陸文浩の見解:双十節前夜に「常態化」した共軍の統合戦備警巡

中国軍の台湾海峡周辺での演習は常態化している。(画像/中国SNS「微信」公号より)
中国軍の台湾海峡周辺での演習は常態化している。(画像/中国SNS「微信」公号より)

10月5日から6日、中国軍機の総数は10機から一時的に3機へ急減。7日9時20分以降は、中国軍が台湾周辺の海空域でC型の箝制配置による海空兵力を用い、「聯合戦備警巡(統合戦備警巡)」を電撃的に実施した。これは筆者が3日に寄稿した見立て――昨年の頼清徳総統の言動を踏まえると、中国軍は「国慶」前夜に動く――を裏づける展開である。なお、7日の機艦動向は8日正午前に軍事新聞社と中国時報電子版が報じた一方、国防部公式の「即時軍事動態」への掲載は同日23時ごろにずれ込み、細かな対応を取り落とした印象も残った。

10月8日、中国国務院台湾事務弁公室の陳斌華報道官は、頼総統の米メディアでの発言――「トランプ氏が習近平氏に台湾への軍事侵攻の永久放棄を説得できれば、ノーベル平和賞に値する」「台湾は自国の安全を守る決意があり、民主陣営と連携して地域の平和と安定を維持する。台海の現状を壊しているのは中国であって台湾ではない」――に反発し、「事実を歪曲し、無責任な発言で『中国の脅威』を煽り、『台独』という誤った主張を売り込んでいる」と厳しく非難した。両岸の敵意のスパイラルが再び上向く中、筆者は国慶後に中国軍が再び演習に踏み切る可能性を懸念している。

また、中国の連休8日目には、青島・湛江・清瀾港などの海事局が、9~20日の期間に外洋域で実兵演練・軍事行動・試験活動を行うと相次いで公告。広東や海南方面での動きとみられるが、中国海軍の空母「福建」との関連は薄いと推測される(図参照)。

共軍機艦繞台幾乎不再是「新聞」。(陸文浩提供)
中国軍の艦艇・航空機による台湾周回が相次いでいる。(画像/陸文浩氏提供)

まず国防部は7日14時30分、「中国が聯合戦備警巡を実施」とのリリースを発表。9時20分以降、殲-16、殲轟-7、空警-500など各種の主・補戦闘機および無人機、計23機を連続探知し、このうち17機が中間線およびその延長線を越えて北部・中部・南西空域に進入、共艦と連携して周辺の空海域を攪乱したと説明した。

ここで、昨年(2024年)10月1~14日に生じた政治的応酬と頼清徳総統の発言が中国の「一つの中国」というレッドラインに触れた経緯を振り返っておく。中国軍東部戦区は、10月6日(日)8時50分開始、さらに9日(水)12時50分開始、残余は10日(木)2時52分まで段階的に「聯合戦備警巡」を実施。14日5時02分~18時04分には“速攻・速封・速離”の様式で戦区の陸・海・空・ロケット軍を動員し、台湾周辺で「聯合利剣-2024B」を展開した。この期間、中国軍北部戦区の空母「遼寧」打撃群は13日に海南・三亜を発し、バシー海峡を経て西太平洋へ向かった。

筆者は今(2025)年10月3日(2日締切)に寄稿した「『十一』戦備――共艦増勢は米台の政治動向に反応」で、「双十国慶」前夜に東部戦区が戦備当直・巡航を引き上げ、「聯合戦備警巡」級以上の演習で対台威嚇に出る公算があると予測していた。

他方、最近の『聯合報』は「共機の『繞台』や両岸軍機の接近映像は、台湾メディアの報道焦点から徐々に外れた」と報道。専門家は、関連情報がニュース性を失っている理由として、①台湾社会が他の政治テーマで手いっぱい、②極端なニアミスが減少、を挙げる一方、「台海周辺での活動は“量”が減っても“質”が向上」とも指摘する。とはいえ、前者は過去の専門家の言い分と矛盾し、後者も論点として十分ではないと筆者はみる。

この十数年、台湾メディアは国防部、日本の統合幕僚監部、中国メディアなどから台湾周辺の動向を得てきた。国防部は2020年9月以降、共機のADIZ進入について、機種・回数・航跡図を公表し、台海情勢の「限定的透明化」を進めた。これにより、軍事素養の乏しい層でも、共機が「繞台」か遠洋訓練かを判別しやすくなっている。一方で共艦の公表は一貫して隻数が中心で、対台演習時に我方が監視中の特定艦名が示される程度。かつては民間の軍事系コミュニティが両岸の艦・機の無線を傍受して報道を補完し、筆者の海域判断にも資したが、近年は開示が減った。両軍の摩擦が減ったから――という説明は成り立ちにくい。

昨年1月16~17日の共機動態の様式刷新後、軍事専門家や学者からは「共軍の動向判断に不利」との声が上がった。他方で当局にとっては、過度な憶測と問い合わせを抑え、業務負荷を減らすメリットがあるのだろう。学術側には制約が増え、受動的になり、メディアの風向きに沿った慎重過ぎる解釈が目立つようになった。結果として、従来の「共軍の次の一手」を読むだけでなく、「公式図表の意図」を読み解く作業まで求められている。

筆者個人は、高専時代の関心に端を発し、『全球防衛』『尖端科技』などで独学。就業後は中国軍事書を継続的に購入・読解し、機器・ネットの進化も取り込みながら、多方面のソースを重ねてきた。受け身で与えられる情報は前菜にすぎず、主菜にはならない。興味を日々の糧とし、同調圧力から距離を置いて読書と横断的な情報収集の余白を確保し、静かな思考で本質に迫る姿勢を保っている。

第2点として、蔡英文政権期の重要局面――2022年8月初頭のペロシ米下院議長の訪台以降、台湾海峡の中間線は中国側に実質無効化され、越境は段階的に増えた。昨年にはメディアが公式情報に基づいて越境総数を報じている。率直にいえば、今年の共機活動が多少増減したところで、もはや大勢に影響はない。

共艦の台湾周辺“常態展開”は4隻から6隻へと拡大し、月3~4回の「聯合戦備警巡」も定着した――との見方は一般的だが、筆者の長期観察と、中国軍が2022年8月4日12時~7日12時に台湾周辺の海空域で6つの訓練区を公表した事実を踏まえると、これらは共艦の常態的な運用区域として制度化されたに等しく、2025年10月時点では新味はない。

現在、海警船は引き続き海峡の中間線沿いの巡航が中心だ。もしスピーチライターが、国慶当日の頼総統のあいさつで「両岸互不隷属」など一段と刺激的な表現を盛り込めば、中国軍演習の導火線になり得る。

現時点で実戦的な海空の“走位”が大きく変わった兆しは乏しく、せいぜい無人機や陸航武装ヘリの活用、用語(遠海訓練/遠海長航)の使い分けが目立つ程度だ。仮に従来どおり、機種・活動空域・航線まで精緻に示されていれば、多くの専門家や研究者がより深い分析を提示し、報道も厚みを増すだろう。

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