李忠謙コラム:トランプ時代の思索 政治哲学者サンデル氏が語るMAGA台頭と米中対立

ハーバード大学の政治哲学教授マイケル・サンデル氏(Michael J. Sandel)。(Fronteiras do Pensamento@Wikipedia / CC BY-SA 2.0)
ハーバード大学の政治哲学教授マイケル・サンデル氏(Michael J. Sandel)。(Fronteiras do Pensamento@Wikipedia / CC BY-SA 2.0)
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ハーバード大学の公開講座「Justice(正義)」や『お金で買えないもの』で知られる政治哲学者マイケル・サンデル氏(Michael J. Sandel)は、近年も公共の課題に哲学の光を当て続けている。昨年は『21世紀の資本』の著者トマ・ピケティ氏(Thomas Piketty)と平等をめぐって対談し、『Equality: What It Means and Why It Matters』を刊行(中文題は『未来の戦闘:ピケティとサンデルによる平等と正義の対談、今日の独特で厳しい不平等を暴露』)。トランプ氏がホワイトハウスに復帰して以降、世界的なポピュリズムのうねりと政治の二極化という普遍的現象に、いっそう焦点を合わせている。

昨年12月、『ダイヤモンド』のインタビューで「2025年に公開講座を開くならテーマは?」と問われ、サンデル氏は「なぜ民主党は米大統領選で敗れたのか」を挙げた。裏返せば、なぜトランプ氏がカマラ・ハリス氏(Kamala Harris)を破って再び大統領になり得たのか、という問いでもある。サンデル氏は、ハリス氏が「トランプ氏の存在は民主主義の危機だ」と訴えても共感が広がらなかった理由として、「大学教育を受けていない男性の55%がトランプ氏を支持し、エリートに軽視されていると感じている現実」を指摘。トランプ氏はその不満を的確につかみ、選挙戦に活用したという。

香港の『南華早報(SCMP)』は最近、MAGA(Make America Great Again)運動、政治的極化、民主主義の危機、米中競争をめぐってサンデル氏に再び取材。トランプ時代における同氏の「思索の旅」に迫った。併せて、米国の高等教育が抱える機能不全や、米中双方に根を張るメリトクラシー(能力主義)の下での競争と不安についても見解を示している。

トランプの錬金術:「屈辱の政治」の台頭

「なぜトランプ氏とMAGAが急速に伸長し、自由民主主義が深刻な危機に陥っているのか」。サンデル氏は、右派ポピュリズムの台頭という世界的潮流と地続きに捉える。市民は長年、深い無力感に苛まれ、自分の声が軽んじられ、社会の道徳的基盤が侵食されていると感じてきた――というのが出発点だ。さらに根本には、グローバル化がもたらした「勝者」と「敗者」の溝の拡大がある。「これは所得や資産格差だけではない。不平等の拡大と歩調を合わせて、『成功』の意味合いそのものが変わった」と同氏はみる。

グローバル化の宴で頂点に立つ者は、成功を自らの努力の当然の帰結とみなし、市場からの報酬は正当だと考える。その背後には、取り残された人びとへの“自己責任”の視線がある。サンデル氏は著書『The Tyranny of Merit(成功の反思)』で、これを「エリートの傲慢」と名指しした。「この傲慢が、恩恵にあずかれなかった人びとの怒りや怨嗟、屈辱感を生んだ。多くの労働者階級、特に大卒資格を持たない人は、エリートに見下されていると深く感じている。トランプ氏はその感情に声を与え、『屈辱の政治(politics of humiliation)』を実践した。これこそが彼の政治的吸引力の核心だ」と分析する。

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