レアアース戦争》中国の締め付けで米株急落 米中貿易衝突は本格エスカレートするのか 背景と帰結を一望

2025-10-15 14:55
中国がレアアース輸出管理を強化。これを受け米国株が下落し、米中の「レアアース戦」本格化の様相。写真はレアアース酸化物。黒から時計回りに、プロメチウム、セリウム、ランタン、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム。(写真/AP)
中国がレアアース輸出管理を強化。これを受け米国株が下落し、米中の「レアアース戦」本格化の様相。写真はレアアース酸化物。黒から時計回りに、プロメチウム、セリウム、ランタン、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム。(写真/AP)
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中国商務部が10月9日、レアアースの輸出規制を拡大。翌10日には米国株式市場が大きく下落した。レアアースは高い導電性と磁性を持つ現代産業の必須材料で、中国は世界の加工工程の約9割を握る。今回の規制は、欧米のEV、半導体、軍需分野に不確実性をもたらし、相場を揺さぶった。レアアースの締め付けは、米中の通商対立が一段と劇的にエスカレートする兆しとも受け取られている。

レアアースとは何か

レアアースは、ランタン系15元素にスカンジウム、イットリウムを加えた計17元素の総称。きわめて高い導電・磁性特性を持ち、あらゆる電子機器に不可欠だ。たとえばF-35戦闘機1機には約417キロ、ヒューマノイドロボットでも平均4キロのレアアースが使われる。

インド航空展示会でのF-35戦闘機。(AP)
F-35戦闘機の製造には約400キログラムのレアアースが用いられる。(AP)

「レア」と呼ばれるのは埋蔵量が少ないからではなく、地表分布が散在し、鉱床では17元素が混在しやすく、外殻電子構造が似通っているため通常の化学手法では分離が難しいから。鉱石から高純度のレアアース酸化物を取り出すには高度な分離・精製技術が要る。この工程を長年リードしてきたのが中国である。

中国はどこが強いのか

中国はレアアースの加工・分離で先行し、いわゆる「段階抽出(溶媒抽出)」などの技術を磨き、酸化物の純度を99.9%超まで高められるとされる。半導体、航空宇宙、精密エレクトロニクスの厳しい要求にも応えうる水準だ。

対照的に、米国や日本の従来プロセスは純度が約99%にとどまり、先端用途では不利と指摘されることが多い。さらに、中国の抽出技術は17元素を一括で分離可能だが、米国は一度に1元素しか扱えない――という見方もある。
生産規模でも差は大きい。中国が「トン」単位で量産するのに対し、米国は「キログラム」単位の生産が中心とされる。この規模の違いが価格競争力を生み、中国のレアアース加工は世界シェアの約90%を占める。米国内で採掘された鉱石でさえ、中国に持ち込まれて加工される例が少なくない。
1992年、鄧小平氏は「中東に石油、中国にレアアース」と語った。中国が早くからレアアースを戦略資源と位置づけてきたことを象徴する言葉だ。今回、そのカードを切ったのは偶然ではない。

中国の希土類。(新華網)
中国はレアアースの精錬・分離技術を掌握し、市場シェアでも圧倒的優位にある。(新華網)

中国商務部のレアアース規制の中身は?

中国本土は今年4月から、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの中・重レアアース7元素と、それに関連する永久磁石材料を規制対象にしてきた。これに続き10月9日には、ユウロピウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムの5元素の金属・合金と関連製品も新たに追加。14nm以下のロジック、256層以上のメモリ、その製造・試験装置、さらには潜在的軍事用途を持つAIの研究開発で用いるレアアースの対外提供には、中国商務部の厳格な承認が必要になった。

今回はレアアース製品そのものだけでなく、精錬・分離から加工に至る「一式の技術・設備」まで管理対象を拡大。世界で独自に用いる抽出剤まで押さえ込み、米国のEV、先端半導体、防衛の需要に直接ブレーキをかけうる。実際、テスラの駆動モーター、NVIDIAの半導体、F-35の製造工程にはレアアースが不可欠だ。

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