国立大学病院の経営が過去最悪の水準に悪化し、先端医療・教育・研究体制の維持が危ぶまれている。2025年10月27日に日本記者クラブで開かれた会見には、国立大学病院長会議の大鳥精司会長(千葉大学医学部附属病院長)をはじめ、髙折晃史・京都大学病院長、椎名浩昭・島根大学病院長、塩﨑英司・同会議理事・事務局長の4人が登壇。現状を「法人化直後の10倍の危機」と表し、大学病院の役割と経営実態を示したうえで、国・自治体に対し強力な支援を求めた。
大鳥氏は冒頭、大学病院は一般病院と異なり「診療に加え、医学教育・研究、人材育成、地域医療への医師派遣を担う社会的中核」であると強調。特定機能病院の約9割を大学病院が占め、小児・産科・精神科といった収益性の低い領域や、複雑・希少疾患に対する高度医療を提供していると説明した。全国の病床数では少数ながら、常勤医師の約21%、看護師の12%を抱え、毎年延べ40万人超の研修医・学生を教育しているとして、「三位一体の機能が崩れれば、日本の医療全体に波及する」と危機感を示した。
赤字の深刻さは数字に表れる。2024年度は42病院のうち約7割が経常赤字に陥り、合計286億円と過去最悪を記録。2025年度は400億円超に拡大する見通しで、「自己努力だけでは限界に達しており、大学病院機能の維持は難しい」と断じた。
髙折氏は、高度医療の現場として移植医療、ロボット手術、CAR-T療法などを挙げ、「大学病院は採算を度外視しても実施すべき使命がある」と指摘。肺移植では8人以上の医師が24時間体制で臨むが保険点数が十分反映されず、「整形外科の手術3件分にも満たない収益にとどまる」と訴えた。1回あたり薬価が3,000万円に上るCAR-T療法でも病院収入は約30万円とし、「先端医療ほど赤字体質が強まる」と不均衡を明らかにした。
椎名氏は地方の視点から「給与水準の格差が若手医師の流出を招いている」と述べた。教授でも国立病院機構との差は約600万円に及び、講師以下では年収がさらに見劣りするため兼業に頼らざるを得ないという。働き方改革で労働時間規制が進むなか、「アルバイト収入に依存する構造では人材確保は難しく、地域偏在も強まる」と危機を訴えた。人口流出が続く島根県などでは小児医療や形成外科の維持が課題で、「大学病院からの医師派遣が止まれば地域医療は成り立たない」とも述べた。
塩﨑氏は、法人化後の収支推移を示しつつ「収益は倍増、在院日数は22日から11.7日へ短縮するなど効率化に取り組んできた」と強調。一方で医薬品・材料費が収益の約43%と、一般医療機関のほぼ2倍に達すること、1剤10万円以上の高額薬剤の比率が年々増えていることを挙げ、「高度・重症患者の集中が構造的な赤字を招いている」と説明した。
加えて、老朽化した建物・機器の更新は後回しとなり、「12年前の水準に戻すだけで総額4,115億円が必要」と試算。「毎年1,000億円規模の投資が欠かせず、人件費是正まで含めると年間1,550億円超の支援が要る」と訴えた。
質疑では「統合・再編での経営改善」や「医師偏在の是正策」が問われ、大鳥氏は「合併による機能分担は選択肢だが、県立病院も同様に赤字で苦境にある。支援なき統合は現実的でない」と回答。偏在是正については「待遇改善なしに若手医師の診療科選択の偏りは是正できない」との認識を示した。
最後に大鳥氏は、「創薬の推進や地域医療の維持など、国の医療戦略の中核を担う立場だからこそ、大学病院の崩壊は国家的損失につながる」として、診療報酬の見直しや補助金による持続的な支援を重ねて要請した。
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