開始、2023年からは「福建号」用の艦載機要員の養成を本格化させていると述べている。地上の電磁カタパルト実験施設では、頻繁なテストフライトが繰り返されているという。
冷国偉報道官は8日、「艦載機と補助装備の試験開発は着実に進展しており、実戦配備への準備が進んでいる」と述べ、「満員搭乗の日を待ちきれない」と意欲を示した。
海南の港に停泊する空母「福建」。米商用衛星の画像。(写真/AP)
最後に、中国軍内部の軍事戦略関連資料によると、中国海軍は2020年から2050年までを「第3段階の発展期」と位置づけ、地域型海軍から「広域行動が可能な海洋強国型海軍」への転換を目指している。その核心目標は、広大な海域で主要国と対等に競い合う能力を獲得し、同時に自国の海洋権益と航路安全を確保することにある。
しかし、中国軍事研究者の間では、こうした野心的な戦略の裏で、指揮系統の不明確さや軍内の権力闘争、制度的不安定さが依然として課題だと指摘されている。ある専門家は「福建号が台湾を攻撃できるかどうかよりも、むしろ台湾を避けて運用できるかが焦点だ」と述べ、「台湾は中国海軍の真価を試す最初の試練だ」と分析した。また、日本が中国艦艇の宮古海峡通過に過敏な反応を示す一方で、日本政府はより現実的で継続的な対処策を取っているとも言及している。
11月5日に南部戦区海軍に正式配属された通常動力型空母「福建号」は、今後の中国空母建造の技術的基準となるとみられている。艦隊との共同訓練が進めば、将来の同型艦開発や改良の方向性を示す「モデルケース」としての役割を担うだろう。筆者は、来年に も「福建号」が艦隊全体の戦闘訓練(いわゆる「全訓」)体制を整え、潜水艦や駆逐艦を含む艦隊がアデン湾の護衛任務に参加する可能性があるとみている。その延長線上で、中国海軍がインド洋での航行訓練を実施し、「遠海防衛」戦略の象徴として世界周航を行うシナリオも想定される。もし実現すれば、インドが自国のシーレーン支配への脅威と受け止めることは避けられないだろう。
さらに、11月9日午前11時53分、中国三亜海事局は再び「軍事訓練」を公告した。「瓊航警209/25」によると、訓練は2025年11月9日正午から12日午後5時まで実施される予定で、指定海域は北緯17度10分~17度52分、東経109度00分~109度25分を結ぶ範囲に設定された。この区域は海南島・三亜市の南南西約45キロに位置し、面積は約3,447平方キロメートルに及ぶ。
この訓練区域は、「福建号」が渤海で行った海上試験後に実施される初の本格的な艦隊連携演習とみられ、既存の「山東号」空母との共同訓練やデータリンク実験が含まれている可能性が高い。今後、榆林海軍基地や三亜南方海域では、海外の商業衛星や各国の偵察衛星による監視が一段と強化される見通しだ。