ニュージャージー州「ポスト・トランプ」初の中間テスト　民主党のシェリル氏が接戦を制し、64年の“三連覇ジンクス”を破る

11月4日、トランプ政権第2期で初の大型選挙が実施され、民主党がニュージャージー州知事選で重要な勝利を収めた。米メディアの出口調査によれば、民主党候補で連邦下院議員のミキ・シェリル氏が、共和党の挑戦者で元州議のジャック・チッタレリ氏を破り、「ガーデン・ステート（ニュージャージー州の別名）」の次期知事に選出された。

政治専門メディア『ザ・ヒル』は、この勝利が民主党にとって単なる戦術面にとどまらず、戦略的意義を持つと指摘する。シェリル氏は、1961年以降同一政党が3期連続で知事職を維持できないとされた“三連覇の呪い”を打ち破り、トランプ氏のホワイトハウス復帰後という新たな全国政治環境で、民主党に大きな弾みを与えた。現職のフィル・マーフィー知事（民主）は任期制限で不出馬だったが、シェリル氏の勝利で知事職は民主党の手に残ることになった。

今回の州知事選は、2024年大統領選の延長戦とも位置づけられ、トランプ政権第2期に対する“初の中間テスト”と受け止められた。共和党は、知事職と州議会の双方を握る民主党による“州政全面支配”への信任投票として争点化を図った。一方、民主党は選挙をトランプ氏とその政策への評価投票と定義。結果として、“濃い青”（民主党が強固に優位な州）のニュージャージーで、トランプ氏の影響が依然として共和党の重荷である現実が浮き彫りになった。

海軍出身の女性パイロット、そして三度目の挑戦者

次期知事となるミキ・シェリル氏（53）は知名度の高い政治家だ。米海軍兵学校を卒業し、米海軍の女性戦闘ヘリパイロットの草分けの一人として「シーキング」ヘリを操縦、中東と欧州で10年にわたり任務に就いた。退役後は法学博士号を取得し、連邦検察官として汚職や犯罪の追及に携わる。2018年の“反トランプ”の追い風に乗って、伝統的な共和党地盤だった第11選挙区を奪取して下院議員に初当選し、その後4期連続で議席を維持。清新なイメージと経歴から、民主党の次世代スターと目されてきた。

対するジャック・チッタレリ氏（63）は、公認会計士（CPA）で起業家。2011～2018年に州議を務め、財務の専門性と穏健な保守路線で知られる。州知事選は今回が三度目の挑戦で、2021年にはマーフィー氏に僅差で惜敗した実績もある。生活コスト高への有権者の不満や、民主党の長期政権に対する“振り子効果”を追い風に、失われた8年の知事職を共和党に取り戻す戦略を描いていた。 （関連記事： ニューヨークで政治の地殻変動　トランプ氏が「共産党」と呼ぶ勢力が勝利　34歳の民主社会主義者が当選し、同市初のムスリム市長が誕生 ｜ 関連記事をもっと読む ）

トランプの「祝福」か「呪い」か？

ニュージャージー州知事選は終盤まで極めて拮抗し、複数の世論調査で両候補の支持が並走。緊張感が高まるなか、各陣営はそれぞれの逆風への対応を迫られた。民主党にとって最大の課題は「政権疲れ」だ。知事職と州議会を握る同州では、住宅価格や税負担、生活費の上昇に象徴される「アフォーダビリティ危機」が続き、共和党は生活の逼迫を突いて「交代による変化」を訴えかけた。

さらに、同州では1961年以降、いずれの政党も2期以上連続で知事職を維持できていない“64年の壁”がシェリル氏の戦いに影を落とした。他方、共和党側にとって一層厄介だったのは、元大統領で現職のドナルド・トランプ氏の存在である。2021年のチッタレリ氏の僅差敗北や、2024年大統領選でカマラ・ハリス氏がトランプ氏に6ポイント差で勝利するなど一定の戦果はあったものの、トランプ氏本人は州内の大都市圏や郊外で依然として不人気が根強い。

エマーソン大学とPIX11、『ザ・ヒル』の共同調査では、トランプ氏の州内不支持は51％。チッタレリ陣営はトランプ支持層の熱量を欠かせない一方、温和派・無党派を逃さぬために本人と距離を取る必要もあり、この二律背反が選挙イメージの明確化を難しくした。

政策論争から個人攻撃へ　終盤の焦点逸脱と泥仕合

争いが激化するにつれ、論点は政策から個人攻撃へと傾斜した。共和党は先手を打ち、シェリル氏の海軍経歴を標的化。1994年の海軍士官学校卒業式に同氏が出席しなかった事実を取り上げ、名誉や誠実性に疑義を呈し、服役期間の記録公開を迫った。

これに対しシェリル氏は、当時全米を騒がせた「海軍士官学校の集団不正行為事件」をめぐり、関与者名簿の提出要請に応じなかったことが欠席の理由だと説明。抗議の意思と軍人としての名誉を守る判断だったと語った。

ニュース豆知識：1994年の米海軍士官学校不正事件

1992年末、米海軍士官学校で電子工学の試験をめぐる集団不正が発覚し、少なくとも134人の学生が関与したとされた。学校は大規模な調査を実施し、その結果、24人が退学処分、数十人がその他の懲戒処分となった。スキャンダルは同校の評価を損ない、名誉制度や教育手法の在り方に厳しい検証を促す契機となった。シェリル氏は当時の卒業予定者で、本人の説明によれば、告発者となることを望まず、抗議の意思を示すため卒業式への出席を見送ったという。

一方で攻撃は跳ね返った。シェリル陣営は、チッタレリ氏の側近が不適切な手段で同氏の軍歴記録を“未編集”のまま入手し、本人や家族の個人情報が多数含まれていたと公表。大きな波紋を呼び、シェリル氏は「悪意あるプライバシー侵害で政治的中傷だ」と非難した。チッタレリ氏は関与を全面否定し、国立公文書館が責任を認めたが、同氏のイメージへの打撃は避けられなかった。

同時に、シェリル氏は反撃として、チッタレリ氏と同氏がかつて経営した医学系出版社が「オピオイド危機」を助長したと指摘。製薬会社のマーケティングを後押しし、依存リスクを軽視する内容を発信したと糾弾した。チッタレリ氏は「悪意ある虚偽」として強く反論している。

開票が進むなか、注目のバージニア州知事選でも民主党に朗報が届いた。アビゲイル・スパンバーガー氏がウィンソム・アール＝シアーズ氏を破り、同州は“赤から青”へ（任期満了のグレン・ヤンキン氏は共和党）。ニュージャージーとバージニアの結果は民主党に大きな後押しとなり、シェリル氏の勝利は個人の節目を超えて、「ポスト・トランプ期」における全国選挙の初期テストとなった。歴史的な“64年の壁”を打破し、逆風下の民主党にとって重要な橋頭堡を守り切った格好だ。

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​編集：田中佳奈

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