国連創設80年の岐路 赤阪清隆氏「分断の時代、日本の責務は重い」―日本記者クラブ「トランプ2.0」会見

赤阪清隆氏は、国連創設80年の節目に安保理の機能不全や米中対立による分断を課題に挙げ、日本による改革主導と調整役の一層の強化を訴えた。(写真/日本記者クラブ提供)
赤阪清隆氏は、国連創設80年の節目に安保理の機能不全や米中対立による分断を課題に挙げ、日本による改革主導と調整役の一層の強化を訴えた。(写真/日本記者クラブ提供)

国連創設から80年を迎える今年、安全保障理事会の機能不全や米国による拠出金削減など、国連を取り巻く環境はかつてない危機に直面している。元国連広報担当事務次長でニッポンドットコム理事長の赤阪清隆氏は10月20日、日本記者クラブで開かれた「トランプ2.0」シリーズ第13回会見で、80周年を迎える国連の課題と展望を語り、分断が深まる時代において日本の果たすべき役割が一層重要になると強調した。

赤阪氏はまず、歴代の国連事務総長の歩みを振り返り、ダグ・ハマショルド氏の「国連は人類を地獄に落ちるのを防ぐために作られた」という言葉を引用。コフィ・アナン氏らの実績にも触れつつ、「国連は理想を掲げ続ける場であり続けなければならない」と語った。そのうえで、2005年の「保護する責任(R2P)」の採択や、持続可能な開発目標(SDGs)、パリ協定、世界食糧計画(WFP)のノーベル平和賞受賞などを国連の成果として挙げた。

一方で、スーダン、ウクライナ、ガザ、ハイチ、イエメン、ミャンマーなど紛争が世界各地で続く現状を示し、「平和と安全保障はいまも国連最大の課題だ」と指摘。経済や貿易など多分野で「民主主義国家と権威主義国家の対立」が深まり、世界は「大断裂(グレート・フラクチャー)」の局面にあると警鐘を鳴らした。また、AIが権威主義国家の監視統制の手段となる危険性にも触れ、AIガバナンス構築の緊急性を訴えた。

組織運営面では、安全保障理事会改革と「UN80イニシアティブ」を軸とする国連改革を最大の課題に挙げた。1993年以降議論が続く安保理改革は進展しておらず、常任理事国の拒否権行使が機能不全を深刻化させてきたと説明。リビアでのR2P適用後、ロシアや中国が「政権転覆の口実に使われた」と警戒感を強め、シリア危機以降、拒否権の行使が急増したと分析した。

財政と人員の問題も深刻で、米国の分担率は22%、中国は20%にまで上昇。通常予算は約15%削減され、人員7,000人規模の整理が進む見通しで、PKO部隊も縮小される方向だ。WHO脱退表明やUNHCRでの任意拠出減少など、関連機関の活動も制約を受けている。

安保理改革をめぐっては、日本、ドイツ、インド、ブラジルによるG4案と、常任理事国拡大に反対する「コンセンサス・グループ」が対立。赤阪氏は、4年任期で再選可能な「準常任理事国」枠を設ける現実的な妥協案を提案した。さらに、2030年までに途上国の参加を拡大し、2045年の国連創設100周年までに抜本改革を実現するロードマップを提示した。

「UN80イニシアティブ」では、①予算削減と効率化、②マンデートの重複整理、③機関統合を柱に掲げたが、統合には各機関の理事会の同意が必要であり、「組織統合は企業の合併以上に困難だ」との見方を示した。

国連に対する評価について赤阪氏は、「日本国内では欧米に比べ支持が低い。期待と現実の落差、安保理の停滞、報道姿勢などが影響しているのではないか」と懸念を示した。一方で「国連が存在しなければ、人道支援や核兵器禁止、防疫など、国際社会を支える枠組み自体が失われる」と強調した。

今後の日本の役割については、常任理事国入りを目指すと同時に、有志国との連携による仲介や改革推進が求められると述べ、「国連は加盟国が活用すべき道具であり、日本は調整役として信頼を築くことが大切だ」と指摘。「将来的には日本人の事務総長誕生も視野に入れ、次世代の国際人材育成にも注力すべきだ」と語った。

最後に赤阪氏は、「分断の時代だからこそ、多国間主義を再構築するうえで日本の責任は極めて重い。国連の成果と課題を公正に伝える報道が、その第一歩になる」と結び、講演を締めくくった。

編集:田中佳奈

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