米中両国の首脳会談を前に、再び貿易戦争の火花が散っている。市場が固唾をのんで両国の動きを見守る中、ワシントンと北京の間で対立の太鼓が鳴り響き、まるで予測不能な「イカゲーム」のような緊迫感が世界を包んでいる。米国のドナルド・トランプ大統領は14日、「中国が米国産大豆を拒否した経済的敵対行為への報復として、中国産食用油の輸入停止を検討している」と発言し、再び市場を揺るがせた。
この発言を受け、善意のシグナルで一時的に安堵していたウォール街は一転して急落。S&P500種株価指数は反落し、投資家の不安が再燃した。だが、この「舞台」の主役はトランプ氏だけではない。財務長官のスコット・ベッセント(Scott Bessent)氏も英紙『フィナンシャル・タイムズ』のインタビューで、中国がレアアースなど重要鉱物の輸出を制限しているのは「自国経済の弱体化による絶望的な行動だ」と痛烈に批判し、「北京は世界経済を道連れにしようとしている」と非難した。
家庭の台所からハイテク産業まで 米中対立の影響はあらゆる領域へ
食用油という家庭に身近な商品から、半導体などハイテク産業の核心を担うレアアースまで、米中両国の覇権争いは世界経済の隅々にまで拡大している。トランプ氏と中国の習近平国家主席は、10月末に韓国で開かれるAPEC首脳会議の場で会談する予定だが、その直前に起きたこの対立激化は、新たな貿易協定への圧力テストなのか、それとも全面衝突への最後通告なのか、世界が注視している。
「経済的敵対行為だ」 トランプ氏、SNSで強硬発言
「これは経済的な敵対行為だ」とトランプ氏は14日、自身のSNSにこう投稿し、矛先を中国の大豆輸入停止措置に向けた。「中国は意図的に我々の大豆農家を苦しめている」と非難し、「報復として中国との食用油取引や関連事業の停止を検討している。たとえば、食用油は自国でも簡単に生産できる。中国から買う必要はない」と述べた。
『ブルームバーグ』は、トランプ氏の発言が米中農業貿易の最大の痛点、すなわち「廃食用油(Used Cooking Oil, UCO)」問題を的確に突いたと分析している。近年、中国から流入する低価格のUCOが米国市場を席巻し、主にバイオディーゼル燃料の原料として利用されてきた。米国農務省のデータによると、2024年の中国産UCO輸入量は過去最高を記録。これにより、米国産大豆油の市場シェアが奪われたとして、米国大豆農家の間で強い反発が広がっている。
トランプ氏が今回、食用油と大豆という二つの農産品を「報復措置」として結びつけたことは、農業州への強力なメッセージとみられる。米中西部の農業地帯はトランプ氏の重要な支持基盤であり、中国の大豆輸入停止で価格下落に苦しむ農家が多い。彼らは「短期的な補助金よりも、安定した貿易協定が必要だ」と訴えている。
市場は再び動揺 「報復カード」の行方に注目
トランプ氏の発言は、金融市場に即座に波紋を広げた。S&P500指数は上昇から一転して下落、投資家の間で「貿易戦争再燃」への懸念が強まった。しかしその一方で、世界最大の油糧種子加工企業バンジ(Bunge Global SA)や競合のアーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(Archer-Daniels-Midland Co.)の株価は逆に上昇し、前日の下げを取り戻した。市場では、「米国が中国産食用油を制限すれば、国内の加工業者に追い風になる」との見方が強まっている。
米財務長官、中国の「レーニン主義的ビジネスモデル」を批判
トランプ大統領が中国への報復として「食用油カード」を切ったのに続き、その側近であるスコット・ベッセント財務長官の発言が、米中対立の火にさらに油を注いだ。
トランプ氏がSNSで投稿を行う前日、ベッセント氏は英紙《フィナンシャル・タイムズ(FT)》の単独インタビューで、中国が発表した稀土および主要鉱物の輸出規制に対し、厳しい言葉で非難した。
ベッセント氏はインタビューでこう語った。「今回の措置は、中国経済がいかに脆弱であるかを如実に示している。彼らは他の国々を道連れにしようとしている。」さらに続けて、「まるで『顧客を傷つけるのが得策だと考えるレーニン主義的ビジネスモデル』のようだ。しかし中国は世界最大の供給国でもある。もし世界経済を遅らせようとすれば、最も深刻な打撃を受けるのは結局、自分たちだ。」と、痛烈な批判を展開した。
同氏はさらに分析を加え、「彼らは景気後退、もしくは不況の渦中にあり、輸出を通じてその苦境を脱しようとしている。だが、その試みこそが国際社会での立場をさらに悪化させている」と指摘した。
こうした「言葉の応酬」の発端となったのは、数日前に中国が突如発表した稀土や複数の戦略鉱物に対する広範な輸出制限である。この決定は世界のハイテク産業サプライチェーンを直撃するものとみられ、即座にトランプ政権は11月1日からすべての中国輸入品に追加で100%の懲罰関税を課す方針を示唆した。この発表を受け、14日の米国市場は敏感に反応。S&P500は下落に転じ、国際原油価格も同時に下落。ブレント原油は一時、1バレル=62ドルを割り込む展開となった。
「地獄の炎」発言の真相 交渉の裏で高まる緊張
この高官によれば、「李氏は8月の会談で、今回中国が取った措置の多くをあらかじめ示唆していた。その際、非常に感情的で攻撃的な態度を見せ、『もし我々の条件を受け入れなければ、アメリカは地獄の炎(Hellfire)を見ることになる』と脅迫した」という。
李氏は当時、稀土について直接的には触れなかったものの、「中国の報復はすべての予想を超えるだろう」と語っていたとされる。米政府関係者らは、今回の輸出規制が突発的な反応ではなく、長期的に計画されていた政策であると分析。
「わずか2週間でこれほど複雑な計画を立案できるはずがない。驚くべきは、彼らがこれほど非対称的な手段を取ることを選んだ点だ。我々は常に『対等な交渉』を求めてきたが、中国側にはその意識がない」と、別の米高官も語った。
米政府は中国の強硬姿勢に備え、すでに複数の報復オプションを準備しているという。関係筋によると、その中で最も強力とされるのが、「米国企業が中国へソフトウェアを輸出する際にすべて政府許可を義務付ける」という案だ。この措置が実施されれば、米国の技術に依存する中国のハイテク産業に壊滅的な打撃を与える可能性がある。
さらに米国は、この問題を今週ワシントンで開催されるG7財務相会議の最重要議題として提起する方針。米中対立の緊張は、二国間の貿易を超え、世界経済全体を巻き込む新たな局面へと進んでいる。
「宮廷ドラマ」の気配? 米政府が読み解く北京内部の分裂 稀土規制をめぐる権力抗争の可能性
米中間の緊張が高まる中、スコット・ベッセント米財務長官は、中国の稀土輸出規制の裏に「北京内部の権力闘争」が存在する可能性を示唆した。まるで「宮廷ドラマ」のような権力のせめぎ合いが、外交・経済の現場にも影を落としているという。
ベッセント氏は、習近平国家主席が稀土輸出制限の発表を事前に知らなかった可能性があるとの見方を示した。さらに、米政府の高官も英紙『フィナンシャル・タイムズ』に対し、「中国政府内部では財政部と商務部の間で路線対立があるとみている」と語った。
「彼らの財政部と商務部の間には内部的な力学が存在しており、商務部、特に交渉代表の李成剛氏はより挑発的な姿勢を見せている。強硬派は商務部と国家安全部に集中しており、国家安全部は近年、経済政策において過去よりもはるかに大きな影響力を持つようになった」と同高官は補足した。
もしこの分析が事実であれば、ワシントンの交渉相手は単一の「北京」ではなく、複数の内部勢力ということになる。その内部の「タカ派とハト派の綱引き」が、米中交渉のテンポや方向性に直接的な影響を与えており、すでに複雑な外交戦にさらなる不確定要素を加えている。
その後、週末に「実質的な協議」が行われ、13日にはワシントンで両国の高官が会談を実施。当初、中国側はベッセント財務長官と何立峰副首相の会談をAPEC首脳会議後に行う意向だったが、今では「トランプ氏と習近平氏の会談前に両財務首脳の会談を実現したい」と、明らかにトーンを変えているという。
一方で、トランプ大統領自身も動きを止めていない。12日、SNS「トゥルース・ソーシャル(Truth Social)」に投稿し、「習近平氏はいま『悪い時期(bad moment)』を迎えている。米国は中国を助ける用意がある」と書き込んだ。一部の専門家はこれを「トランプ氏の姿勢軟化」と分析したが、事情通は「これは習氏への皮肉、つまり『トローリング(荒らし)』だ」と指摘している。
同日、トランプ氏と米通商代表ジェイミソン・グリア氏は、報道陣に対して比較的前向きなコメントを発表していた。グリア氏は13日に両国高官が協議を行ったことを認め、「トランプ氏と習近平氏の首脳会談は、月末に予定どおり行われる見込み」と明言。トランプ氏も記者団に対し、「我々は中国と公平な関係を築いている。うまくいくと思う。もしうまくいかなくても、それはそれで構わない」と語った。
このように、威嚇と融和、皮肉と友好が交錯する複雑なシグナルは、世界中の外交関係者を混乱させている。しかし専門家の多くは、これこそがトランプ政権の交渉術の核心だと指摘する。すなわち、最大限の不確実性を演出し、相手を交渉のテーブルに引き戻すと同時に、米国側の交渉カードを最大化する。それが「トランプ流の取引の芸術」なのである。