ニューヨークで政治の地殻変動 トランプ氏が「共産党」と呼ぶ勢力が勝利 34歳の民主社会主義者が当選し、同市初のムスリム市長が誕生

2025-11-05 15:19
マムダニ氏とクオモ氏の市長選キャンペーン広告。(AP通信)
マムダニ氏とクオモ氏の市長選キャンペーン広告。(AP通信)
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数十年ぶりの注目度となった選挙日を経て、ニューヨーク市の政治地図が大きく様変わりした。11月4日21時の投票締め切り後の出口調査では、34歳の州議で民主社会主義者のゾーハン・マムダニ氏が激戦の市長選を制し、新市長に選出された。マムダニ氏は同市で約1世紀ぶりの若さでの当選者であり、史上初のムスリム、かつ南アジア系の市長となる。

今回の市長選の投票者数は200万人を突破し、1969年以来の最高記録を更新した。異例の投票率は、新たな進歩主義の時代の到来を告げるとともに、ワシントンのトランプ政権との価値観・権力の対立が避けられないことを示唆する。

汚職で始まり、分断で終わった長期戦

このスリリングな権力争いは1年前に火ぶたが切られていた。現職のエリック・アダムズ氏は当初、再選に向け優位とみられていたが、連邦当局による汚職摘発で窮地に。のちに司法省は告発を取り下げたものの、政治的ダメージは深刻で、同氏は9月に選挙戦から撤退し、無所属のアンドリュー・クオモ氏支持に回った。

アダムズ氏の離脱で生じた空白の中、6月の民主党予備選では、当初ノーマークだったマムダニ氏が台頭し、最有力とみられたクオモ氏を退けた。クオモ氏は敗北後も無所属候補として出馬を続け、豊富な資金力と知名度をテコに、構図は三つ巴へと発展した。

2025年10月26日、サンダースとアレクサンドリア・オカシオ・コルテスがニューヨーク市市長候補者マムダニを支援する。(AP通信)
2025年10月26日、サンダース氏とアレクサンドリア・オカシオ・コルテス氏がマムダニ氏を応援。(AP通信)

終盤数週間は制御不能の様相を呈し、過去20年で最も激しい中傷合戦に。政策論争は後景に退き、「反ユダヤ主義」や「イスラム恐怖症」をめぐる非難が飛び交い、トランプ大統領による介入の懸念も取り沙汰された。

進歩派の新星 vs 体制派の重鎮

マムダニ氏とクオモ氏はいずれも民主党系だが、市政ビジョンは鋭く対立した。マムダニ氏はインド系の南アジアにルーツを持ち、ウガンダ移民の家系。党内左派を代表し、富裕層課税による市内バス・保育の無償化、家賃上昇の凍結、市営の廉価食料品店創設など、社会主義色の濃い政策を掲げた。同氏はクオモ氏を「汚職疑惑にまみれた古い政治の体現者」と批判し、若年層と進歩派の熱量を一気に結集させ、全国的な象徴となった。

2025年11月4日、ニューヨーク市市長選投票。(AP通信)
2025年11月4日、ニューヨーク市長選の投票風景。(AP通信)

一方、67歳の元州知事アンドリュー・クオモ氏は「クオモ一族」の後継者として知られる。自らを現実主義の穏健派、親ビジネスかつ治安重視のリーダーと位置づけ、マムダニ氏を「市政運営の準備が整っていない理想主義者」と繰り返し批判。混迷の時代に大都市を安定させられるのは経験豊富な政治家だと訴えた。

今回の対決は、民主党内の路線対立を象徴する構図となった。構造改革を求める草の根左派を体現するマムダニ氏に対し、安定と漸進的改革を掲げる体制派のクオモ氏、そして上院多数党院内総務チャック・シューマー氏らが対峙する形である。

2025年11月3日、ニューヨーク市長候補者マムダニがクイーンズ区で演説。(AP通信)
2025年11月3日、クイーンズ区で演説するマムダニ氏。(AP通信)

「グローバル化する蜂起」とセクハラ疑惑 双方が背負った重荷

今回の選挙で、主要2候補はいずれも重い課題を抱えていた。マムダニ氏はイスラエル・パレスチナ情勢をめぐる明確な立場が最大の攻撃材料となった。「globalize the intifada(蜂起をグローバル化する)」というスローガンを否定せず批判を招き、親イスラエル派はユダヤ人やシオニズムへの暴力を扇動すると非難。親パレスチナ派は解放運動の比喩だと擁護した。のちに同氏はこの表現を用いないと誓い、他者にも使用自制を求めたが、クオモ陣営は過激だとして攻勢を強めた。

さらに、同氏はガザでのイスラエルの行為を「ジェノサイド」と批判し、当選後は国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状が有効な限り、ニューヨークに来訪したベンヤミン・ネタニヤフ首相を逮捕すべきだと主張。過去のNYPD批判や「defund the police」を唱えた場面も掘り起こされ、FOXニュースのインタビューで警察に公的に謝罪する事態となった。これらの論争により、党内でも賛否が割れ、民主党の大物の多くが支持表明を見送った。

ニューヨーク市市長候補者マムダニ支持者のリュックサック上のラブブ。(AP通信)
マムダニ氏支持者のリュックに貼られたステッカー。(AP通信)
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