任期満了を年末に控えるフィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官が10月15日、日本記者クラブで会見した。会見はNHKの出川展恒・日本記者クラブ企画委員が司会を務め、通訳は熊野里砂氏が担当した。グランディ氏は、2016年の就任以来10年にわたるUNHCRの活動を振り返りつつ、世界で難民・避難民の数が急増する一方で、国際支援の縮小が進む現状に強い危機感を示した。
冒頭、出川氏は、同氏がこれまでスーダンやミャンマー、ウクライナ、シリア、アフガニスタンなど数多くの人道危機対応を指揮し、日本記者クラブでの会見は就任直後から9回目、UNRWA時代も含め通算10回目となると紹介した。グランディ氏は「政治的な移行期と自らの任期の終わりが重なる中、日本と日本国民の支援に感謝を伝える必要があった」と述べ、日本との関係に感謝の意を示した。
現在、ガザ情勢が大きな注目を集めているが、同氏は「他の危機も忘れられてはならない」と述べた。UNHCRはウクライナ、スーダン、コンゴ民主共和国、ミャンマー、アフガニスタン、ベネズエラなど世界各地で支援を続けており、紛争が続く限り避難民は増加の一途をたどると指摘した。特にガザで停戦が成立した背景には、米国、トルコ、カタール、エジプトなどの外交的関与があったと評価する一方、「同様の政治努力がウクライナやスーダン、ミャンマーにも必要だが実現していない」と懸念を示した。
現在、世界の難民・避難民の総数は約1億2000万人に達し、日本の人口規模に匹敵する状況となっている。グランディ氏は「紛争が続く中でも、政治的進展があれば帰還は可能だ」とし、シリアで政権交代後に100万人を超える難民と150万人以上の国内避難民が帰還した例を挙げた。「難民問題の解決には政治的行動と支援への投資が不可欠だ」と強調した。
しかし、UNHCRを支える資金は縮小している。任期中、同機関は年間約50億ドルの資金を確保してきたが、2025年は米国やドイツ、フランスなど主要支援国の対外援助削減により、約35億ドル程度まで落ち込む見通しで、「壊滅的な状況」と表現した。また、日本も支援額を減らしたことで、資金源の約3分の1を喪失したという。支援削減の背景には、防衛費増大や国内財政圧力があることを理解するとしながらも、「人道支援の縮小は戦略的な誤りだ」と訴えた。同時に、日本が短期の人道支援と長期的な開発支援の連携を重視する姿勢を評価し、引き続きの協力を求めた。
国内の難民受け入れ制度については、「経済的移民と迫害や戦争から逃れる難民は区別されるべき」と述べ、日本の制度が過去10年で改善してきたと評価した。特にウクライナ避難民への一時保護の提供は大きな進展であり、「難民と認定されるべき人が日本に留まれる仕組みの強化を支援したい」と述べた。
質疑応答では、支援削減が一時的なものか長期化するかとの質問に対し、「かつての規模に戻ることは難しく、より小さいキャパシティで効率的に働く必要がある」と回答した。そのうえで、「援助国の利害に基づいて支援が偏るリスクが高まっており、国連など多国間機関の役割はむしろ重要になっている」と述べた。排外主義の高まりについては、「常に存在してきたが、政治やメディアの言説がそれを煽ると問題はさらに深刻化する」と警戒感を示した。
また、中国の動向については、人道支援機関の構築や地域危機への影響力行使の可能性に触れ、「現場で対話し、民間人の保護拡大を模索する余地はある」とした。さらに気候変動による環境難民の問題にも言及し、「洪水や資源枯渇による強制移動は既に起きており、一部は難民となる可能性がある」と述べ、今後のCOPで議論が必要だとの見解を示した。
最後に、「戦争は極めて悪く、平和は良い。それが人道支援の核心だ」と語り、アフガニスタンやコートジボワールで大量の難民帰還を目撃したことを「キャリアの中で最も良い瞬間」と振り返った。会見の締めくくりには、「難民支援を続けてきた日本とその人々への感謝と敬意」を改めて表明し、退任後も支援の継続に期待を寄せた。
編集:佐野華美
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