英誌『エコノミスト』は10月13日付の記事で、「北京は現実と平行する世界に生きている」と指摘する。外から見れば中国はデフレ圧力、不動産低迷、消費疲れといった問題を抱えているが、官営メディアは『人民日報』で8日連続の社説を投じ、「中国経済は健全、制度は優越」と高らかに主張する。中国は「自信」で構造的危機を覆い隠そうとしている。すなわち、不動産バブルの解消不能、内需の弱さ、過剰生産の悪化。習近平政権は税制改正や福祉強化による消費刺激を退け、「世界の安定の錨(アンカー)」を自称するが、実態は自らの幻想を守ろうとしているように見える。
二つの現実 中国側の「自信」と外界の「懸念」
中国経済を巡ってはかねて議論が二分されてきた。一方では「泡沫崩壊は必至」とする悲観派、他方では「持続可能な成功モデル」であると信じる楽観派。現在、その議論はより激化している。世界各国は中国の輸出力や成長実績を評価しつつも、「輸出主導型経済」という構造上の脆弱性に振り回されている。だが北京は、自らのモデルを完全無欠と信じ込み、批判や懸念を「木の枝葉」に過ぎないと一蹴する。
現実には、通貨引き締め圧力、崩壊寸前の不動産市場、内需低迷という三重苦が中国経済を縛る。多くのエコノミストは、中国が余剰生産を世界に売り捌くことで持ちこたえようとしているとみる。北京は、こうした問題を「局部的かつ短期的」のゆらぎと見做し、むしろ「中国経済は技術革新時代へと突入している」と主張する。
この対立は中米貿易摩擦の焦点にもなっている。トランプ政権の内部には、「中国経済は内部崩壊寸前、関税と輸出規制で屈服させられる」との見方が根強い。しかし、北京側は揺るぎない自信の下、両者はまるで二つのパラレル世界に暮らすような対峙状態にある。
「中国経済は“絶好調”」 8本の社説が示す北京の自信
世界が中国経済の減速を懸念する中、北京はむしろ自信を誇示している。9月30日から10月7日にかけて、中国共産党の機関紙『人民日報』は、経済をテーマにした8本の連続社説を掲載し、現在の経済状況に対する政府の公式見解を明確に打ち出した。これらの社説は、今月末に予定されている新たな「第15次五カ年計画」策定に向けた布石でもある。
各記事の署名は「鍾才文」となっており、これは中国共産党中央の経済・金融政策を統括する主要機関の意向を代弁するものとされる。すなわち、これらの論説は中共中央の公式立場を反映した極めて権威あるメッセージであり、妥協を許さない政治的宣言と位置づけられる。
4つの主要メッセージ
総文字数が1万字を超える今回の8本の社説は、大きく4つの要点に整理できる。
① 中国経済は極めて良好
その根拠として、『人民日報』は2024年の国際特許出願件数が70,160件に達し、米国を30%上回ったと紹介。これを「科技強国(テクノロジー強国)」への象徴的成果だと位置づけた。
② 経済の「強靭さ」を強調
社説では、アメリカの保護主義や国内消費の弱さといった課題を認めつつも、それらは「小さな波」に過ぎないと一蹴。そのうえで、習近平国家主席の言葉を引用し、「中国は小さな池ではなく、大海である」と述べた。この比喩が示すのは、中国の巨大な経済構造が外部の逆風にも耐えうるという主張である。
③ 世界経済の「安定の錨」
『人民日報』は、中国が単なる世界の成長エンジンにとどまらず、国際経済における政策の一貫性と巨大市場の確実性を提供していると主張する。これは裏を返せば、関税主義に傾くアメリカに対し、中国こそが秩序維持の責任を果たしている、という暗黙のメッセージでもある。
④ 「制度的優位性」が競争力の源泉
社説は、海外からの「国家補助による市場支配」との批判を否定し、中国の輸出成功は政治体制の統治能力、経済規模の優位性、そして国民の勤勉さに支えられていると強調する。さらに、「これは世界への貢献であり、脅威ではない」と断言した。
中国モデルの繁栄とその代償
『エコノミスト』は、『人民日報』の一連の社説は単なる政治的スローガンではなく、中国が一定の誇りを抱くに足る根拠を持っていると分析する。改革開放から40年以上にわたり、中国は驚異的な経済成長を遂げ、製造業からハイテク分野まで圧倒的な実力を築き上げた。トランプ政権下の第一次米中貿易戦争のころに比べれば、今の中国は対米圧力に対してはるかに強靭だ。北京は自らの道が正しいと確信しているが、その「確信」が現実の影を見えなくさせている。内部の脆弱性を「大国の成長過程における些細な波」とみなす姿勢は、あまりに傲慢であると同誌は指摘する。
長年にわたり、中国の不動産市場(広義には関連産業全体を含む)はGDPの約4分の1を占めてきた。しかし、現在の低迷は深刻かつ長期化しており、経済全体の重荷となっている。不動産不況は投資と成長を鈍化させ、家庭の資産価値を目減りさせることで消費意欲を冷え込ませた。最も即効性のある対策は、税制改革や社会保障の拡充によって可処分所得を増やすことだが、習近平国家主席は「福祉主義」を嫌い、財政刺激策を拒んでいる。それは彼が信じてやまない「中国の成長のバトンは、大規模投資からイノベーションへと渡った」という理念にも反してしまうからだ。
『エコノミスト』はさらに指摘する。中国の「イノベーション成果」はごく一部の企業や個人に集中しており、経済全体の底上げにはつながっていない。特許の件数は誇っても、それ自体が人々の生活を豊かにするわけではない。「特許申請では食べていけない」と皮肉るように。
世界が懸念するもう一つの問題は、中国が依然として「過剰生産」の現実を直視しようとしない点だ。米国の圧力を退けるためであれ、世界の主要産業の主導権を握るためであれ、自動車や太陽光パネルといった分野の供給過多は、投資偏重型経済モデルの副産物にほかならない。政府が消費を抑制する一方で供給を拡大すれば、当然ながら需給バランスは崩れる。海外企業が市場から締め出されることになっても、中国はほとんど同情を示さない。
さらに興味深いのは、中国がこの「過剰生産」をむしろ誇りとしている点である。社説では、中国は「世界で唯一、あらゆる産業分野を有する国」であり、「世界経済とサプライチェーンの最終的な保証者」であると自賛した。だが、『エコノミスト』は警鐘を鳴らす。確かにそれは「保証」かもしれないが、同時に「封鎖の権限」でもある――貿易戦争の際に北京がレアアースの供給を武器として米国に圧力をかけたように。
中国は「世界の安定勢力」としての地位をアピールしているが、実際のところ、その一挙手一投足は国際秩序の安定よりも、自国の影響力を固めることに向けられている。