台湾・台中市でアフリカ豚熱(ASF)の感染が拡大を続け、発生源とウイルスの由来に関心が集まっている。農業部獣医研究所の鄧明中所長の最新説明によれば、ウイルスの遺伝子配列解析の結果、今回の流行株は「組換え株」に属し、中国およびベトナムの組換え株との類似度はそれぞれ99.95%、99.92%に達したという。鄧氏は、配列比較では両地域のウイルス配列との差が1万分の5にとどまることから、ウイルスが国外から流入した可能性が極めて高いと推測できるものの、最終的な由来の特定には、世界の遺伝子データベースに完全一致する配列が存在するかを照合する必要があると説明した。もし当該ウイルスが既存データベースに未収載であれば、「周辺地域」からの流入の可能性があるとしか判断できないとしている。
今回のアフリカ豚熱 発生後は、水際管理に穴があったかどうかに加え、食品廃棄物 による養豚も焦点となった。現在、台湾では食品廃棄物 養豚を全面的に一時停止しているが、その結果、各地で食品廃棄物 処理が行き詰まり、一部の県市は埋立処理に切り替えた。しかし、これが新たな防疫上の懸念を招いている。防護措置のない露天の食品廃棄物 埋立地は野生イノシシを誘引しやすく、アフリカ豚熱 ウイルスの再伝播・拡散リスクを高める可能性があるためだ。
農業部林業保育署の羅尤娟組長は、最近、一部の埋立地で確かに食品廃棄物 の露出が見られたと述べ、すでに中央の緊急対応センターへ通知するとともに地方政府に通達し、野生イノシシの接触を防ぐ遮断設備の即時設置を求めたと説明した。監視強化に向け、農業部は全国の食品廃棄物 埋立地と野生イノシシの分布図を重ね合わせて監視リストを作成し、毎日の巡回チームを稼働させ、異常死のイノシシを発見した場合は直ちに中央の緊急対応センターへ通報する。同時に埋立地周辺に自動カメラを設置し、野生イノシシの活動軌跡を監視する。羅氏は、中央が暫定・恒久の囲い設置規格をすでに提示しており、地方政府はこれに従って野生動物が第二波の伝播媒介にならないよう防止すべきだと補足した。
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台湾・台中市で発生したアフリカ豚熱(ASF)感染の「発生源」は、いまだ疫学調査が完了していない。写真は、化学兵が緊急支援として台中・梧棲地区で防疫作業にあたる様子。(資料写真/台中市政府提供)
蘇貞昌氏の看板実績が崩れる アフリカ豚熱 をめぐり与野党の攻防が先鋭化 中央と地方が アフリカ豚熱 の対応をめぐって互い に責任を押し付け合う なか、立法院での質疑は緊張を増している。国境を通過する小包の防止体制が機能不全だったのか、獣医の通報が遅れたのか、 食品廃棄物 養豚を全面禁止すべきか――いずれも与野党の攻防点となった。農業部の疫学調査によると、確定症例の農場は台中市梧棲にある、 食品廃棄物 で黒豚を飼養する養豚場で、場内には約300頭の豚がいた。潜伏期間中の死亡は20頭に達した。疫学調査では、同農場が規定に基づく食品廃棄物 の蒸煮(加熱処理) 記録をアップロードしておらず、5月は24回、6月は8回、7月は1回、8月はゼロで、地方の環境保護局も月次監査を実施していなかったことが示された。
しかし、各方面の見方としては、台湾でアフリカ豚熱 が発生したことで露わになったのは一つの農場の問題にとどまらず、主として長年の制度の緩みと防疫標準作業手順 の機能不全だという。過去7年間、台湾はアフリカ豚熱を 封じ込めのアジアの模範とみなされてきた。2019年初頭に中国で感染が拡大した際、当時の行政院長・蘇貞昌(スー・ツェンチャン)氏は就任初日に桃園空港へ赴いて水際防疫を視察し、「高リスク地域の旅客は100%検査」「違反すれば罰金、納付しなければ入国不可」と強調。標語による周知徹底や検査体制の綻びの徹底防止を指示した。当時、中央政府は各部会を動員し、防検局・税関・郵政システムを連携させて国境検査を全面的に引き締め、初期の流行を食い止め、「ゼロ感染 」の基礎を築いた。
2023年、蘇氏は民進党の大統領候補・頼清徳氏の新北市選挙事務所の設立集会で応援演説に立ち、看板であるビリヤードキューを手に「アフリカ豚熱を食い止め、台湾の人々が引き続き豚肉を食べられるようにした」と強調した。アフリカ豚熱 の封じ込めは民進党政権の代表的な実績となった。しかし2019年から7年後の2025年、当時の厳しい 防疫体制は次第に緩み、台中市での感染拡大は地方の監査執行力への疑義を招いただけでなく、中央の標準作業手順 設計の欠陥や省庁横断の調整不全も露呈した。
アフリカ豚熱の防止成功は、民進党政権の代表的な成果の一つとされてきた。写真は、2023年に行政院長へ復帰した蘇貞昌氏が初日に桃園空港を視察した際の様子。(資料写真/行政院提供)
検査体制が機能不全 中央・地方で責任の押し付け合い 民進党の蘇巧慧(スー・チャオホイ)立法委員は立法院での質疑で、「10月10日に豚が死亡し、14日に獣医が現場を訪問したが検体を採取せず、20日になってようやく確定検査に送られた。これはもはや単なる偶発的なミスではなく、通報制度そのものの崩壊だ」と指摘した。
『動物伝染病防治法』 第17条では、疑わしい症例が発生した場合は即時に通報と検査を行うよう義務づけている。しかし、基層(地方)の獣医師が「典型的な症状が見られない」として通報を遅らせた結果、感染確認が遅れた。蘇氏は、「アフリカ豚熱の防疫線を7年間守ってきたのに、最も気を抜いてはいけないところで穴が開いた。これは全体的な警戒心の欠如の結果だ」と痛烈に批判した。
台中市の感染豚舎が露呈した問題は、決して個別事例にとどまらない。台湾全土には現在435カ所の食品廃棄物 養豚場があり、そのうち358カ所は報告率が90%に達しているものの、77カ所はそれを下回り、27カ所は60%にも満たない。環境部は毎日、蒸煮(加熱処理)写真のアップロードを義務づけているが、システムは単なるデータ登録プラットフォームであり、異常を自動検出・警告する機能はない。
民進党の林淑芬(リン・シューフェン)立法委員もこれを問題視し、「このシステムは監視装置ではなく、ただのデータベースに過ぎない。牧場が3日間連続でデータを上げなくても、中央は何の異常も把握できない」と批判した。林氏はこれを「中央の標準作業手順が時代遅れである象徴」と述べ、環境部に対しリアルタイム警報とAIリスク検知機能を備えた中央監視プラットフォームの構築を求めた。
地方での検査体制の機能不全について、環境部は「廃棄物清理法」に基づいて罰則を科すことができると主張するが、地方政府側は「法令に罰則規定がなく、改正が必要だ」と反論。双方の主張は平行線をたどっている。台中市政府は「中央が明確な監査権限を与えていない」と主張し、これに対し環境部は「地方が規定どおり『毎月1回の監査』を実施していない」と反論。中央と地方が責任を押し付け合う構図が再び浮き彫りとなり、標準作業手順 の曖昧さと職務分担の不明確さが露呈した。
民進党立法委員の蘇巧慧氏は、「通報制度はすでに完全に機能不全に陥っている」と指摘した。(資料写真/柯承惠撮影)
水際対策の欠陥は「縦割り行政」構造に起因 食薬署と税関が連携せず 食品廃棄物 養豚場の問題が地方制度の緩みを示したとすれば、国境の防疫体制の欠陥は、中央 の標準作業手順の 「 縦割り行政 」構造的欠陥を浮き彫りにした。
林淑芬立法委員の指摘によれば、衛生福利部(衛福部)は2019年に「1,000米ドル以下・重量6キログラム未満の小型郵便物」を検査免除とする制度を導入した。本来は個人利用の利便性向上を目的としていたが、実際には中国から台湾への肉製品密輸の最大の抜け道となった。監査院の報告によると、過去10年間で小包の輸入件数は約3倍に急増し、2024年には5,847万件に達した。そのうち実に88%が中国からのもので、総額は656億台湾ドル(約3,250億円)に上り、2014年度比でほぼ2倍の伸びを示した。
林氏は、「この政策が防疫の盲点を作り出した」と指摘。中国製の「辣条(スパイシースナック)」や「麻辣ピーナッツ」、「豚肉入り月餅」などの製品が、「個人使用」の名目で容易に台湾へ持ち込まれているという。監査院の調査でも、ある個人アカウントが1年間に免検査申請を3,002回行い、ほぼ毎日通関していた事例が確認されたが、システム上は全く警告が出なかった。これはリスク分級や異常検出の仕組みが欠如している証拠だとした。
実際、食品薬物管理署(食薬署)は「食品の疑いがある」小包のみ抽出検査を行っているが、税関システムとは連携していない。つまり、税関の通関手続きと防疫検査が完全に別系統となっており、情報共有がなされていない。税関は申告内容に基づいて貨物を通関させ、食薬署は事後に抽出検査を実施するが、両者の間には共通のデータベースが存在しない。農業部防検局は防疫の主管機関であるにもかかわらず、「検査権限がない」として介入できないのが現状だ。
民進党立法委員の林淑芬氏は、もともと国民の利便性を目的として導入された「小型荷物免検査」制度が、防疫の盲点になっていると明らかにした。(資料写真/顔麟宇撮影)
荷物検査で責任の押し付け合い 旅客手荷物検査も「人員不足」で形骸化 台湾の水際防疫体制の脆弱性は、2025年8月以降さらに拡大した。 民進党の呉思瑤(ウー・スーヤオ)立法委員は、中華郵政が8月から中国系ECサイト「拼多多 (ピンドゥオドゥオ) 」や「淘宝(タオバオ)」の配送業務を請け負っていると明らかにした。台中港では毎月約50コンテナ・6万件以上、高雄港では60コンテナ・9万件以上が輸入されている。郵便局員によると、荷物の中には中国産ソーセージやスパイシースナック(辣条)など、アフリカ豚熱拡散のリスクが高い食品も混在しており、「荷物を扱うたびに背筋が凍る」との声も上がっている。
しかし、中華郵政は交通部(日本の国土交通省に相当)管轄の輸送機関であり、検査権限を持たない。食品薬物管理署(食薬署)は「税関が責任を持つべきだ」と主張し、一方で税関は「肉製品の取り扱いは防検局の管轄」と反論。このように政府各機関が責任を押し付け合う結果、コンテナは通常どおり荷下ろしされ、荷物はそのまま配達されるという状態が続いている。
呉思瑤氏は「これは食の安全保障の崩壊であり、産業安全保障の崩壊であり、さらに国家安全保障の崩壊だ!」と強く批判。その上で『税関取締条例』および『動物伝染病防治法』の改正を求め、越境ECからの肉製品輸送を全面禁止すること、そして省庁間で情報照合を行う標準作業手順を確立するよう訴えた。
水際防疫の欠陥は小包だけではない。旅客の手荷物検査もすでに名ばかりのものとなっている。2019年、当時の行政院長・蘇貞昌(スー・ツェンチャン)氏は就任初日に桃園国際空港を視察し、「高リスク地域からの旅客は100%検査」と指示した。しかし、実際の運用は人員不足により制約を受けており、防検局が検査できるのは旅客全体の約20%にすぎない。検疫犬の巡回も実施されているが、すべての手荷物を逐一検査することは不可能だ。
蘇氏が当時掲げた「肉製品の持ち込み禁止」「違反すれば罰金」「罰金未納者は入国不可」という強い姿勢は当時高く評価されたものの、7年後の現在ではその多くが形骸化し、実効性を失っている。
人手不足のうえ、検疫犬でもすべての荷物を確認することはできず、旅行者の手荷物が国境防疫の大きな弱点となっている。(資料写真/農業委員会提供)
「常設チーム」は機能せず アフリカ豚熱が政府制度の弱点を露呈 実際のところ、当初は行政トップの強い意志によって維持されていたアフリカ豚熱防疫体制は、年月を経ても制度化された恒久的システムには転換されていない。 民進党のベテラン幕僚によると、関係省庁横断で設置された「アフリカ豚熱防止タスクフォース」は、名目上は常設組織となっているものの、実際には定例会議と書面でのやり取りにとどまり、農業部、衛生福利部(衛福部)、環境部、財政部の間でリアルタイムのデータ共有プラットフォームは存在しない。
地方の検査報告も月次で集計・報告されるにすぎず、中央政府が即座に異常を把握することは困難だ。さらに、国境小包、越境EC貨物、養豚場検査はそれぞれ異なる指揮系統に属しており、各組織が「情報の孤島化」に陥っていることが明白になった。
今回のアフリカ豚熱発生は、単なる養豚場の管理不備ではない。それはまるで「照妖鏡(真実を照らし出す鏡)」のように、中央防疫の標準作業手順の老朽化や非合理性、国境監督の不全、地方政府の執行力不足といった制度的欠陥を浮かび上がらせた。
7年前、防疫成功の光に包まれていた台湾の体制は、その裏にあった制度的な空洞化や国境管理の綻びを覆い隠していた。現在、終息の兆しが見えないアフリカ豚熱感染拡大を前に、中央と地方政府はこれまでにない試練に直面している。再び一時的な動員による「火消し」に頼るのか、それとも問題の根本に向き合い、長期的に機能する制度化された防疫体制を再構築するのか。台湾の危機管理の真価が問われている。