張鈞凱のコラム:鄭麗文氏への非難は誰の歴史を繰り返すのか 台湾政治に漂う「反共」の亡霊

2025-11-11 17:25
国民党主席の鄭麗文氏が、1950年代の白色テロ犠牲者を追悼する秋祭に出席。(写真/蔡親傑撮影)
国民党主席の鄭麗文氏が、1950年代の白色テロ犠牲者を追悼する秋祭に出席。(写真/蔡親傑撮影)
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台湾最大野党・国民党の新主席、鄭麗文氏が11月8日、台北の馬場町刑場跡地で行われた1950年代「白色テロ」犠牲者の追悼式に参列した。この場所は、国民党政権下で「反共」を理由に多くの政治犯が処刑された場所として知られている。

ところが、鄭氏の参列はすぐに与野党双方から激しい批判を浴びた。与党・民進党(緑陣営)は、鄭氏を「共産党のシンパ」と非難し、「中共同路人(中国共産党と歩調を合わせる者)」だと断じた。一方、保守色の強い国民党支持者(藍陣営)からは「党への裏切り者」との声が上がった。

発端となったのは、かつて中将の身分で共産党に内通したとされる呉石氏の慰霊。白色テロの「思想犯」とは異なり、彼は実際に「軍事スパイ」だったとされ、鄭氏の参列は「社会の一線を越えた軽率な行動」と見なされている。

最も憎んだ相手と和解を選んだ人々

この追悼式は、かつて国民党政権に弾圧された犠牲者や遺族が結成した「台湾政治受難者互助会」が主催している。彼らは、長年にわたり「白色テロ」の被害者として社会の差別と偏見に晒されてきた。

本来ならば、国民党を最も憎んでいてもおかしくない人々である。だが彼らは、過去の恨みを乗り越え、鄭麗文氏を招いて共に祈りを捧げた。その姿は、個人的な怨念を超え、民族全体の和解を目指す成熟した寛容さを示している。過去の「加害者」と向き合うことで、ようやく両岸、すなわち台湾と中国大陸の平和が見えてくる。追悼式はその象徴でもあった。

一方で、民進党は「抗中保台(中国に抵抗し台湾を守る)」や「台湾独立」を掲げ、鄭氏を「共産党寄り」と非難する構図を強めている。

筆者はここに矛盾を指摘する。民進党は長年「転型正義(移行期正義)」を掲げ、かつての中共地下党員を「民主の闘士」や「台湾独立の烈士」として称えてきた。しかし、馬場町での処刑の真実が明らかになったことで、この「正義」の物語が政治的な演出であったことが浮き彫りになっているというのだ。

たとえば映画『返校』のモデルとなった鍾浩東氏は実際に共産党の地下組織に属し、武装基地を築き「五星紅旗(中国国旗)」を掲げた人物であった。にもかかわらず、作品では「自由を求めた犠牲者」として描かれている。

20251108-国民党主席鄭麗文出席1950年代白色恐怖秋祭慰霊大会。(蔡親傑撮影)
国民党の鄭麗文主席が白色テロ秋祭の慰霊式に参列。(写真/蔡親傑撮影)

「反共」思想が覆う台湾 内戦の影をいまも引きずる社会

台湾の保守勢力、藍陣営は、いまだに国共内戦の対立構図を引きずり、「反共」の旗を掲げ続けている。しかし、歴史をたどればその構図は単純ではない。孫文(孫中山)は晩年、すでに左傾化し、ソ連や共産党との協力を唱えていた。だが彼の死後、蔣介石が共産党員を弾圧した「清党」によって、国民党は「反共」を党是とする政党へと変質していった。

内戦末期、中国大陸の民衆は飢餓と戦乱に疲弊し、「飢餓反対」「内戦反対」「迫害反対」を訴える運動が各地で自発的に起きた。こうした流れが蔣介石政権への反発を強め、やがて大陸の政権交代につながった。 (関連記事: 台湾・国民党、新党主席に鄭麗文氏「羊群から獅群へ」宣言 対中姿勢に変化の兆し、党内からは不安の声も 関連記事をもっと読む

台湾でも同じような転換が見られた。戦後の「祖国復帰」を歓迎した台湾の知識人たちは、すぐに国共内戦に巻き込まれ、国民党の統治に失望していく。「白色祖国」への失望は、「紅色祖国(共産党)」への期待へと変わり、多くの人々が共産党側の理想に共鳴した。国民党政権は朝鮮戦争を機にアメリカの支援を得て勢力を回復し、「中共同路人」への大規模な粛清を始めたのである。

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