世界マジック選手権で日本人として初のグランプリを獲得した24歳の奇術師・イブキ氏が、優勝演目の背景や創作の過程、そして世界に挑む若手マジシャンとしての展望について語るプロフェッショナル・ランチョンが10月16日、日本外国特派員協会(FCCJ)で行われた。京都出身のイブキ氏は、2025年7月にイタリア・トリノで開催されたFISM(国際奇術連盟)主催の世界選手権「FISM World Championship of Magic」において、クローズアップ部門でグランプリを受賞し、日本人として初の快挙を達成した。

世界大会への出場からわずか2年での栄冠となり、「マジック界のオリンピック」と称される同大会での歴史的勝利は、国内外で大きな反響を呼んでいる。会見冒頭、イブキ氏は「自分の演技が世界の舞台で評価されたことは本当に信じられない気持ちだった」と振り返り、受賞時の心境について語った。演目の中心となるのは、衣装のボタンが次々と移動し、瞬時にハンカチに縫い付けられるという独創的な構成である。自身の作品づくりについて、「日常の中に魔法を持ち込むコンセプトを大切にしている」と述べ、「観客が『現実ではあり得ないことが目の前で起こっている』と感じる瞬間を作り出したい」と語った。
さらに、創作の過程について問われると、「優勝演目は単にトリックの連続ではなく、一つの物語として構成されている」と説明し、衣装のボタンという身近なモチーフを通じて「不思議」と「世界観」を融合させたことが評価につながったと述べた。また、「魔術師としての演技力と人間的な魅力が問われるのがクローズアップ部門の難しさ」とし、演技の完成度を高めるために膨大なリハーサルを繰り返したという。
日本人として初めてのグランプリ受賞については、「日本のマジック文化を世界に示すことができたことに大きな意義を感じている」とし、「自分一人の成果というより、日本のマジシャン全体への追い風になればうれしい」と語った。また、国内外のマジックシーンにおける違いについて問われ、「海外では演技における“個性”が特に重視される傾向がある」としたうえで、「日本の技術力と物語性を融合したスタイルは世界でも十分に通用すると確信した」と述べた。
質疑応答では、今後の活動についての質問が集中した。イブキ氏は「今後は海外公演にも積極的に挑戦し、世界の観客に自分のマジックを届けたい」と抱負を語り、「今回の優勝はゴールではなくスタート」と意欲を示した。さらに、若手マジシャンとしての自身の役割について、「世界で戦える環境が必ずしも十分に整っているとは言えないが、自分の挑戦が次世代のマジシャンの道を開くきっかけになれば」と述べ、日本のマジック界全体の底上げにも意欲を示した。
また、FISMでの競争環境について問われると、「参加者の中には10年以上その一つの演目を磨き続けている人もおり、世界の舞台の重みを痛感した」と語った。「自分はまだキャリアの途中にあり、これからさらに磨きをかけたい」とし、将来的には「“日本のマジシャン”という枠を超え、世界中で愛されるマジシャンになりたい」と目標を掲げた。
一方、観客とのコミュニケーションの重要性についても触れ、「クローズアップマジックでは観客との距離が近いからこそ、技術だけでなく表情や間合いといった要素が演技全体の説得力を支える」と指摘した。また、「マジックは時間と空間を共有する芸術であり、観客が自分と同じ世界に引き込まれたと感じる瞬間に最も価値がある」と語った。
最後に、若い世代へのメッセージを求められると、「自分も数年前までは無名だったが、小さな驚きを形にし続けることでここまで来ることができた」とし、「夢を持つ人には、自分の中にある“魔法”を信じて挑戦してほしい」と呼びかけた。会見は、参加者の拍手とともに幕を閉じた。
イブキ氏は、世界タイトルを獲得したばかりの若きマジシャンとして、その歩みをさらに加速させる決意を口にし、新たな舞台へと一歩を踏み出している。
編集:柄澤南 (関連記事: AI時代も「人間らしさ」が鍵 FCCJでNY・FTジャーナリスト登壇、インタビュー技術の極意を識者が語る | 関連記事をもっと読む )
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