台湾はすでに高齢化社会へと突入しつつあり、骨粗鬆症が静かなる健康リスクとして浮上している。衛生福利部国民健康署の調査によれば、50歳以上の国内有病率は男性で23.9%、女性は38.3%に達する。さらに、骨粗鬆症による大腿骨近位部(股関節)骨折の発生率はアジアで最も高く、患者の1年以内死亡率は3割にも及ぶという。ただし、この病は自覚症状に乏しく、骨折や円背などが発生するまで本人がリスクを把握できないケースが多い。
「見つけなければ始まらない」 AIによる骨粗鬆症予測の革新
「患者を見つけ出さねば、何も始まらない」。台中栄民総医院整形外科部長・陳昆輝氏は強い口調で警鐘を鳴らす。台湾には骨密度低下リスクを抱える人々が多数存在し、早期発見がなければ治療・予防の一歩すら踏めないという危機感だ。そんな中、宏碁智医と台中栄民総医院が共同開発したAI医療機器「智骨篩(VeriOsteo OP)」は、骨粗鬆症の予防と治療に新たな局面を切り開つつある。

国際的に骨粗鬆症スクリーニングのゴールドスタンダードとされるのは、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)である。だが、国内に設置された装置は約200台にとどまり、その多くが大規模病院に集中しているため、資源配分は偏在している。受診者は長い待ち時間を強いられ、交通の不便さから検査自体を断念する例も少なくない。別の選択肢である定量的超音波法(QUS)は、経済性と利便性に優れる一方で、精度が不十分であり、操作者や環境の影響を受けやすく、確定診断の根拠とするには限界がある。
この断層を補うのが「智骨篩」である。同機は深層学習技術を用い、患者の既存の胸部X線画像を直接解析することで、追加検査や放射線被ばくを伴わずに骨密度を推定し、高リスク症例を迅速に抽出できる。「機会利用型スクリーニング(opportunistic screening)」の発想に基づき、実装可能性と普及性を大きく高めるものである。
陳昆輝整形外科部長:精密に患者を特定、効果的な治療を実現
臨床医にとって「智骨篩」の最大の価値は、「本当に支援を必要とする人を正確に見つけ出すこと」にある。台中栄民総医院の陳昆輝部長は、「台湾人の骨密度は東南アジア地域の中でもリスクが高い水準にある。『智骨篩』は医師が骨粗鬆症の患者を迅速かつ正確に特定し、高齢者や更年期女性といった層に応じた治療を行うことを可能にする。診断時間を短縮できるだけでなく、骨折後にようやく介入治療を受けるといった事態も防げる」と語る。
従来は、転倒や腰痛、円背、さらには人工関節置換や脊椎手術が必要となって初めて問題の深刻さに気づく患者が多かった。「智骨篩」は、こうした潜在的な症例を早期に発見することで、悲劇を未然に防ぐことを目指している。 (関連記事: アニコム、文京区に『JARVISどうぶつ医療センターTokyo』開院 ロボット手術とAIで獣医療の未来を変革 | 関連記事をもっと読む )
連加恩董事長:一工程の差で、一人の命を救う
宏碁智医の連加恩董事長は、「智骨篩」の社会的意義を強調する。「胸部X線写真はほとんどの人が撮影している。そこにわずか一つの工程を加えるだけで、骨密度データを得られ、患者の利益につながる。多くの人が骨粗鬆症を自覚していないが、このシステムがあれば、より多くの患者を発見し、より多くの命を救うことができる」と語った。