生成AIと著作権を巡る国際的攻防 福井健策弁護士が会見で課題と展望語る

福井健策弁護士が生成AIと著作権の課題を指摘。(写真/日本記者クラブ提供)
福井健策弁護士が生成AIと著作権の課題を指摘。(写真/日本記者クラブ提供)

生成AIの急速な普及に伴い、著作権侵害をめぐる訴訟が世界中で相次いでいる。米国や欧州ではメディア企業や作家団体、ハリウッドの俳優組合がAI企業を提訴し、日本でも日本経済新聞や朝日新聞が米企業を相手取り訴訟を提起した。こうした状況を踏まえ、エンターテインメントや媒体契約、著作権法を専門とする弁護士の福井健策氏が「生成AIと著作権 コンテンツと社会のゆくえ」をテーマに講演し、現行法の枠組みと今後の課題を示した。会見は10月14日、日本記者クラブで行われた。

福井氏は、AIによる学習と生成のプロセスを踏まえた上で、著作権侵害が成立するためには「人の著作物に触れ(情趣)、表現が類似している(類似性)」という二つの条件が必要だと強調した。作風や雰囲気といった「テイスト」の近似はアイデアの範囲にとどまり、表現の再現とまではいえない限り侵害にはあたらないと説明した。その一方で、ミッキーマウスに酷似した画像を画像生成AI「Midjourney」が出力した事例を挙げ、「プロンプトにキャラクター名を明示し、ユーザーが既存作品を想起させる意図で誘導した場合には、意境が推認される」と述べた。また、生成物が著作権侵害に該当する場合、ユーザーだけでなく、高頻度に侵害的生成物を出力し得るAIを提供する企業側にも損害賠償責任や差止の対象となる可能性があると指摘した。

近く話題となった米OpenAIの動画生成AI「Sora 2」では、日本のアニメキャラクターに酷似した映像が容易に作成できる一方、ディズニーキャラクターは出力されなかったとする報道があり、「日本の権利者が事前に除外されなかったのではないか」と批判が高まった。OpenAIが採用した「オプトアウト方式」については、日本政府が「権利者の許諾を得たもののみ出力するオプトイン方式への転換を要請した」と説明し、制度設計への新たな議論が始まっているとした。

学習段階における法的課題も深刻であり、福井氏は「生成物と異なり、作風の抽出レベルであっても、著作権者の潜在市場を不当に侵害する場合には問題となる」と指摘した。米国ではニューヨーク・タイムズ、ゲッティイメージズ、作家団体、ディズニーなど30件以上の訴訟が進行しており、多くのAI企業が「フェアユース」規定を根拠に学習の適法性を主張している。一方、EUは営利目的の学習に対し「機械可読な形でオプトアウトを表明した著作物を対象外とする」制度を導入。日本では著作権法30条の4により、「表現の再現を目的としない学習に限り、権利者の利益を不当に害しない範囲で複製を認める」と規定されている。

ただしスタイル模倣のみを目的とした学習を認めるかどうかについては意見が割れており、福井氏は「奈良美智氏風の作品を1日1万枚生成するAIが登場すれば、権利者の市場が奪われる恐れがある」として、今後の司法判断に委ねられる余地が大きいと述べた。またニュース要約AI(ラグ)による「ノークリックサーチ」によって「取材現場を支える一次情報発信が持続困難となる恐れがある」との懸念にも言及し、文化的エコシステム全体の持続性を問う問題として捉える必要があると強調した。

質疑応答では、「AIは記憶していないと企業は主張するが、出力の再現性が極めて高い場合に情趣が存在しないことを認めれば、責任回避の口実にならないか」との問いに対し、福井氏は「学習データの秘匿を前提に免責を認めれば、公平な権利行使が困難になる」と応じた。また「生成AIを全面的に否定するのではなく、適法な学習環境と創作者の利益保護を両立する制度設計が不可欠だ」とし、国際的ルール形成への主体的関与を訴えた。

生成AIが文化と産業の構造を塗り替えつつある現在、著作権の線引きは「創作の自由」と「権利者の利益」をどう調和させるかという社会的合意形成の試金石となりつつある。

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